PEOPLE

いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

弓道を通じて知った 己と向き合う喜び 橋本法子

2023.12.20

襷掛けをした綺麗な立ち姿。
ぴんと張り詰めた空気の中で、弓を引分ける。
橋本法子さんが本格的に弓道をはじめて、4年になる。
ひゅっという軽やかな音とともに矢が放たれる。
いま彼女が熱中しているスポーツ、いや武道だ。

橋本さんがゴールドウインに入社したのは、2019年のこと。入社当時から「品質保証部 品質管理グループ 試験チーム」に所属している。一般的にはあまり馴染みのない部署かもしれない。製品になる前の各種素材の試験をおこなっている部署だ。

決まった量の水を流して、しっかり弾いているかを確認するはっ水試験。洗濯に対する耐久性も試す。どの程度の力を加えると生地が破れるのかをチェックする引き裂き試験などなど、テクニカルウェアを多く手がける会社ということもあり、驚くほどたくさんの試験がある。橋本さんの仕事場には一般にはあまり目にすることのない試験機器が、ズラリと並んでいる。

もともとは繊維の検査協会に勤めていた。やること自体は現在とそこまで変わらないが、橋本さんにとっては大きな違いがあるという。

「検査協会は当然ながら検査して終わり、なんです。それはそれで素晴らしい仕事だったんですが、自分の性格的に、その検査結果を具体的にフィードバックできるような仕事に就きたいと思ったのが転職の動機です」

ときにはマイクロスコープを使って拡大し、生地の組織をみることで、ユーザーから届いたクレーム品の原因を探り改善点を提示したりもする。

「クレームという言い方はあまり好きではないんです。お客さまからしたら、そのアイテムやブランドに愛着があるからこそ、アクションを起こしてくれているはずですから。そこにはしっかりと応えていきたいです。答えを出すだけではなくて、自分の試験結果をもとに品質の改善がおこなわれたりするところに、すごくやりがいを感じます」

ゴールドウインへの入社が決まり、東京から富山へ。そのタイミングで、小矢部にある弓道会に入った。

「東京に居た時に、興味があって弓道体験に参加したことがあったんですが、道場までの距離が遠かったこともあって、仕事との両立が難しくて続かなかったんです。でも、富山の会社から近いこともあって、またやってみようかなと思って」

現在は週3回ほど弓道場に足を運んでいる。弓道を通じてさまざまな知り合いもできた。

「生涯スポーツということもあって、小矢部の弓道会には、さまざまな年代の方がいるんです。まったく知らない土地に来ることには、やはり不安があったので、弓道というものを通じて地域のコミュニティーに入れたことは、すごく助けになりました。富山弁もだいぶ覚えてきましたよ(笑)」

「橋本さんにとって弓道の魅力は?」という質問をすると即座に「対、自分というところ」と答える。

「中学、高校とバドミントンをやっていたんですが、ある大会で試合前にひどい捻挫をしてしまったことがあったんです。『これは負けるなあ』と半ば諦めていたんですが、たまたま対戦相手が超のつく初心者で勝ててしまった。そのときに『あれ?』と思ったんです。相手がいるスポーツって、とうぜん誰かと比較して勝ち負けが決まるわけですよね。その原因が自分のこともあれば、さっき話したように相手の状態のこともある。そこに少し違和感があったんです」

それに対して、弓道は完全に自分と的だけ。そのシンプルな構図が橋本さんの性格にピタッとはまった。

「中(あた)る時も中らない時も全部、原因は自分にある。いまの仕事も対、自分の要素が強いと思って取り組んでいます」

弓道場には「礼記射義」という一文が掲げられている。短い文章ながら、そこには「己」という言葉がたびたび出てくる。

弓道では的中することだけでなく、入場から退場までの一連の所作も大切にする。数多く中てたから名人、という世界ではない。意外だったのは昇段審査の内容は初めて受審する人でも最高段位でもほとんど変わらないこと。決められたことの精度を上げていくので、人それぞれ速度は違うかもしれないが、確実に成長していく。運などに左右される要素もほとんどない。

「たとえば、練習で6本引いて6本中ったとします。的中率は100%ですよね。さらに6本引いたら1本も中らなかったとします。的中率で言えば下がったんですけど、所作が綺麗にできたりすれば、その失敗した6本にも大きな意味があると思うんです」

そういうふうに物事の違う側面を見れば、良いところが必ずある。もともとポジティブな性格だったが、弓道をはじめてから、前向きなとらえかたをより強く意識するようになったという。実はいま、壁にぶつかっていて、なかなか昇段審査に受からない状況。そんな中でもポジティブさは失わない。
「ダメなところを省みるのはもちろん大切なことです。でもそれだけではなくて『今回の審査ではここが前より良くなった』ということも意識するようにしています」
それは仕事でも同様。なにかを継続する上で、欠かせない考え方だ。

「的に中てるのが目的だとしても、その過程も大切にしていく。そしてその過程には、いろんな道筋がある。弓道から学んでいるそういう考え方は、仕事への取り組み方にも良い影響を与えてくれていると思います」

過程を大切にしているから、いつまでに何段になりたいとか、大会で好成績を収めたいという目標とは無縁のようだ。

「大切にしているのは昨日の自分より良くなる、ということです」

仕事も弓道も「対、自分」。そういう地に足のついたシンプルさが、橋本さんの原動力。

静かに集中する眼差しは、マイクロスコープを覗く時も、いま弓を引いている時も変わらない。仕事も弓道も直向きに取り組んでいる何よりの証拠だ。

放たれた矢は、まっすぐに的に向かって飛んでいく。

(写真 古谷勝 / 文 櫻井 卓)

  1. 橋本法子(はしもと・のりこ)
    埼玉県出身。2019年に入社し、品質の試験やユーザークレーム調査をおこなっている。弓道との出会いは2016年のこと。仕事との両立が難しく一度は離れてしまうも、ゴールドウインに転職することをきっかけに、なにかスポーツをしようと思い再開。大会をめざすというよりは、ライフスポーツとして取り組んでいる。

RECOMMEND POSTS

RELATED SPORTS