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ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

自分で作ったスノーボードで雪山へ 千葉亜紀子

2022.01.31

豪雪地帯として知られている新潟県、中越地方。内陸部に数多くのスキー場を有し、毎冬、降雪のあとにはスノースポーツ愛好家の約束の地となる。

「冬が近づくにつれ、いつ雪が降るんだろう、いつ滑れるんだろうとワクワクしながら過ごしています。スノーボードをしていることで、季節をすごく感じるようになりました」

そう語るのは、〈Goldwin THE NORTH FACE神田店〉で店長を務める千葉亜紀子さん。スノーボード歴は20年以上、バックカントリーでもライドを楽しむ彼女は、中越のフィールドに足繁く通っている。面白いのはそれがただ「滑る」ためではないということ。最近はスノーボードを「作る」ことに夢中なのだという。

自作スノーボードという未知の世界

スノーボードをハンドメイドできるとは、にわかには想像できない。

「私もスノーボードが作れるものだなんて思いもしませんでした。それがどんな工程で生み出されるのか気に留めたことすらありません。でも、作れると聞いちゃったら、作ってみたくなりますよね」そう言って笑う千葉さんは、洋服作りを学んでいたこともあり、手作りにかける想いは人一倍だ。

千葉さんをスノーボード作りに誘ったのは、南魚沼に拠点を構えるガレージブランド〈VOLTAGE design〉の永井拓三(たくみ)さん。山岳ガイドであり、雪氷科学の研究者であり、南魚沼市の市議会議員でもあるマルチ・アクティビストは、千葉さんのバックカントリースノーボードの師匠でもある。

彼が2021年春に立ち上げたブランドの工房は、新潟の豪雪地帯らしく建物の1F部分にある駐車場。訪ねてみると、果たして文字通りのガレージブランドだった。所狭しと並ぶ板や工具は、整然と並んでいるようでもあり、雑多に置かれているようにも見える。そこにはモノづくりへの情熱が漂う。

この地の雪に魅了され、移住してきた永井さんにとって、地元に根付いたスノーボード製作はかねてからの宿願だった。板には地元産の木材を使用し、切り出しは地元の建具店の協力のもと行われている。完成した板でこの地を滑れば、スノーボードの“地産地消”が実現する。

板をつくることで、自然への想いを強める

スノーボード歴は20年を超え、バックカントリーを愛する千葉さんにとって、スノーボードを自作する体験はこのスポーツへの理解をより深めるきっかけとなったようだ。

「いままではスノーボードがどう作られるのか興味すら無かったのですが、実際に作る工程を体験すると、板への興味がすごく沸いてきました。素材や、板の厚みなど知れば知るほど面白い。木のぬくもりも感じますし、それがいつも滑っているこのフィールドの木からできているという繋がりに愛着を覚えます」

20代のときに旅行で訪れたカナダ・ウィスラーに衝撃を受け、その後住むにまで至った千葉さん。スノーボードの聖地と称される環境で過ごした日々で、自然と共にあるライフスタイルに魅了された。アクティブに自然へと挑戦する人を応援したいと、ゴールドウインに入社し、今は〈Goldwin THE NORTH FACE 神田〉で店長の任に就く。

同時に、フィールドスポーツであるスノーボードを長く楽しむうちに、自然環境に対して自分ができることは何かを模索するようになった。自身が自然と向き合うきっかけをくれた雪山を入り口に、多くの人に自然に対する愛情を深めてほしいと考えている。

「板を自作することで、素材や環境について想いを馳せ、自分に何ができるかと前以上に考えるようになりました。店頭での日々の接客の中で、何が提案できるだろうかと。たとえば、ここ(VOLTAGE design)のようなワークショップを紹介して、自作を経験し物への愛着を深めてもらうのものそのひとつ。お店単位では、雪山を体験できるような取り組みを進めていきたい。必ずしもスキーやスノーボードでなくても、雪山に行くだけでいいと思うんです」

千葉さんがバックカントリーで追い求めている、美しい景色やロケーションに心打たれる瞬間。普段雪山に縁がない人にとっては、雪原に立つだけでも心打たれることもあるだろう。自然に触れたその感動が、環境意識を高めることを知っている千葉さんだからこその提案だ。

透明感あるブルーは「雪の青さ」を表現

仕上がった千葉さんの自作スノーボードは、透けるようなブルーが美しい。よく目を凝らすとそこにうっすらと木目が浮かんでいるのが印象的だ。大量生産の工業製品にはないぬくもりと、はっきりとした用途をあてがわれた道具としての凛とした佇まいに目を奪われる。

「テント泊をしながら5日も6日もかけて理想の斜面を探していくような、そんなスノーボード旅ができる板にしたかったんです。バックカントリーの荒れた雪面で、重い荷物を背負っていても負けない強い板に」

印象的なブルーカラーは、雪の青をイメージしたものだという。

「技術的に透ける青に仕上げるのは難しいのですが、カラーは青にしたいとわがままを言ってお願いしました。雪の青さを表現したかったんです。雪の塊の内側は青く見えるんです。氷河がそうであるように」

雪の本当の色を知る人が想いを込めて作り上げたスノーボード。この板で、千葉さんはどんな旅をしていくのだろう。そしてどんな言葉でそれを人々に伝えていくのだろう。工房の外は夜になっても雪が降り続き、スノーボーダーをなおも歓迎しているように見えた。

(写真 林 拓郎 / 文 小俣雄風太)

取材協力/VOLTAGE design

  1. 千葉亜紀子(ちば・あきこ)
    埼玉県出身。旅行で訪れたカナダ・ウィスラーでアクティビティと自然とが密接なライフスタイルに触れ、その後ワーキングホリデーで再訪、現地でスノーボードを満喫する。バックカントリーでのスノーボーディングを楽しむ傍ら、〈Goldwin THE NORTH FACE神田店〉では店長を務める。スノーボード歴は20年以上(!)。

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