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「スポーツ」をキーワードに共鳴。
サステナブルな未来を目指す企業の取り組み <前編>
ザ・ノース・フェイス事業部 西野美加さん × ソニー株式会社 鶴田健志さん

2024.01.25

今回は「SPORTS FIRST MAG」初の企業コラボレーションが実現!ソニー株式会社のサステナビリティ推進部門の部門長で、サブスリー(フルマラソン3時間切り)ランナーでもある鶴田健志さんをお招きし、ザ・ノース・フェイス事業部の西野美加さんとともに、スポーツが気づかせてくれた自然への思い、サステナビリティへの意識、メーカーとして考える“責任あるものづくり”など、さまざまにお話いただきました。スポーツというキーワードが促したコミュニケーションは互いの企業理念への共感を生み、今後、サステナブルな未来に向けた協働を育むかもしれません。

――まずはお二人が現在、どんな事業に関わっているか教えてください。

鶴田健志さん(以下、鶴田)
ソニー株式会社はテレビ、オーディオ機器やカメラの製造を担っていますが、最初はエンジニアとして半導体の設計などに携わっていました。’99年だったでしょうか、社内の募集を通じて環境活動に携わる部署が存在することを知り、もともと環境保全活動に興味があったことからこちらの部署に異動を希望したんです。現在は、再生プラスチックの導入や製品の消費電力削減といった環境負荷低減の活動とあらゆる人が利用しやすい製品づくりなど、アクセシビリティを高める取り組みを主に行う、サステナビリティ推進部門の部門長を務めています。

西野美加さん(以下、西野)
私は2010年に新卒でゴールドウインに入社しました。初めの5年間はハイテック事業部に所属し、クリーンルームなどで利用される防塵服などの設計を担当していました。その後、ザ・ノース・フェイス事業部のMDアシスタントの社内公募に応募し、2015年に異動。現在は同事業でライフスタイルアパレルの企画開発マネージャーをしています。

スポーツはコミュニケーションツール!

――お二人とも陸上部出身と伺っています。もともと走ることがお好きだったんですか?

西野
好きというか、同学年のなかでは足が速い方だったんです。それで小学校から高校まで陸上部に所属し、800m、1500m、3000m、駅伝をメインに走っていました。部活の練習がものすごく厳しかったから、その反動で高校卒業後は走ることから遠ざかってしまって。けれどもゴールドウインに入社して周りに感化されて山に行き始め、その延長でトレイルランニングを始めました。一時期はよくレースにも出ていたんですよ。最近はトレイルランニングよりもロードが多くて、自分のペースでのんびり走っています。鶴田さんも昔からスポーツに取り組まれているのですか?

鶴田
小学校高学年で野球を始めたのですが、中学校には野球部がなかったのでシニアリーグでプレイしていました。そのための体力作りとして、学校では陸上部に所属していたのですが、野球よりも走る方が楽しくなってしまって(笑)。というわけで、中学高校は陸上部で、主に中距離を走っていました。アウトドアに興味が湧いたのは、大学で探検サークルに所属したことがきっかけ。「トレイルランニング」という言葉がなかった時代に、山の中を走りまわっていましたね。社会人になってフルマラソンを走りたくなり、ランニングを再開。仕事が忙しくなってスポーツから離れていた時期もありますが、なにかしら身体を動かしていますね。現在はロードバイクにハマっています。

西野
ゴールドウインは社内の部活動が活発で、社員同士でさまざまなスポーツに取り組んでいますが、御社はいかがですか?

鶴田
プライベートでなにかを一緒に、という機会はあまりなく、スポーツを通じての出会いというと社外の方が多いんですよ。2008年から一時、上海に赴任していたのですが、その時は現地の日本人マラソンクラブに参加しまして、毎週のようにグループランを楽しんでいました。そのクラブには年齢も業種・職種もさまざまなメンバーが参加していて、ランニングという趣味を通じていろいろな価値観と出会えたことが新鮮でした。彼らとは現在も交流が続いていますが、スポーツを通じてコミュニケーションが広がっていくことを実感しました。

西野
スポーツがコミュニケーションのきっかけになる。すごくよくわかります!私も、入社してすぐに社内のサッカー部に誘われたのですが、それをきっかけに他部署のメンバーとコミュニケーションが取れるようになりました。スポーツをきっかけにつながると社歴を気にせずフラットな関係を築けるし、気が楽ですよね。先ごろ行われた「湘南国際マラソン」に参加した社員も多いんですが、その直後に行われた自社の展示会の準備は、まるで「湘南国際振り返りの会」(笑)。とても盛り上がりました。

