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「応援」が授けてくれるパワーと、これからのパラスポーツのこと 鈴木孝幸×坪井修

2021.09.27

先日閉幕した東京2020パラリンピックで5つのメダルを獲得した競泳の鈴木孝幸選手。パラアスリートとして第一線で活躍する傍ら、現在はゴールドウインの研修制度を利用してイギリスのニューカッスルでスポーツマネジメントを学んでいる。そんな鈴木選手を8年に渡りサポートしてきたのが、ゴールドウインCSR推進室の坪井修さんだ。今回は鈴木選手の活躍を振り返るとともに、パラスポーツの普及への思いについて2人に話を伺った。

左:鈴木孝幸選手 右:ゴールドウインCSR推進室 坪井修さん

鈴木孝幸
1987年静岡県生まれ。6歳から水泳を始め、2004年アテネパラリンピックに17歳で初出場。個人でのメダル獲得はならなかったものの、50mメドレーリレーで銀メダルを獲得する。2008年の北京パラリンピックでは競泳チームの主将を務め、50m平泳ぎで金メダルを、150m個人メドレーで銀メダルを獲得。2012年ロンドンパラリンピックでも2大会連続で主将を務め、50m平泳ぎと150m個人メドレーで銅メダルに輝く。2016年リオデジャネイロパラリンピックでは成績が振るわなかったものの、東京パラリンピックでは大会招致にも貢献。競泳チームの主将を務め、100m自由形で金メダル、50m自由形と200m自由形で銀メダル、50m平泳ぎと150m個人メドレーで銅メダルを獲得。出場した全種目で3位以内入賞を果たした。2009年、ゴールドウインに入社。ニューカッスルにあるノーサンブリア大学の博士課程でスポーツマネジメントを学ぶ学生でもある。

坪井修
1968年生まれ。埼玉県出身。1991年入社後、営業職や事業のマーケティング業務を経て、2013年からコーポレートコミュニケーション室に配属。その年からパラアスリートとして活躍する鈴木孝幸の広報窓口や社内調整の窓口を担当、2015年からパラスポーツ支援の業務も担当する。その後、各パラスポーツ競技団体の担当としてスタッフや選手とのパイプ役を務める。2020年からは、CSR推進室に配属となり、パラスポーツ支援を通じた共生社会実現にむけて日々、奮闘している。

東京2020パラリンピックで日本競泳チームの主将を務め、100m自由形の金メダルを筆頭に、出場した5種目すべてでメダルを獲得という偉業を成し遂げた鈴木孝幸選手。北京大会以来13年ぶりに金メダルを獲得したベテランの泳ぎに、日本中が声援を送ったことは記憶に新しい。

目標に掲げた、「全種目メダル獲得」をコンプリート!

SFM
はじめに、今大会を振り返っての感想を教えて下さい。

鈴木
今大会では、出場する全種目でのメダル獲得を目標に掲げていました。まずはそれを達成することができて純粋にうれしいし、コロナにも感染せず、無事に大会を終えることができてほっとしている……というのが正直なところです。
前回のリオデジャネイロ大会では成績が振るわなかったこともあり、トレーニングもテクニックも、根本から見直して今回に臨みました。ウエイトトレーニングの方法を変えての体幹の強化、ターンのテクニックの向上、平泳ぎはより大きな推進力を得るために泳法・フォームを変えて……。そういう意味で、リオ大会以降の5年はチャレンジングな時間でした。

SFM
コロナ禍により大会が1年延期になりました。ストレスやプレッシャーを感じることはありませんでしたか?

鈴木
僕が暮らしているイギリスでは全土でロックダウンが行われ、その間はトレーニング拠点もクローズされました。泳げない期間もあったけれど、「じゃあ、その時間を体幹の強化にあてよう」とか、なるべくポジティブに変換して受け止めるようにしていました。
延期になったことでモチベーションの維持が大変だったのでは? と聞かれますが、パラリンピックという大きな目標だけでなく、その時々で自分なりの小さな目標を立てて、それをモチベーションにしています。たとえば、体幹トレでクリスティアーノ・ロナウドみたいな身体を手に入れるぞ、とか(笑)。

坪井
日本国内でも開催をめぐって賛否が別れ、直前まで議論が交わされていました。結果的に無観客となったけれど、アスリートが自身のパフォーマンスを発揮する機会を持てるのは素晴らしいことだと思っているので、まずは無事に閉幕できてほっとしました。彼の日ごろのがんばりを目にしているからこそ、パラリンピックが開催されて本当によかったと思っています。

たくさんのゴールドウイン社員が、激励メッセージを送ってくれた

SFM
鈴木選手はアスリートでありながらCSR推進室に所属するゴールドウイン社員でもあります。ゴールドウインとしては鈴木選手をどのようにサポートされてきたのでしょうか。

坪井
鈴木くんの2009年の入社以来、過去の大会前には壮行会や激励会を開いていました。コロナ禍で開かれる今大会は社員同士が集まることもできません。できる限りの応援をということで、社員有志で激励のメッセージを送りました。

鈴木
日本にいたころ、一緒に仕事をしていた仲間はもちろん、僕が渡英してから入社したという社員からもメッセージをいただきました。ゴールドウインに入る前は、応援してくれるのは家族や友人くらいでしたから、これだけたくさんの方々が声援を送ってくれていると思うと、やっぱり励みになりますよね。

坪井
実際、鈴木くんの試合直後は社員間でメッセージやチャットが飛び交って、それはもう大変な熱狂ぶりでした(笑)。ゴールドウインでは契約アスリートたちがオリンピックやパラリンピックで活躍していますが、応援対象が社員で、しかも一緒に業務にあたっていた仲間となると応援の熱量が違います。本来だったらみんなで試合を観戦しにいったはずで……。それだけが残念ですね。

SFM
鈴木選手がパラアスリートとしてゴールドウインに入社されたのはどうしてでしょう? ゴールドウインのどんなところに注目しましたか?

