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祝、〈FUJI〉完走!臆せず挑んで打ち破った100マイルの壁 小林達郎

2023.05.31

4年ぶりとなる海外選手の参加も含め、過去最多となるランナーが参加した〈ULTRA TRAIL Mt.FUJI 2023(以下、FUJI)〉。スタート地点の富士山こどもの国から富士急ハイランドのゴールまで、総距離165.3km・累積獲得高度7,574mを富士山麓の林道、歩道、登山道をつないで走るというものだ。初100マイルのレースとして〈FUJI〉に挑戦したのが、ゴールドウインテックラボに勤務する小林達郎さん。ゴールドウイン入社と同時に登山を始め、それを皮切りにトレイルを走るようになったという小林さん、トレイルランニングを始めてすぐに目標に掲げたゴールが、〈FUJI〉と同時開催されていたハーフコースの〈STY〉完走。

「ハーフコースといってもトータル80km超、累積獲得標高5,000m弱を誇る難レースでしたが、その後、〈STY〉カテゴリーが廃止になってしまったので、さらに難度の高い100マイルの〈FUJI〉へと目標を変更しました。当時の自分にとって100マイルは想像さえできないような大きな壁でしたから、5年をかけて30km、60km、100km、100km超と少しずつレースの距離を伸ばし、100マイル完走に向けた準備を行ってきたんです」

開催1ヶ月前にはコンディショニングを兼ねて短めのレースを2本こなし、1週間前からは消化のよいものを多く摂る、意識的にゆっくり過ごすなど、体調維持に努めてきた。前日は早めに就寝し、睡眠をしっかり確保したという小林さんは、リラックスした表情で第2ウェーブの出走エリアに向かった。


「天候は3日間を通して晴れ〜曇りで、気温も高めの予報。暑さ対策が必要になると感じ、レインジャケットは軽量なものに、着替えも薄手のものにチェンジしました。また、体温の維持と気分転換を考えて全エイドで着替えを用意しています」

小林さんの作戦は、約40kmごとに着替えや食事、休憩・仮眠をとってリフレッシュを図り、40kmのレースを4本行う感覚で100マイルを乗り切ろうというもの。今回は同じ職場に勤める山仲間がエイドサポートについてくれ、温かい食事の提供や仮眠する環境の設えも任せられることになった。小林さんにとって初めてのエイドサポートだが、これをうまく活用できるかどうかもレースマネジメントを左右しそうだ。

絶好のレース日和ともいえる晴天のなか、富士山の雄大な山容に見守られて各ウェーブで出走スタート。「富士宮までのロードの緩やかな下りが気持ちよく、ついついオーバーペース気味になってしまいました」といい、前半は予想以上のハイペースを維持。事前に立てたスケジュールより2時間ほど巻いて走ることができた。


それでは小林さんのレースを振り返ってみよう。

食べて、着替えて、長丁場は気分転換で乗り切る

事前に準備してよかったことは?と問うと、補給食のアップデート、と小林さん。これまでの経験から、長距離ではどうしても胃腸がやられ、固形食はもちろん、ジェルさえも取りづらくなることがわかっている。そこで、固形食よりも口にいれやすく、脂質が少なくて消化に負担のかからないインスタントのおかゆや雑炊をエイドに用意したのだが、これがかなり効果的だった。

「3月に走ったレースでたまご粥が出たのですが、これが自分にはすごく合っていたので、今回試してみようと思いました。案の定、途中でジェルをとれなくなったので後半のエイドで粥や雑炊を作ってもらい口にしましたが、温かいものを胃に入れたことで再び固形物が取れるようになった。ジェルよりもパワーになるし、なによりも気分がしゃきっとして生き返った心地になります。あらためて食べることの大切さを実感するとともに、前半のエイドでもしっかり食べるべきだったと反省しました」


また、全エイドに着替えを用意しておいたことも役立った。寒暖差の大きいレースのなかで身体の熱を保つというだけでなく、着替えてさっぱりすることでリフレッシュできたから、気分転換という意味でも効果的だったようだ。

サポーターとはあうんの呼吸で

レースを支えてくれた3人のサポーターとの連携もスムーズだった。

「サポートについてくれたのは、レース経験の長いトレイルランナーの夫婦と、『サポートしたい』と自ら申し出てくれた、山行を共にする仲間の3名。それぞれがフィールドで積み重ねてきた経験があり、職場が同じで付き合いが深く、レースのこと、山のこと、自分のことをよく理解してくれています。だからエイドでも、かゆいところに手が届くようなサポートを受けられました」