鶴田
そういえば僕も、部署のメンバーを誘って河口湖マラソンに出場したことがありました。まだ入社3年目くらいだったかな。僕が20人ほどをとりまとめて、みんなで数年続けて参加しましたね。

アクティビティがもたらした、自然環境への気づき

――お二人とも、トレイルとロード、どちらの経験も豊富なランナーで、かつ、アウトドアアクティビティもお好きです。また、自然環境に対する業務に取り組んでいるという共通点もおもちです。スポーツと自然環境の接点について、お二人それぞれのエピソードを教えてください。

鶴田
特別なエピソードがあるというよりも、自然のフィールドを走ることが好きだったから、自ずと自然環境に意識が向くようになった……という感じでしょうか。たとえばトレイルランニングのレースでは、倒木や天候不順でコースが変わったりレースが中止になったり、あるいは自分自身が低体温症に陥りかかったり、少なからず自然の脅威を実感することがありますから。そういったことの積み重ねが環境への意識をもたらしたのだと思います。おもしろいもので、自然に意識が向くようになるとロードへの取り組み方も変わるんですよ。ロードのマラソン大会では給水が紙コップで、それがそのままゴミになります。一方、トレイルランニングのレースは水や補給食を持参し、ゴミも自分で持ち帰るのが普通ですから、そういうところが気になるようになりました。

西野
私の場合は、業務でガイドさんやアウトドア業界の方のリアルなお話に触れる機会が増えたことがきっかけでした。登山道のゴミ、気候変動による森林限界の植生の変化、生態系に及ぼす影響…… 。自分が自然のなかでまだ体験できていないことが、この先、もう体験できなくなるかもしれない。そういう危機感を、アウトドアを通して実感するようになりました。

鶴田
「リアルに実感する」ということは大切ですよね。2007年に「OSJハコネ50K」というレースに参加したんです。国立公園内での開催ということもあり、参加ランナーに向けて「環境へのダメージを最小限にするように」という呼びかけが事前になされ、自分たちもそれを心がけたつもりですが、結果的にそのレースの開催はそれきりになってしまいました。いくら自然に配慮しても、それで十分ということではないんですね。僕たちは自然のフィールドを一時的にお借りして、そこで楽しませてもらうわけですから、感謝の気持ちを忘れてはいけないということを実感させられました。

――そういったご自身の気づきを深めるために、意識的にしていることや習慣はありますか?

西野
サステナブルな取り組みとして、私自身もマイボトルやエコバックを持つようになりました。けれども、そうした取り組みが環境保全につながっているという手応えを感じづらく、個人でできることには限界もあるなと感じていました。 「私たち世代の行動が『悪』だったのかな」ってネガティブな思考に陥ることが多かったんですが、悪いことばかりを考えていても前に進めません。まずは現状に至ってしまった経緯を知り、この後の行動を変えていくしかないと発想を変え、知識を増やすために、環境情報誌『グローバルネット』(地球・人間環境フォーラム刊)などに目を通すようにしました。まずは現在の状況を知って、過剰に怖がったり、状況を悲観して悪いほうに偏ったりしないよう、冷静に考え、行動することが大切だと気づいたんです。

最近は『野生哲学』という本を読んだのですが、そこに登場するアメリカ・インディアンの「イロコイ族の7世代の掟」――自分の7世代先、つまり100、200年後の地球・世界のことを考える――が素敵だなと思っています。アパレルの企画という仕事を通じ、このような考え方をベースに製品づくりに向き合うことが、自分が地球にできる最大の環境アクションだなと思っています。

鶴田
そうですね、自分が地球環境に対して行える最大の貢献は、会社を通してインパクトを与えることだと思っています。ソニーはそれなりに規模の大きい会社だし、ブランド力もありますから、ここでしっかり環境保全活動を推進して世の中に発信することで、社会の変革に寄与したいですね。

――それに対する具体的な取り組みを教えてください。

鶴田
2010年、ソニーグループは他社に先駆け、「2050年までに(全社の事業活動および製品のライフサイクルを通した)環境負荷をゼロにする」というグローバルな目標を掲げ、そこに至る道筋を長期環境計画「Road to Zero」として発表しました。また、それを実現するための中期目標として「Green Management 2025」を定め、製品の省エネ化、再生可能エネルギーの導入加速、サプライチェーンとの協業、プラスチック使用量の削減など、さまざまな取り組みを行っています。プラスチック使用量については、たとえば包装材については紙製緩衝材を開発するなどして、1kg未満の小型製品の包装材のプラスチック使用量はほぼゼロに。また、製品についてはできる限りバージンプラスチックをリサイクルプラスチックで代替するようにしています。

