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レースに出られない一年を経て考える、トレイルがもたらしてくれるもの 鵜野貴行×大桐崇道

2021.07.21

コロナ禍で「UTMF」をはじめとする大きなトレイルランニングレースが軒並み中止となっている。モチベーションとなる大会を失った今、トレイルランナーは走ること、身体を動かすことをどのように楽しんでいるのだろうか。過去にSports First Magに出演した二人のトレイルランナーに、最近のトレイルランニングとの向き合い方や、「UTMF」への思いを語ってもらった。

鵜野貴行
1983年、静岡県生まれ。メッセンジャーを経てゴールドウインに入社。入社後、トレイルラニングに目覚め、超長距離といわれるジャンルのレースに積極的に参戦。「UTMF」は2014年に完走。現在はランニング専門店「THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO」に勤務。

80歳になっても最高の笑顔でトレイルを駆け回りたい 鵜野貴行(THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO)

大桐崇道
1980年、京都府生まれ。スノーボードに熱中していたが、ゴールドウイン入社後に出合ったトレイルランニングに傾倒。現在までに「UTMF」は全6回出場。大阪・阪急うめだ本店「DANSKIN/THE NORTH FACE」に勤務し、トレイルランニングの魅力を関西圏で発信している。

スポーツが生み出す絆は、新しい挑戦へと続いていく 大桐崇道

コロナ禍に見つけたトレイルランニングの楽しみ方

SFM
レースが開催されない1年、お二人のトレイルランニングに対するモチベーションはいかがでしたか?

鵜野
レースに参戦すること、そして未体験のものごとにチャレンジすることが自分のモチベーションなんだ、そんなことにあらためて思いを馳せた2020年でしたね。とはいえTHE NORTH FACEのスタッフであるという自覚はありますから、モチベーションは高くないながらも日々のランやトレーニングを粛々と行っていました。具体的には、身体意識を向上させるためのさまざまなアクティビティ、例えばヨガ、ボルダリング、カヤック、渓流釣り。それから子どもを背負ってのハイキング。ストアのスタッフと一緒にプロギング(ゴミ拾い+ジョギング)にも取り組みました。長距離だと、トレイルではないですがしまなみ海道(80km)を走破しました。大桐さんは?

大桐
僕の場合は「UTMF」がモチベーションそのものだから、例年、本格的に走り込むのは「UTMF」に向けての3ヶ月前だけなんです。ですから、走れないことに対してそれほどストレスは感じなかったですね。とはいえ去年の4月はかなり厳しい自粛生活を送っていたため、なんと7kgも太りました。だらしない身体の写真を鵜野さんに送りましたよね。

鵜野
送られてきましたね、あれはだらしなかった(笑)。自粛期間って、あらためて「心身の健康」に向き合うきっかけになりましたよね。健康というとつい、身体の状態に意識が向きがちだけれど、実はスポーツはメンタルの健康に欠かせないんだ、って。

大桐
子どもとあれだけ多くの時間を過ごせたことはすばらしい体験で、むしろメンタル面の調子はよかったのですが、身体が……。これはまずいということで夏の終りくらいからランニングを再開して、昨年10月に琵琶湖一周(200km)走にチャレンジしました。あとは子どもを連れてよくアウトドアに出かけました。子どもを連れて行く前には、下見を兼ねて一人でトレイルを走るのですが、走りながらカブトムシやホタルの生息地を見つけたり、魚を捕まえられるスポットを見つけたり。ランニングのおかげで、クルマでは見えない景色を見つけられたと思います。

鵜野
チャレンジといえば、モチベーション維持のために多くのランナーがバーチャルのチャレンジに参加しましたよね。たとえば「バーチャルUTMF」。周りのスタッフが続々と完走するので、プレッシャーを感じながら2回完走しました。ランニングに熱心に取り組んでいる仲間の姿が、いちばんのモチベーションになったかも。

大桐
「バーチャルUTMF」は、僕は今年4月にスルーでやりました。何回かに分けて走ろうと思って家を出て走り出したら、関西地方に緊急事態宣言が発令されるかもしれないというニュースが流れて。発令されたら走れなくなるなと焦りまして、急遽。スルーでいくことを決めました。妻に「やっぱり今夜は帰れない」ってLINEを入れて(笑)。

あらためて思う、「UTMF」の存在感

大桐
僕は第2回を除くすべての「UTMF」に参加しています。むしろ「UTMF」のためにトレイルランニングをしているのかも、というくらい特別な大会なんです。毎年、1歳ずつ年はとっているけれど、それでも前年の自分を越えるというのが自分のモチベーション。本気でトレーニングをして、準備も万端に整えて、それでも荒天やさまざまなアクシデントがあって簡単には完走させてくれない。それが「UTMF」の面白さ。前回(2019年)大会は、あと一山を越えたらゴールというところで、荒天によりまさかの中止に。しかもいいペースで走れていたから、悔しさもひとしおでした。

鵜野
知った顔が現場で応援してくれているって、うれしいしテンションがあがりますよね。ゴールドウインが特別協賛しているという縁もあって、ランナーのみならず、サポートやボランティアとして「UTMF」に関わっている社内スタッフが多いから。すごく辛いのになんでもない顔をして走り抜けてね。