彼らとは事前に2回の打ち合わせを行ったほか、同僚という立場を利用して、職場で顔を合わせた際には気がついたことをこまめに共有していたとか。

「実は2夜をまたぐ長丁場ということもあり、サポーターには『無理はしてほしくない』と伝え、サポーターなしでも走れる体制を整えていました。それでも彼らはエイドで待っていてくれ、それが大きな励みになりました。着替えや食事を予め用意してくれるので、休憩時間の大幅な短縮にもつながりましたし、エイドに持ち込んだシュラフでしっかり仮眠をとっても時間になったら起こしてもらえる。安心感がありましたね」

サポーターとのやりとりで活躍したのが、スマホのGPS機能を活用した位置情報アプリ。スマホのバッテリーは消耗するが、それに見合うだけの効果があったとか。今回は3分に一度、位置情報を更新してくれるYAMAPの見守り機能を使ったが、小林さんがエイドに到着する時間を逆算できるからサポーターの無駄な待ち時間がなくなるし、ランナーの夜間の安全を確保するという意味でも有益だ。実は取材チームからは、軽くコンパクトでバッテリーが長持ちするAirTagを携行してもらったのだが、こちらは山中ではうまく機能しなかった。

「エイドサポートをつけるランナーにはぜひ、こういったアプリの活用をお勧めします」

今後の課題は睡眠マネジメント

一方、これからの課題と感じたのは睡眠の取り方。予想していたとはいえ、2日目以降は想像以上の眠さに襲われた。

「初日は麓で10分ほど、富士急ハイランドで20分ほどの仮眠をとりましたが、2日目はまったく眠気が取れず、道端で30分ほど眠り込んだほど。2晩目は眠さからか心拍をあげることができず、出力不足に陥りました。2日目の夕方、富士吉田のエイドでしっかり仮眠をとり、温かいものを口に入れたらかなり回復できたのです。たとえば1晩目の早いタイミングで30分程度の仮眠を取る、カフェインを多めに摂取する。もしくは1日1回、長めに眠るなど、自分に合った睡眠マネジメントを今後、アップデートしていきたいと思っています」

そんな小林さんのレースは、後半にガクッとペースが落ち、ガレ場で転倒して唇を切るなどのアクシデントはありつつも、大きなトラブルに見舞われることもなく24日の朝5時38分にゴール。淡々と走り続け、初の100マイルレースで見事、完走を果たした。

「淡々と走り続けた」とはいえ40時間という長丁場、辛くないわけがない。実際、レース直後には「100マイルはもういいや」と感じたほど、レースは苦しかった。そんな100マイルを振り返って感じたのは、5年の間に多くのレースに参加して培った経験が随所に生きたということだった。

来年の〈FUJI〉を目指すランナーたちへ

トレイルランニングを始めた5年前は夢物語のように感じていた“100マイラー”という称号。長距離のカテゴリーの中でも100マイルという距離が醸し出す威圧感は凄まじかったというが、これを目標に定め、練習を重ねて距離を伸ばしていくうちに、「夢物語」から「いつか乗り越えられる壁」へと変わったという。

「実際に走ってみると160kmはとんでもなく長く険しいのですが、完走できたことでそのハードルが下がったという実感があります。どんなに大きな目標でも少しずつ詰めていくことで、いつか自分のものにできる。〈FUJI〉でそんな手応えを感じられたことは大きな収穫でした。だから初挑戦のランナーも臆せず挑み、160kmの旅を楽しんでほしい。スタート前は不安だらけでも、いざ走り出すと最高に楽しいから。〈FUJI〉はトレイル好きの誰もが楽しめる舞台なんだと思います」

トレイルランニングを始めた当初は、トレイルレースを卒業できる目安として〈FUJI〉完走を掲げていた小林さんだが、6月には100マイルの〈DEEP JAPAN ULTRA〉が控えており、10月には70kmの〈ハセツネCUP〉の出走を予定している。果たして来年の〈FUJI〉は……?

「ゴール直後は、『もういいや』と感じていましたが、いまはまたトレーニングを積んで、来年も挑戦してみようかな、そんな気分になっています」

〈FUJI〉の舞台にはトレイルランナーを惹きつけて離さない、不思議な力が宿っている。

(写真 古谷勝/ 文 倉石綾子)

  1. 小林達郎(こばやし・たつろう)
    1988年、東京都生まれ。ゴールドウインテックラボ商品研究部でパタンナーとして商品開発に携わる。ランニング歴は約5年。入社と同時に富山県界隈の山を歩くようになり、トレイルランニングに開眼。レース経歴:五箇山・道宗道トレイルラン、奥三河パワートレイル、伊豆トレイルジャーニー、FunTrails Round 秩父&奥武蔵100k、OSJ KAMI 100、ハセツネ30Kなど。

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