鈴木
僕が入社したのは2009年ですが、当時はパラリンピックのアスリートを雇用して、しかも競技やそれにまつわるトレーニングを業務として扱ってくれる企業は本当に少なかったのです。企業としてパラスポーツを、パラアスリートを支援しようとして下さったことがうれしかったしですし、競技を続ける上で大きなサポートになりました。
2013年にはトレーニング拠点をイギリスに移して、2015年からスポーツマネジメントを学ぶことにしたのですが、それも社内の研修制度を利用させてもらっています。今年の大会をきっかけに、こんな風にパラスポーツを支援してくれる企業がますます増えていくことを願っています。

坪井
鈴木くんの事例をきっかけに、社内でパラスポーツ支援の流れがさらに加速するといいなと思っています。社員にとっても障がい者とふれあう機会は大切だと思うんですよ。実際、僕も鈴木くんとのつきあいから多くのことを学びましたから。障がいによる区別のない社会をめざしたいと思いつつ、障がいのある人とどうやってコミュニケーションをとればいいのかわからないという人は少なくないはずです。わからないという気持ちは心理的な壁を築いてしまいます。心の壁がなくなっていけば、社会はもっと楽しく、生きやすいものになるはずですから。

パラスポーツの盛り上がりを一過性にしないために

SFM
これを機に日本でもパラスポーツが浸透していくのでしょうか? そうした広がりを肌で感じることはありますか?

鈴木
パラアスリートの練習環境も少しずつ改善しつつあると耳にしますが、まだまだ厳しい状況にある選手もいます。パラスポーツへの関心の高まりも感じていますが、大切なのはこの盛り上がりを一過性のものにしないことです。アスリートとしてはまず、たくさんの人にさまざまな競技の試合を見てもらいたいですね。そうしたリアルな機会を増やすことでたくさんの人に関心を持ち、身近なものに捉えてもらえると思っています。
イギリスの事情をお伝えすると、ロンドン大会をきっかけにパラスポーツが一気に市民に浸透しました。たとえば、パラ水泳やパラ陸上の世界選手権を招致したり、学生選手権に障がいを持った選手が参加できるシステムを整備して、大学側がパラスポーツの高校生を積極的に取りたくなる仕組みを作ったり。一般の人々もパラスポーツに関心を持つようになり、パラリンピアンへもオリンピアンと同様のあこがれのまなざしを向けてくれます。とはいえ、ロンドン大会から9年が経ちました。当時を知らない子どもたちが小学生になっていますから、この先、ロンドン大会を知らない層にパラスポーツをどう広めていくのかが課題だと思います。

SFM
そうした事情も踏まえ、未来のパラアスリートたちへメッセージを送るとすれば、どんな言葉をかけたいですか?

鈴木
受け身になるな、でしょうか。周囲が手をさしのべてくれる環境にあるので、障がいを持っているとつい受け身になりがちです。これはパラスポーツに限ったことではないですが、なにかの分野で活躍したいと思ったら、ぜひ自発的に、積極的に行動してください。さらに、パラスポーツにおいては常に探究心を持っていてほしい。探究心を持って前向きにトレーニングに取り組むことが、自分を高めることにつながります。
僕もユースの合宿で話をしたり、他の競技も含めた未来のパラスポーツアスリートたちへの講義を行ったりしていますが、次世代を担う若者たちの役に立つことは積極的に担っていきたいと思っています。

坪井
この大会でのパラアスリートたちの活躍を目にして、パラスポーツに憧れてパラスポーツに挑戦してみたいと思う子どもたちがきっと出てきてくれるはず。僕たち大人は、そういう子どもたちのための環境づくりを一刻も早く行わなくてはいけません。彼らの「やってみたい」という純粋な思いを受け止められる、そういう社会の下地を作るお手伝いをしていきたいですね。

SFM
鈴木選手は日本人として初めて、IPC(国際パラリンピック)アスリート評議員にも選出されましたが、今後の予定や目標を教えて下さい。

鈴木
そうですね。大きな大会が終わった直後の今は、オフを満喫しているところです。年齢的にも東京が最後かなと思ってトレーニングを積んできましたが、いますぐ第一線から退くとは思っていません。競技者としてはあまり先のことまでは考えていないのですが、3年後のパリも可能性としてはゼロではないのかな……。その前に、この11月に日本選手権が控えています。目前に迫る大会を目標にしながら、少しずつ先のことを考えていきます。
学生としては、専攻するスポーツマネジメントの博士論文が控えている身ですが、いずれは国際的な組織にも関わって、学んだことをパラスポーツの普及に役立てていくつもりです。IPCのアスリート評議員にも選出されましたが、日本はもちろん、アジアのアスリートたちの声をきちんと届けていきたいと思っています。

坪井
アスリートたちが競技に集中できるよう、僕たちゴールドウイン社員も精一杯サポートしていきます!

(写真 古谷勝 / 文 倉石綾子)

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