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いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

黒潮の流れのなかで生きていく 扇勇太郎

2023.11.20

コロナ禍での再注目をきっかけに、何度目かの一大釣りブームが到来している。現在、釣り人口は約560万人(2021年度調べ)、公益財団法人日本生産性本部が発表する「レジャー白書2021」によれば、ゴルフ・登山・スキー・スノーボード・キャンプをおさえて、釣りは2年連続(2019、2020年)1位の座に輝いた。渓流、磯、堤防釣りにルアー、フライと、さまざまなジャンルが確立しているが、若い世代の間で密かにブームになっているのがフカセ釣りだ。3ヶ月前に〈THE NORTH FACE+ アミュプラザ長崎店〉に赴任した扇勇太郎さんも、フカセ釣りにどっぷりハマっているひとり。

「子どものころから魚を観察することが大好きでした。実家に近い日本海で船に乗っては、アジの群れを眺めていました。親にねだって買ってもらった、上野動物園の『世界の鯨ポスター』は宝物で、現在も自宅に飾ってあるほど。

南洋の魚たちに興味をもつようになったのは、高校の修学旅行で出かけた、沖縄・伊江島の民泊滞在がきっかけです。というのも、日本海とは、魚種もその数もまったく違っていたからです。前職の同僚に沖縄出身の画家がいて、有給を使って彼と一緒に沖縄の島巡りをするうち、沖縄に移住したい気持ちが募りました。それで、現地に店舗を構えるゴールドウインに転職したんです」

YouTubeで知ったフカセ釣り

入社して配属されたのは石垣島の店舗。住まいは海からわずか50mほどという恵まれたロケーションにあった。そこで、「外食を控えるため」という理由で釣りを始める。

「自宅の目の前でサビキ釣りをしていましたが、当初はまったく釣れませんでした。そのうち、ミニバイクに釣り道具を積んで、島内各所のスポットに出かけるようになって、経験を積んでだんだん釣れるようになっていきました」

本格的な沼に足を踏み入れたのは、シマノのインストラクター、平沢卓也さんの動画で知ったフカセ釣りがきっかけだ。フカセ釣りとは、潮の流れに軽い仕掛けを乗せ、さし餌と撒き餌を同調させながら魚を釣る手法のこと。潮が速い、波が強い、風が強い、さまざまな条件のもと、海底から海面までのコンディションを見極めながら、狙いたい魚の目の前に餌を持っていき、針を食わせる。日本発祥の釣法で、始まりは江戸時代と言われている。徳島の阿波釣法や庄内藩の磯釣りなどがルーツになっているという説も。

「シンプルで、だからこそ難しくておもしろい」というフカセ釣りを、扇さんが案内してくれるという。向かったのは、長崎市西部の神の島町、マリア観音に至近の堤防。ここで、まずは撒き餌の準備から始める。

「エサは釣果を左右します。オキアミと配合エサを自分でブレンドしたもので、狙いたい魚種やポイント、潮の流れによって配合するエサを変えています。臭うから嫌がられますが、だんだん好きになってきちゃうんですよ。今日の狙いはチヌ(クロダイ)ですが、彼らは気分によって食うものが違うので、複数のエサを混ぜ合わせ、その日の気分を探っていきます」

エサの準備が終わったら、堤防から海の様子を探る。水温は、潮の流れは、海の反応は。表層にはどんな魚種がいるのか、狙いの魚はどの水深にいるのか。それを自分の目で見極める。眼力はもちろん、魚たちの生態に関する知識も必要なのだ。

いよいよ撒き餌を投入する。さし餌の沈下スピードは撒き餌のそれより速いので、仕掛けを投入する前に撒き餌を1、2度、投げ入れる。もしくは、撒き餌したポイントより少し遠方に仕掛けを投げ、撒き餌した付近までウキを引き寄せる。そうすると撒き餌とさし餌を同調させることができる。

「撒き餌の沈み方から潮の流れや動き、表層を泳ぐアジの群れの動きを読み、目指す魚種がいる水面下の動きを予測します。エサやウキの浮力も含め、そうした予測が状況とマッチすれば釣れるし、外れていたら釣れない。釣りって、その日の最適解を探っていく作業なんだと思います」

その後、ベラや小さなタイ、ハイゴを釣るものの、目当てのチヌはヒットせず。釣れた魚を見てさらにエサやウキ、竿の選びを調整する。このように手間が多いフカセ釣りは、“年配者がやる釣り”というイメージが強いという。