西野
ゴールドウインでは「PLAY EARTH 2030」を策定し、事業と環境、2つの領域でサステナビリティを追求しています。具体的には、環境負荷低減素材を使用した製品の比率を90%に高める、全ての事業所でのカーボンニュートラルを実現する、などです。環境負荷低減素材ではリサイクルポリエステルや、人工たんぱく質素材「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン)繊維」の活用、またリサイクルが難しいナイロンの再生にも取り組んでいます。資源の循環をめざして不要になったウエアの回収を進め、リペアサービスを充実させて製品のライフサイクルの延伸にも取り組んでいます。一方で、クオリティと環境配慮の両立の難しさを実感しています。アウトドアのフィールドでの利用を考えると、環境のためとはいえ、命を守る必要のある製品 のクオリティを損なうわけにはいきませんから。

クオリティか、サステナビリティか

――メーカーにとってクオリティと環境配慮の両立は永遠の課題かもしれません。それに対してはどうお考えですか?

鶴田
メーカーとしてはどちらも妥協できないですよね。ですから僕たちも日々、そのバランスに苦労しています。先ほど、再生プラスチックを導入しているといいましたが、そもそも電気製品におけるプラスチックの採用には、かなりの知見、経験が問われるんですよ。一つの製品に再生材を導入しようと思ったら、開発に年単位の月日が必要です。実はソニーは、昔から再生材導入に取り組んできた歴史があり、だからこそその導入が可能になったのです。とはいえ、苦労して再生材を使える技術を構築してもそもそも再生材を供給してくれるサプライヤーが見つからないとか、せっかく再生材を導入しても世の中に広くアピールできないとか、さまざまな課題がありました。

――「アピールできなかった」というのは何か事情があったのでしょうか?

鶴田
当時は現在ほどリサイクルへの意識が醸成されていませんでしたから、高額な製品に廃棄物から再生した素材を使う事への反発がありました。潮目が変わったのは2020年後半ごろでしょうか。消費者の意識の変化とともにマーケットも大きく変わり、再生材やそれにまつわる取り組みを応援してくれる人がぐんと増えました。現在では積極的に再生材を使った製品が求められますし、再生材を何%使っているのかまで意識されるようになっています。たとえば、(私物のワイヤレス型ヘッドホンを取り出して)これは本体とケースの樹脂に、市場で回収したウォーターサーバーボトルから生成した再生材を使っています。異なる再生材を配合することで、このようなマーブル柄になるのですが、再生材由来ということがわかるよう、一つひとつ異なる柄になるよう製造しました。それがとても好評なんですよ。ほんの数年前には考えられなかった現象です。

西野
確かにそうですね!私たちも「資源の循環」や「リサイクルポリエステル」を打ち出していましたが、当初はまったく 反応がなかった(笑)。アウトドア業界では海外での市場の影響を受け、国内の他の業種よりも少し早いタイミングでリサイクル材への意識が高まったように思いますが、ユーザーから好意的な反応をいただけるようになったのは2019年後半あたりだったでしょうか。

対談の後編では、両社それぞれの取り組みをより深くお話しいただきます。

※Brewed Protein™は、日本およびその他の国におけるSpiber株式会社の商標または登録商標です。

(写真 古谷勝 / 文 倉石綾子 )

  1. 鶴田健志(つるた・たけし)
    神奈川県横浜市出身。1991年ソニー株式会社入社。システムLSIの設計業務に従事後、99年より社会環境部にてソニーグループの環境方針・目標策定の企画業務、環境コミュニケーション業務などに携わる。現在はサステナビリティ推進部門の部門長を務める。中学高校と陸上部に所属した俊足で、「第1回東京マラソン」でもサブスリー(3時間切り)達成。また、トレイルランニング黎明期から山を駆け回っていた。現在もランニング、ロードバイクなどに取り組む。
  1. 西野美加(にしの・みか)
    富山県富山市出身。小学校高学年でランニングをスタート。中学、高校時代も陸上部に所属し800m、1500m、3000m、駅伝を主戦場に活躍。高校を卒業後、一時期スポーツから離れるも、2010年のゴールドウイン入社をきっかけに、社内メンバーとランニングを再開。トレイルランニングにものめり込み、さまざまなレースで完走を果たす。ザ・ノース・フェイス事業部でライフスタイルアパレルの企画開発マネージャーを務める現在は、ロードを中心に自分のペースでのんびりとランニングを楽しんでいる。

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