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ナスターレースで、キッズスキーヤーを世界へ!
プロスキーヤー 三浦豪太×ゴールドウイン 帰山聡夫

2016.02.19

 スキー・アルペン競技のシステムの一つである「ナスターレース(ナショナルスタンダードレース)」をご存知だろうか?通常、スキーのアルペン競技はタイムで順位を競うが、試合会場によってコースの長さや斜度、旗門数が異なるため、同じ大会以外のタイムを比較することができない。それを解消するために生まれたのがナスターレースだ。まずは世界のトップスキーヤーから、基準となる選手を一人定める。その選手が該当大会で滑走した場合の仮想タイムと、実際に大会に参加した選手のタイム差をポイント(ナスターレースポイント)として算出する。こうした標準を設けることで、地域や日程など環境が異なる大会に参加している選手と自らのポイントを比べることができ、上達の度合いを具体的に把握するとともにポイントに応じた目標を設定することができるのだ。

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 このナスターレースを、世界を見据える次世代スキーヤーの育成に取り入れているのがナスターレース協会である。理事長を務めるのはプロスキーヤーの三浦豪太さん、副理事長にはゴールドウイン事業部の帰山聡夫さん。世界に羽ばたくキッズスキーヤーのために尽力する二人の想いをお伝えしよう。

ナスターレースの雰囲気こそ、スキー大会の原点

帰山 ナスターレース協会は1986年に設立され、以来、キッズスキーヤーが世界にはばたくためのお手伝いをしています。いまでは全国50会場の大会でナスターレースポイントを導入し、スキーを始めたばかりの子供からトップクラスのジュニアレーサーまでの全国ランキングを作成しています。三浦さん、理事長就任3期目を迎えていかがですか。

三浦 ナスターレースのことはアメリカ留学時代に耳にしたことがあり、好意的な印象を持っていました。トップスキーヤーとのレベル差をポイントで明確に把握できるというのは、スキーヤーにとって大きな魅力ですよね。とはいえ、日本でナスターレース協会が活動していることは知らなかったし、ましてや自分が理事長をつとめることになるとは予想もしていませんでしたけれど。

帰山 ポイントをハンディキャップとして捉えて大会に参加すれば、環境の異なるスキーヤーと年齢・性別に関係なく真剣勝負できる。それがナスターレースの面白さですね。そのポイント算出の計算式をキッズのプログラムに取り入れて次世代のスキーヤーを育てていこうというのが、僕たちナスターレース協会の活動です。

三浦 世界の舞台で活躍することを見据えるなら、若いときから世界のスタンダードに触れられる環境を整えることが望ましいけれど、現在の日本ではそうした取り組みがなされていません。僕自身は11歳から海外だったので日本でのレース経験は浅いんですが、それでも日本と海外のシステムの違いは肌で感じましたね。海外ではジュニア世代に、自由にのびのびとスキーを楽しませる環境が整っています。彼らはFIS(国際スキー連盟)のポイントシステムを利用して、自分が目指す環境に身を置くことができます。ナショナルチームに所属していない子どもがヨーロッパカップに出場、なんてこともしばしばですから。一方、日本は世界へ挑戦するハードルが非常に高いんですよ。これではいつまでたっても日本と世界のギャップが縮まらない。

帰山 だからナスターレース協会主催の大会は、海外派遣がかかっているようなビッグレースでも、誰でもエントリーできる仕組みになっています。いちばん下のアンダー8(8歳未満)のクラスではスターターがきちんとコントロールするので、たとえコースアウトしてもスキーが脱げても、本人に意思があるならそのままレースを続行してゴールすることができます。大会運営の面からすると時間もかかるしマネジメントは大変ですが、それでも大会は運営者のためではなく参加者のものですから、まずはきちんとゴールさせることを目標にしなくては。

三浦 会場にご両親と親戚が応援に来ていて、レース後には「よくやった」なんて言いながら味噌汁を飲んでいて、和気あいあいとした雰囲気ですよね。でもそれがレースの原点だと僕は思うんですよね。子どもたちにとってスキーを始めるきっかけはお父さんとお母さんであり、最初のスポンサーであって、そしていちばんのサポーターでもあるんですよ。たとえレースで転んで泣いちゃったとしても、自分の大事なサポーターの前できちんとゴールした姿を見せるというのは、スキーのいちばん大事なところじゃないですかね。

帰山 昨年は豪太さんの息子さんも6歳でアンダー8に初出場しましたね。お子さんがレースに出てみて、豪太さんはどんな感想を持たれました?

