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決して奇跡で勝ったのではない! ラグビー日本代表が4年間で劇的に強くなった5つの理由 谷口信孝(GOLDWIN)

2015.12.21

今年日本だけでなく、世界を揺るがしたスポーツイベントの大きなトピックスのひとつがラグビーワールドカップ2015における日本代表の躍進だ。初戦の南アフリカ戦でW杯では実に24年ぶりの勝利を飾り、その後スコットランドに惜敗するもサモアと米国を下し、最終的にはグループB3位という好成績を残したことは記憶に新しい。

ラグビー日本代表の活躍はそれまであまり日の目を見てこなかったラグビー自体への注目度アップにつながった。強豪国である南アフリカ撃破の快挙は当初はまるで奇跡のように報じられ、その後はスター選手の活躍を焦点にメディアは挙って輝かしい戦いぶりをレポートしてきた。

急速にラグビーへの注目が高まるとともに、ラグビーというスポーツ自体への理解はどこまで深まっているのか? そして、日本代表が大躍進した原動力はなんだったのか? 多くの人々の記憶に強く焼きついた南アフリカ戦を軸に振り返ってみたい。

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解説役をかってでてくれたのは、現在THE NORTH FACEやHELLY HANSENなどのアウトドアブランドの専門店向け営業を担当している谷口信孝さん。谷口さんはゴールドウインに入社後も社会人クラブチームに所属し、週1回程度練習や試合をこなしている。

「ラグビーというのは強いチームと弱いチームの実力差がはっきりでるスポーツなんです。だから、運が良かったから勝つというのは絶対ない。つまり、今回の日本代表はこの4年間で劇的に強くなったんです。決して奇跡で勝ったということではない」

では日本代表がどのように強くなったのか。5つのトピックスを挙げながら、ラグビーのルールや観戦の魅力を紐解いていきたい。

ラグビー日本代表の大躍進を握る5つの要因

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《TOPIC①低いタックル》
ラグビー日本代表はワールドカップに向かう前の合宿で元総合格闘家の髙坂剛氏を招聘し、タックルとコンタクトの指導を受けた。この髙坂氏自身もPRIDEやUFCをはじめとするリング上で相対したのは自分より大きい選手だった。ラグビーW杯でも同様に強豪国はその体格において日本を圧倒。だからこそ、相手が嫌がるほどに低いタックルを身に付ける必要があったのだ。

谷口さんも「自分より低いところに対しては前進する力を入れられない。低くなればなるほど杭みたいになって力が入るんですね。体幹が大事です」と指摘する。しかし、低い姿勢のタックルは相手の膝が顔面を直撃する恐怖とも隣り合わせだ。サモア戦で山田章仁選手が頭を強打し、失神退場した際のタックルも実に低い位置を狙ったものだった。その危険を省みない勇気も今回の日本代表が低いタックルを重ねることができた大きな要因だろう。フィジカルだけでなく精神面での強さも垣間見られるというものだ。

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《TOPIC②スタミナ》
大金星を挙げた南アフリカ戦でのラスト10分の攻防はラグビー史に語り継がれることは間違いない。ラインアウトから始まった一連の途切れることのないプレーの中で日本代表の攻防は圧倒的なスタミナによるものだと谷口さんは語る。「日本のスタミナを感じるのは試合の終盤においても1回1回突っ込んでる時にちゃんと相手の奥に進んでる点。この連続攻撃ができるのはスタミナが勝っているからこそ。その中で少しずつ相手の隙ができてトライにつながった」

見ている方は連続攻撃によって、なかなか前に進んでいかないような印象を受けるが、実はそれによって少しずつ相手のディフェンスに綻びを生み出し、トライを呼び込んでいるのだ。そして、ポイントを作りつづける攻撃を実現したのが日本代表のスタミナなのである。

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《TOPIC③パスワークの精度》
「エディー革命」と呼ばれたエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチによる戦略のひとつにパスラグビーが挙げられる。それは前述している通り、圧倒的な体格差やパワーの違いをスピードやスタミナで凌駕していくことの一貫だ。「少しでもミスしたらボールを落としかねないし、インターセプト(相手にボールを取られる)される危険性もある。変幻自在のパスワークを日本代表はサインを決めてしっかりと練習し、試合でも繰り出してます」と谷口さん。南アフリカ戦の劇的な逆転トライをはじめ、精緻なパスワークからいくつかの華麗なトライを生んだことも強さの賜物だ。

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《TOPIC④スクラム》
専門コーチにフランスからマルク・ダルマゾ氏を招き、体格やパワーで劣る日本代表がスクラムにも改良を加えた。「場合によってはスクラムを組んだ時に体重差が50キロくらいになります。これを8人で受けるわけで一人平均でも5キロ以上違う。だけど日本代表がスクラムで負けなかったのは姿勢を全員が統一していたから。しかもタックルと同様すごく低いんです。だから相手も押し返せない」と述べる谷口さんはさらに「綺麗なスクラム」と賞賛する。体幹をはじめとするフィジカルの強化、組む時の姿勢の見直し、時には過酷だっただろうトレーニングの積み重ねが日本代表のスクラムを強く美しいものにしたのだ。

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《TOPIC⑤ラインアウト》
ラグビーの試合でつきものなのがラインアウトのプレー。タッチラインに対して直角に両チームのフォワードが1メートルの間隔を空けて並び、そこにスロワーがボールを投入する。ここでボールを確保できるかがその後の攻撃に移るための重要なポイントであり、南アフリカ戦でも最後の10分間の始まりは逆転を目指した日本代表のラインアウトからだった。谷口さんにラインアウトのポイントを挙げてもらった。

「ひとつはサインワーク。これは国によって誰が出すか決まってないがスロワーもしくはジャンパーが出すことが多い。今回の日本代表はいろんな動きをサイン交えて事細かにやっていたので、入念に練習していたんでしょう。もうひとつはボールをいかにジャンパーに合わせるか。スロワーはまっすぐに投げないとノットストレートという反則をとられるので非常に難しい。ボールを受け取る側といかにサインで合わせるかが重要。そして、最後はラインアウトプレーからのモール。日本代表はここでも低い姿勢で押し込んでいったことが印象的でした」

日本代表がなぜ強かったのかを紐解くことで見えてくるラグビーの醍醐味。ある意味、基本的なプレーをしっかりと強化したからこそ日本代表は強豪国を撃破できたのかもしれない。そして基本的なプレーに対して苦しい練習を積んできたからこその自信も大きい。

今回触れたプレーやルールだけでなくラグビーにはまだまだ特有の魅力がある。ぜひ、トップリーグや2019年に東京で開催されるワールドカップに向けて観戦する楽しさを増やしていきたい。

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  2. 谷口信孝(たにぐちのぶたか)
    1990年11月22日生まれ。大阪府貝塚市出身。小中学校時代は軟式野球、ソフトボール、ドッヂボールなどに取り組み、高校入学と同時にラグビーを始める。その魅力にのめり込み、現在までの約10年間怪我を繰り返しながらプレーを続けている。その中でも、大学4年時にはラグビー最強国ニュージーランドへ半年間武者修行に赴き、悪戦苦闘しながらも人生の原点を築くことが出来た。大学卒業後2014年にゴールドウインに入社。現在THE NORTH FACEやHELLY HANSENなどのアウトドアブランドの専門店向け営業部署に所属。今まで経験したことなかったトレッキングやトレイルランニングにも挑戦し、新しい発見の日々を過ごしている。ラグビーひいてはスポーツの素晴らしさを一人でも多くの方々に伝えたいというのが人生の目標。

(イラスト 越井隆 / 文 小林朋寛)

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