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120%楽しめた!UTMF2022完走記  山口兼孝

2022.05.27

3年ぶりの開催に心を躍らせたランナーは少なくないだろう。〈THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO〉に勤務する山口兼孝さんもその一人だ。彼にとって「ウルトラトレイル マウントフジ(以下、UTMF)」は、トレイルを走り始めたときから特別なレースだった。初めて臨んだ2019年の「UTMF」は腸頸靱帯を傷めてU5(勝山)で無念のリタイアとなったが、それでも「ほかのウルトラのレースとは一味違う、ここならではの独特の盛り上がりがある」と、日本を代表するレースの雰囲気を満喫した。

あれから3年。2回目の挑戦となる山口さんの目標は、「前回の雪辱を果たして完走する」。上位選手があつまる第1ウェーブのスタートでもまったく気負いがない。

「特別なことをやろうとすると気負って潰れるタイプなので、とにかくいつも通りの過ごし方を貫きました。今年は試走した人も多いと聞きますが、自分はあえてまったく関係のないところを走りにいっていましたから。試走すると本番で緊張しちゃいそうで」

レース直前もいつも通りの様子。

「昨晩もよく寝られました。レース前にやったことといえば、睡眠時間をきちんと確保して体調を整えたくらいかな」

コース変更でレースは高速化

開催直前の4月20日、悪天への懸念から前半の天子山地区間の迂回が決定。距離にして7km、累積標高1200mマイナスとなり、例年以上の高速レースになると予想されていた。

「のんびり、丁寧にいこうと思っていた天子山地がまるごと走るパートになってしまったのは痛かった。周りが走るとレースマネジメントを忘れて本気で走ってしまうのが自分の欠点。なんとかここを抑えてうまく後半につなぎたい」

「マイペースで楽しむこと」を目標にしている山口さんにとって、高速化必至の序盤をいかに抑えるかが最初の関門になりそうだった。

大方の予想通り、序盤の林道はハイペースで推移する。一方、山口さんは予定通り、前半から中盤にかけて体力を温存して走ることができた。

「目標はあくまでも完走なので、走れる区間もとにかく抑えて。靱帯を痛めた前回の反省を活かし、下りはとくに慎重にいきました。いまになってみると、もう少し攻めてもよかったかもしれません」

前回は極寒、今回は灼熱に苦しんだ

慎重にレースに臨んだはずの山口さんの失敗は日焼け止めを忘れたこと。スタート前に気づいたものの後の祭り。これが後に響いてしまう。晴天に恵まれた今年、ランナーたちは日中の暑さに苦しめられた。山口さんも、山中湖きららのエイド手前から熱中症のような症状が出始めたという。

「大平山のあたりで気温がぐんぐんあがり、太陽を遮るもののない灼熱のロードを走り続けることになりました。身体が熱くなっている実感はありましたから、異変を感じたらすぐに対処するべきでした。二重曲峠のエイドで、濡らした手拭いで首を冷やすなどの処置をして落ち着きましたが、初めからきちんと対処しておけばパフォーマンスも落ちなかったはず」

山中湖きららのエイドに着くころには補給食も摂れなくなっていた。今回は水に溶かして使う粉末を中心に、それを補う程度のジェルを用意していた。が、いつもは摂れるドリンクがどうしても入らない。

「これまでのレースでは補給を摂れなくなる状況に陥ったことがなかったので油断しました。こういうときのために種類の異なるものをバリエーション豊富に用意しておけばよかった」

前回を踏まえて防寒対策はしていたが、暑さへの備えが足りなかったのかもしれない。同じレースなのに降雪もあれば灼熱地獄もある。これが「UTMF」なのだ。

100マイルしている!という実感

それでも途中でやめようという気はまったく起きなかった。レース全体を通じて大きな不調やトラブルに見舞われず淡々と走れたのは、前回の反省点をきちんと活かせたから。もちろんきついと感じる箇所はあったけれど、それよりもゴールに近づきたい気持ちが大きかったのだ。

結局、完走を目標にしていた山口さんは344位、31時間21分07秒という優秀な成績で無事にフィニッシュ。特に印象に残っているのは富士急ハイランドのゴール手前、霜山のまっくらな山中をプロトレイルランナーの松永紘明さんととぼとぼ歩きながら、人生を語り合ったことだという。

「松永さんが『今日はすごく100マイルしている』って言ったことが記憶に残っています。久々にここまで潰れたけれど、気持ちよく走れたりときに大きく沈んだり、その浮き沈みが100マイルレースの実感なんだ、って。自分がこのレースで感じたことが松永さんのその一言に集約されていて、この先もずっとこの言葉を忘れないと思います」

ランニングのある人生を長く楽しむ

20代で100マイラーという大きな目標を達成し、「自分のなかでひとつの区切りがついた」と山口さん。これからは距離にこだわらずいろいろなレースに参加できそうだ。いま気になっているのは「ハセツネダブル」(ハセツネCUPのコースを2周するという大会30周年記念プロジェクト)。過酷な山岳系も出てみたいし、観光気分で地方のレースにも出かけてみたい。それと同時にランニング以外の軸も見つけていきたいと思っている。

「コロナ禍では山を歩いたりキャンプをしたり、初めてナビゲーションのレースに参加したり、これまでにやったことのないアクティビティに挑戦して、走る以外の世界を見ることができました。スキーやボルダリングにもチャレンジしてみたいと思っています。たくさんのアクティビティを経験して、いまのランニングのように生活の軸になれるものを見つけたい」

「UTMF」で経験したことを、店舗での接客や発信を通して多くのランナーと共有したい。「120%楽しめた」というレースを振り返って、いまはそんな気持ちを抱いている。その先に目標とするのは、ゆるく長く、自分らしいスタイルで走り続けること。長いランニング歴のなかで燃え尽きてしまうランナーをたくさん目にしてきたからだ。

「年齢やライフステージによって向き合い方を軌道修正して、ランニングのある人生を長く楽しんでいきたいんです。もし走るという生活の軸がなかったら、いまの自分の人生はどうなっていただろうって考えると、自分の軸を見つけられたことはすごくラッキーだと思うから。だから今度はほかの誰かが軸を見つけられるよう、そのお手伝いをしていきたい。そのときにUTMFで得られた経験を活かすことが、このレースに参加した意義なのかもしれません」

(写真 古谷勝 / 文 倉石綾子)

  1. 山口 兼孝(やまぐち かねたか)
    1993年生まれ、山梨県出身。中学生で陸上競技を始める。大学時代にトレイルを走るようになり、2015年「峰山トレイルレース」でトレイルランニングのレースを初体験。トレイルランニングをきっかけに山歩きやナビゲーションレース、キャンプと、アウトドア志向のライフスタイルへとシフトしてきた。現在は〈THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO〉に勤務しており、自身の経験を顧客と共有できるような接客を心がけている。

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