三浦 嫁は泣いていましたね、「こんな長いコースを、よく旗門を間違えずに降りてこられた」って。僕もぐっときました。理事長ですけれど、やっぱり自分の子どもが出るとなると力が入るんですよ。あの場にいて子どもを応援する家族の実感を味わって、ようやくキッズ育成、そしてナスターレースのなんたるかが理解できた気がします。ナスターレース協会がジュニアとキッズの部門に力を入れているのは次世代を育成するという意味があるんですが、僕としてはスキーを介して家族が一体になってほしい、そんな願いもあるんですよね。

帰山 大切なのは「スキー楽しい!大好き!」という子どもを何人作れるか、なんですよ。そのためには、子ども心にいかに楽しいと思わせるか、いい経験をさせてあげられるか。だって、その年代から始めたスポーツは生涯スポーツになり得るんですから。メーカーの立場からしても、一人でもたくさんのスキーファンにゲレンデに足を運んでもらい、うちのウエアを着てもらうにはどうすればいいかと考えたら、キーワードは「子ども」なんです。はじめて関わった大会でいい経験や思い出ができたら、いざウエアを買いにこうというときに「あの大会を主催していたな」って、ゴールドウインを選んでくれるかもしれない。それってメーカーにしてみたら、すごく嬉しいことなんですね。

ナスターレースの意義は「間口の広さ」

三浦 協会では子どもたちを積極的に海外の試合に派遣しています。自分たちの上にスキーの上手な憧れのお兄ちゃん・お姉ちゃんがいて、彼らからその先にもっと大きな世界があるということを聞かされる。「じゃあ僕もそういうところを目指してみたい」と思う子が、少なからず出てくるんじゃないかと。始めの間口は広く、雪遊びの延長でただスキーを楽しんでもらってもいいし、もっと真剣に取り組む子どもがいてもいい。そのバランスが、ナスターレースの面白いところじゃないですかね。

帰山 そうですね、協会がやっているのはあくまでもきっかけ作り。だから海外に連れて行っても、選手たちに成績を問うことはありません。

三浦 問題は、ナスターで世界を経験した子どもたちが高校生、大学生と年齢を重ねていった先のシステムですかね。

帰山 そのためには世界に勝つための指導ができるコーチの育成もしなくてはいけない。そうじゃないとマインドの高い選手を引っ張ることができませんから。

三浦 潜在的な数も含めると、日本のスキー人口は決して少なくないんです。スキー場の数自体はノルウェーの10倍、スキー人口も10倍。にもかかわらず、スキーで獲得したメダルの数はノルウェーのわずか1/8。問題のひとつはシステムにありますよね。指導者はスキーの本質を見極めているのか。トップの世界ではフィジカルから技術面まで最先端のセオリーをディスカッションし、一方で一般のスキースクールではスキーの幅広い魅力をきちんと伝える。そういう仕組みが必要です。

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ただがむしゃらに、自分の「好き」を貫いてほしい

帰山 もちろん、僕たちの主催大会だってもっと魅力的なものにしていかなくてはなりませんよね。

三浦 そうそう、それで今年はレースに少し遊びの要素を取り入れるようにしました。本戦の横にちょっとしたウェーブや小さなジャンプ台を作って、誰でも参加できるスキーフェスのようなイメージです。年上の子どもたちがレースをしている間、その横ではさらに下の世代の子どもたちがウェーブやジャンプ台で遊びながらスキーの技術を習得できる。本戦に出場するお兄ちゃんの応援をしながら、家族みんなでゲレンデを楽しんでもらおうというものです。

