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札幌発、スノーアクティビティが中心にあるライフスタイル〈後編〉 松田優樹

2023.02.27

〈THE NORTH FACE + 札幌ファクトリー店〉のスタッフ、松田優樹さんと尾関大輔さんは良き山仲間。休みの日はいつもバックカントリーを滑っているという2人、この日はおなじみの尻別岳へ向かった。標高1,109メートル、ルスツリゾートスキー場の北側に位置する独立峰はバックカントリースキーヤーやヘリスキーヤーで賑わう。トド松の美しい林を抜け、ほぼ直登のキツイ斜面をスキー&スノーシューを履いた2人はぐんぐんと進んでいく。さらに山頂に至る細い屋根に取り付いた先でようやくドロップイン。

今日は撮影のため、国内外のプロスノーボーダーを撮り続けるフォトグラファーの中田奨さんとフリースタイルスキーヤーの石川寛文さんが帯同してくれた。スノーアクティビティのプロフェッショナルの存在は、ふたりにとって大きなモチベーションになったよう。

「2人で連れ立ってしょっちゅう出かける尻別岳ですが、今日は中田さんのナビゲートによって僕たちにはなじみのないルートからアクセスすることができました。同じ山でもそこには異なる景色、異なるフィーリングがあって、それがとても新鮮」(尾関・トップ写真右)

「滑りはもちろん、ハイクでも学ぶことが多かった。うまい人と滑ることが何よりも刺激になります。仕事と趣味がリンクしたことで新しい世界が広がっていく、そんな幸せを実感しました」(松田・トップ写真左)

こんなオフを2人は満喫しているようだ。

スキー観を一変させたバックカントリー

〈THE NORTH FACE + 札幌ファクトリー店〉で〈Goldwin〉のディヴィジョンを担当する松田さんは3歳でスキーを始め、大学卒業までアルペンスキーの選手を務めたという生粋のスキーヤー。そんな松田さんがここ数年、夢中になっているのがバックカントリースキーだ。

「大学生の時にニセコサイドカントリーを滑り、それまでのスキー観が覆されました。パウダーを滑走する浮遊感や高揚感、ハイクするなかで移り変わる雪山の景色、そうしたもの全てが僕にとって新鮮でした。これまで取り組んでいたアルペンスキーでは、コンマ1秒のタイムを刻むために整備されたコースをひたすら滑り、同じリフトに乗ってまた同じコースを……の繰り返し。いま振り返ると、視野が狭くなっていたように感じます。一方、スキーという手段は同じでも、バックカントリーにはアルペンとはまったく違う世界が広がっていました。久しぶりに『スキーが楽しい!』という感覚を思い出させてくれたんです」

バックカントリーのおかげでアルペンも楽しく滑れるようになり、もっとスキーを滑りたいと思えるようになった松田さん。すっかり山に魅せられ、グリーンシーズンにも山に登るようになった。

そんな松田さんの山行仲間が、同じ店舗に勤める尾関さん。年齢は3歳年上、キャリアは2年先輩というよき兄貴分でもある。同店でバックカントリーを趣味とするのは、尾関&松田コンビ以外にはマネージャーを務める田村忠士さんだけとあって、タイミングが合えば3人で出かけることも。

「どこを滑るか、どこからアプローチするかのプランニングは彼らに頼りっぱなし。当日の朝、出かける直前まで専用のアプリや天気図チェックして風や降雪量を読み、その日のベストルートを考えてくれます。同じ趣味をもつ頼れる山仲間が職場にいるってとても幸運なこと。新商品が入荷すると、『これはバックカントリーに使えそう』とか、『こういう山行に試してみよう』とか、尾関と2人でギア談義に花を咲かせるのも楽しい。僕たちの遊びのことをよく理解している田村は、2人のオフのタイミングが合うようにスケジュールを調整してくれることも。仲間に恵まれました」

父も愛用する〈Goldwin〉との結びつき

店舗で〈Goldwin〉を担当する松田さんのブランドへの愛着はひとしお。というのも、〈Goldwin〉がスキーウエア中心のブランドだった時代から、自身はもちろん、ベテランスキーヤーである父も愛用していたから。松田家の〈Goldwin〉歴は40年を超えるのだ。

「スキーウエアのイメージが強い〈Goldwin〉ですが、リブランディングによりミニマルで機能的なライフスタイルウエアを作るようになっていて、それが僕の好みにぴったりフィットした。また、リサイクルダウンの導入や、製品はすべて無料でリペアを行うといった環境性能やサスティナビリティを意識したものづくりの姿勢、他に先駆けて意欲的な取り組みを行うブランドの方向性にも共感しています。このタイミングで関われるようになり、ブランドの成長を目の当たりにできる幸運に感謝しています」

店舗では、ブランド愛やスノーアクティビティへの情熱をもって接客を行っているが、そうした嗜好がジャンルを超えた交流をもたらしてくれているようだ。

「フィールドに出かけていることが会話の糸口になり、初めて接客する方と思いもよらない交流が生まれることがあります。また、今回の撮影のように、スキーをきっかけに普段は知り合えないようなプロフェッショナルと知り合う幸運に恵まれることもあり、それが仕事へのモチベーションになっています。山やスキーは自分の世界を押し広げてくれるから、一生、自分のライフスタイルの核にあり続けるんだろうと感じています」

故郷・秋田のスキー界に貢献するために

現在はストアイベントである「キッズネイチャースクール」の校長(リーダー)を務め、子どもたちや保護者に山の魅力を発信している。コロナ禍にあって長く休止していたイベントだが昨秋より再始動し、今年は年2回程度のアウトドアイベントを予定しているとか。

「長くアルペンスキーをやってきましたが、自分の子どもにスキーをやらせたいかというと、そういう気持ちを持ったことはありませんでした。けれどもバックカントリーの世界に触れたことで、未来を担う子どもたちにもっとスキーに親しんでもらいたい、そういう思いを抱くようになったんです」

いずれは故郷・秋田に戻り、地元のスキー文化に貢献していきたいという松田さん。自身を育ててくれたスポーツ少年団に恩返しするためにも後進の指導・教育にあたるという目標をもっている。

「秋田県でもスキー人口は年々、減少しています。生き方、人生設計、進路などの選択肢は多様化し、子どもたちのスキー離れも深刻です。そんな世の中でスキーを続けてもらうためにも、いずれはスキーの指導を通して、山には豊かで多彩な世界があることを伝えていきたい」

スキーを滑るようになった子どもたちが、いつかバックカントリーに出かけるようになり、その奥深い世界をさらに次の世代に伝えていってくれたら…… 。松田さんはそんな未来を夢見ている。

(写真 中田 奨/ 文 倉石綾子)

  1. 松田優樹(まつだ・ゆうき)
    1998年生まれ。秋田県出身。幼少時からアルペンスキーに取り組み、学生時代は選手として活躍。東京の大学を卒業後、ゴールドウインに入社。〈THE NORTH FACE + 札幌ファクトリー店〉の配属となり、北海道の雄大なアウトドアフィールドの洗礼を受ける。現在は「キッズネイチャースクール」の企画・運営を行いながら、スキーの魅力を発信する。

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