「道具が多いわ、お金はかかるわ、仕掛けも釣り方も面倒だわ、エサは前日から仕込まなくちゃいけないわ……。いろいろな釣りを経験してたどり着いたという釣り人が多いかもしれません。確かに手間は多いんです。竿、リール、ウキ、オモリのチョイスにはじまり、エサだって何十種もの配合エサを魚種にあわせてブレンドします。仕掛けの組み合わせは無限にあって、そのなかから現在の状況にぴったりの仕掛けを選択する。そこに自分の技術や経験が問われるから、奥が深くてやめられない」

いまはフカセ釣りに夢中だが、最終的には延べ竿(ラインを通すガイドやリールシートのついていないロッドのこと。竿に直接、糸を結び、魚がかかったら延べ竿の曲がりと上下動だけで釣り上げる)で釣りをしたい、と扇さん。どんどん削ぎ落としていって、可能なかぎりミニマルに。

「装備も生き方も、釣りキチ三平に寄せていくのが僕の理想なんです」

いつかVMDとして関わりたい、知床のフィールドショップ

オフではほとんどの時間を釣りに費やす扇さんだが、オンでは敏腕VMDという顔をもつ。地域柄、〈THE NORTH FACE+ アミュプラザ長崎店〉は釣り人の来店も多いそうで、アングラーのコーナーが充実している。扇さんにぴったりの職場環境と言えそうだ。

「売り場というフィルターを通してフィールドの魅力を提案するのがVMDの役割です。石垣の店舗では、コンセプトもビジュアルも釣りの視点を取り入れた提案を行っていました。それとはニーズは異なりますが、長崎の店舗でもお客さまのニーズに応える以上の提案を続けていきたいと思っています」

〈THE NORTH FACE+ アミュプラザ長崎店〉は新たにオープンしたアミュプラザ新館へと移転リニューアルオープンしたばかり。こちらでは、キャンプ・シーンを軸にライフスタイル全般を網羅した店づくりを考えており、より多角的な視点での提案が可能になりそうだ。

その先に見据える目標は、国立公園内に構えるフィールドショップに携わること。現在は知床国立公園内の「THE NORTH FACE/HELLY HANSEN知床」西表石垣国立公園の「THE NORTH FACE/HELLY HANSEN石垣」などを展開しているが、フィールドと店舗の距離が近いことから、各店舗にはコンシェルジュとしても機能できるアクティビティに精通したスタッフが配属されている。季節ごとの各種ワークショップや環境保全啓発イベントなどの開催にも積極的だ。そのような、アクティビティとライフスタイルが一体となった店づくりを魅力に感じるそう。

“黒潮の申し子”を追いかけて

一方、釣り人としての夢は、60cmアップのグレ(メジナ、あるいはクロ)を釣ること。釣り方が厄介なので、市場に流通することはほとんどないが、多くの磯釣り師のターゲットになっている魚だ。“黒潮の申し子”と呼ばれる通り、黒潮北側とその分流に沿って分布している。

「釣り人にとって長崎は魅力的なロケーションですから、今回の異動も二つ返事で受けました。これが福岡店だったら断っていたと思います(笑)。なぜ長崎がいいのか。それは黒潮のおかげです。石垣島にいたとき、2週間の休暇をいただいたので与那国島へフィッシュトリップに出かけたんです。与那国島は黒潮の起点なのですが、ここで黒潮の存在の大きさを実感しました。絶え間なく流れる潮のおかげで、いつも餌が豊富。水温が極端に変わることなく、季節ごとに安定している。だから、黒潮の流れるところにはさまざまな海のいきものが棲みついています」

黒潮の環境に引き寄せられる魚のように、この先もずっと、黒潮が流れる地域で生きていきたい、と扇さん。黒潮に沿って北上して、最終的に知床に居着くのもいいかもしれない。

「というわけで、転勤する場合も黒潮が必須条件なんです(笑)」

(写真 田邊信彦 / 文 倉石綾子)

  1. 扇勇太郎(おうぎ・ゆうたろう)
    1990年新潟県三条市生まれ。小学校から高校まではサッカーに明け暮れる。東京の専門学校に進学し、卒業後はアパレル業界へ。イベント企画や商業施設のVMDの企画営業を経験したのち、VMDとしてゴールドウインに入社。石垣島の「THE NORTH FACE/HELLY HANSEN石垣」を経て、今夏より〈THE NORTH FACE+ アミュプラザ長崎店〉勤務。この秋、移転オープンしたばかりの同店は、キャンプをコンセプトに品揃えも提案もパワーアップ。VMDとして魅力的な店づくりに奮闘している。プライベートでは石垣島ではじめた釣りにハマり、オフのほとんどを磯もしくは堤防で過ごす。いまの狙いは、“オナガグレのパラダイス”こと、高知もしくは沖ノ島へミニバイクで釣りに行くこと。

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