帰山 本来、スキーのイベントって滑る人以外にも楽しいもの。ヨーロッパのW杯なんて、3万人も観客を集めて。みんな観戦しながらホットワインを飲んで、チーズフォンデュをつついて。日本にはそういう楽しみ方がないけれど、ないなら作らなくちゃいけない。とくにメーカーは、スキーウエアを作るだけじゃなく、それにまつわる夢を作らなくちゃ。ゴールドウインはウエアを作っていますが、それを着て活躍する場を30年以上、提供している。でもそれがメーカーの役割だと思っています。

三浦 降雪の面だけ考えれば、日本はヨーロッパより恵まれた環境にあるかもしれない。例年、コンスタントに雪が降っているのは、実は日本だけなんじゃないかな。だから、世界に向けて日本発の雪遊びを仕掛けていきたいし、日本の子どもたちにももっともっと雪を楽しんでほしい。そうやって雪で遊んでスキーを好きになってもらえれば、その本質が見えてくるんじゃないでしょうか。

帰山 スキーでもなんでも、まずは好きなことをただがむしゃらに、一生懸命取り組んでもらいたいですよね。そうやって選んでもらった夢がアルペンスキーだったら、協会としてもゴールドウインとしても嬉しい限りです。

  1. 三浦豪太(みうら ごうた)
    1969年生まれ/神奈川県出身
    三浦ファミリーとしてアフリカ、キリマンジャロを最年少(11歳)登頂、またエルブルース(ロシア)、モンテローザ(スイス)などの海外遠征に同行する。
    ’91年よりフリースタイルスキー、モーグル競技へ転向、以来10年にわたり全日本タイトル獲得や国際大会で活躍。
    主な戦績として長野オリンピック13位、ワールドカップ5位入賞など日本モーグル界の牽引的存在となる。
    2001年5月、米国ユタ大学スポーツ生理学部卒業後、㈱ミウラ・ドルフィンズにて冬季オリンピックやフリースタイルワールドカップ解説と企画、執筆活動やプロスキーヤーとして活躍するかたわら2003 年、父・三浦雄一郎とともに世界最高峰エベレスト山(8848m)登頂、初の日本人親子同時登頂記録を達成する。2013 年、父をサポートして2 度目のエベレスト登頂。2014 年ソチオリンピックにおいてフリースタイルスキー4 種目解説者を務める。現在、ミウラ・ドルフィンズ低酸素・高酸素室のトレーニングシステム開発研究所長、低酸素下においての遺伝子発現・抑制の研究(専攻・齢制御学 アンチエイジング)を行い、また子供から高齢者までの幅広い年齢層やアスリート向けのトレーニング及びアウトドアプログラムを国内外で数多く手がけている。 博士(医学) (順天堂大学大学院医学部・加齢制御医学講座)、同大学 非常勤助教授、(社)アンチエイジングリーダー養成機構・専務理事、NPO 法人ナスターレース協会・理事長、国連WFP 協会・顧問
  1. 帰山聡夫(かえりやま あきお)
    1962年6月25日生/北海道出身 
    スキーの名門チームかもい岳レーシング一期生。
    幼少のころからスキーを始め1981年日本体育大学スキー部入部後、学生プロスキーレーサーとして国内を含めヨーロッパ、北米のレースを転戦し活躍。
    ㈱ゴールドウインのサポートを受け15年間のプロ活動を終え1996年ナスターレース協会事務局員として、㈱ゴールドイン社員として選手販促(チェアースキーヤーなどの一部選手サポート)やナスターレースの普及を手掛ける。
    1998年よりチルドレンに特化をし、全日本スキー連盟チルドレン小委員会の立ち上げにも携わり現在はユース小委員会のメンバー。
    2008年任意団体のナスターレース協会をNPO法人としナスターレース協会の総合プロデュースを行う。

(写真 濱田晋 / 文 倉石綾子)

NPO法人ナスターレース協会のホームページはこちら

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