大桐
ゴールドウインからは毎年、15人前後がランナーとして参加しているそうなんですが、関西圏からは誰も行かないから、僕の場合は社内スタッフにとっても「あれ、誰?」という存在。そういう状況だから注目も集めたいし、負けず嫌いなので特に社内では負けたくない。社内にはフットウエアチームの木村(豪文)さんという、とんでもなく速いランナーがいますから、レース中に木村さんに追いつけると最高にうれしいんですよね。表情には出していないけれど。

ゴールドウイン社内でも屈指のランナー、木村さんに追いついた大桐さん。表情に嬉しさがにじむ。

鵜野
いえいえ、周知です(笑)。

大桐
最近はフライト(THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO)の若手も台頭しているから、うかうかしていられないんです。

鵜野
そういう意味で「UTMF」はみんなのモチベーションがあがるレースなんですよね。おまけに、ともにゴールを目指すランナーはみんな、気持ちもフィジカルも強くて、一緒に走るとパワーをもらえる。レース当日、店舗で営業している際に「UTMF」の話題になると、やっぱり走りたくてうずうずします。

大桐
店舗では「UTMF」に出るというお客さまからウエアやギアの相談をされることも多いですし、「UTMF」を完走したという事実でお客さまからの信頼を得られる。トレイルランナーにとって一つのブランドになっているんだと実感します。

「もし今年、UTMFが開催されていたら……」妄想コーディネートを紹介

SFM
今日は、今年、「UTMF」が開催されていたら使いたいウエア&ギアの候補を持ってきていただきました。それぞれのセレクトのポイントを教えて下さい。

鵜野
僕はタイムを刻みにいくタイプのランナーではないので、昔から安全・安心を基準に装備を選んでいます。特に「UTMF」は天候が予測できないので、雨や雪など天候変化に十分対応できるようなウェア&ギア選びがモットー。心配性なのでついつい荷物が増えてしまいますね。現場でなにかあってもセルフで応急処置できるよう、エマージェンシーグッズは必ず。自分のためだけでなく一緒に走っているランナーのためという気持ちもあります。アウトドアでは互助の精神を大切にしたいから。シューズはプロテクションとクッション性を重視して「VECTIV」のEndurisを選びました。

大桐
僕はTHE NORTH FACEらしい軽量性やコンパクトさを実感できるギアを選びました。特に重視するのがパックとシューズ。今回選んだ「FLIGHT RD VEST 8」と「FLIGHT VECTIV」はどちらも、「UTMF」で試してみたいなと思っていたアイテムです。鵜野さんはやっぱりエンデュランス系のランナーらしい、安定感のあるセレクションですね。

鵜野
僕はスピードをあげず、低強度で淡々と長時間走るタイプですから。

これから出たいレースのこと

大桐
鵜野さんとチームを組んで走ったレース、覚えています?「分水嶺トレイル」。

鵜野
はいはい、出ましたね。「分水嶺トレイル」はトレイルランニングというより山の縦走に近い、ファストパッキングのレースなんですよね。自分で幕営装備一式を背負って、おまけに夜間も行動し続ける。楽しかったですね。

大桐
あの過酷なレースで鵜野さんの強さを見せつけられました。急峻になればなるほど、時間が長くなればなるほど、ますます強くなる。僕はある程度整備されたトレイルは速いけれど、“ザ・山岳”といった道は慣れていないし、連続行動時間も30時間がせいぜいですね。

鵜野
そういえば、大桐さんはうなだれながら歩いていましたね(笑)。僕は超長距離というジャンルのレースが好きなので、アフターコロナではカリフォルニアのタホ湖を一周する200マイルのレース「Tahoe 200 Endurance Run」や、「Moab 240Endurance Run」を狙いたいですね。もしくは、親戚がロンドンに住んでいるので、家族旅行のついでに出られるイギリスの「Ultra-Trail® Snowdonia」かな。

大桐
「UTMF」以外では本気で走るレースはないんですが、スタッフやトレイルランニングのレースに興味があるという初心者の方を誘って近郊のレースに出ています。レースの臨場感を味わってもらいたいですから。そのスタイルはこれからも変わらないかな。

一生、トレイルを走り続けたい

鵜野
長期的な目標は、70歳、80歳になってもトレイルランニングを続けていることなんです。僕はトレイルランニングという最高に熱中できるものに出合って人生が変わったから、トレイルランニングの楽しさをたくさんの人に伝えたいし、そうやって自然に触れて、その豊かさを再発見してもらえたらうれしい。そうして未来の自然環境を考えるきっかけにしていってもらえたら。それが願いです。

大桐
トレイルランニングというとハードルが高く聞こえるかもしれないけれど、コースやペースを配慮すればまったくのビギナーの方も自然の中で達成感を味わえるアクテビティだと思うんです。実は山の中を走るという、ものすごく原始的で誰にでもマッチする遊びだから。僕たちスタッフの役割は、そういう遊び方や情報、カルチャーを発信していくことなのかな。一人でも多くの人にトレイルランニングのファンになってもらい、いつか「UTMF」を目指してもらいたい。そんな風に思っています。

(写真 古谷勝、依田純子 / 文 倉石綾子)

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