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初100マイルを前に、高揚感と不安とが交錯する今を楽しむ。 小林達郎×佐藤奈津子

2023.03.31

来る4月21日に迫った、国内最大の国際ウルトラトレイルレース〈ULTRA-TRAIL Mt. FUJI 2023(FUJI)〉。大会スポンサーとして縁の深い THE NORTH FACEから、初めての100マイルレース(160km)に挑む2人の市民ランナーがいます。

冒険心溢れるそのチャレンジャーは、富山本店の商品本部アスレチックチームにてパタンナーを務める小林達郎さんと、ランニング専門店〈THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO〉のスタッフである佐藤奈津子さん。

誰にとっても一度きりの「初めての100マイル」への準備は、最初で最後になる他に代えがたい時間でもあります。数週間後に迫る本番に向けて、不安と興奮とが入り混じる今の気持ちをぶつけ合いました。

100マイルのフィニッシュがとにかくカッコよかった

―ULTRA TRAIL Mt. FUJIに挑戦しようと決めたきっかけは覚えていますか?

佐藤
「ようやく出られる!」という気分になっていますから、それはもう! FLIGHT TOKYOに赴任したのが、ちょうど2022年のFUJI開催前で。同じショップスタッフの山口先輩が走って、見事完走されたのですが、一歳上の、一番近しいところにいる人のゴールの瞬間をネット中継で目の当たりにして、大感動したんです。今まで誰かのゴールを見てこんなにも心を動かされたことはありませんでした。私もあのフィニッシュゲートをくぐりたいと、何なら2023年にくぐりたい、と。

小林
思い切りがいいというか、行動力が凄いですね!

佐藤
前職もランニング系のショップスタッフで、ロードのマラソンをメインで走っていたのですが、今回一緒にFUJIに出る潮店長に相談して、FUJIのエントリーに必要になる他のトレイルレースの完走実績を計画的に積んでいきました。ITRAポイントというのが必要になるので、どのトレイルレースでポイントを貯めるかプランニングして、ときにはバーチャルULTRA-TRAIL Mt. FUJI も走って、エントリーに必要な10ポイントを揃えました。こうして念願のUTMFにエントリーできる!となったとき、張り切ってトレーニングボリュームを増やしたところ、腰を痛めてしまって。なので、反省しながら小休止しているところです。

小林
今は不安かもしれないですけど、相当走り込んでいるようですね。そのモチベーションが素晴らしいです。自分はゴールドウインに入社して、近くに山がある環境になったことが直接のきっかけです。まずは登山部に入って、じゃあ走ってみようかなって。それが5、6年前のことです。

佐藤
小林さんも環境の変化が後押しになったんですね。

小林
はい。自分の場合はマラソンからではなく、登山の延長でした。いざ走ってみたら「こりゃ面白いぞと」ハマって。そのときにすぐ、気が早いと笑われるかもしれないんですけど、当面の目標になるようなゴールを設定しようと思ったんです。ULTRA-TRAIL Mt. FUJIのことは知っていたので、当時まだ同時開催されていたハーフコースの〈STY〉を完走したらレースを卒業できることにしよう!と。

そしたらSTYの距離カテゴリーが一時廃止されてしまったので、100マイルのFUJIに目標を定めたという経緯です。そこから30㎞レース、60㎞レース、100㎞レース、100㎞超のレース…と少しづつ距離を伸ばしていって、今回の初100マイルになります。

未体験の“二晩目問題”に挑む

―2人とも、160㎞を一度に走るのは初めての経験になりますよね。この距離をどう据えていますか? どんな点が未知数なのか、それに対してどういう準備をしているのか。

佐藤
正直に告白すると、すべてが不安です。100㎞を超える山のレースの経験が無いので…。

小林
その不安とは、具体的に?

佐藤
以前出た80㎞のレースで、寝ないで走るというツラさを体験しました。一晩のことだったのですが、それでも十分に酷な経験だったので、制限時間がスタート翌々日の昼になるFUJIではそれが二晩になるかと思うと。完走経験者の潮店長は「楽しみだね、ワクワクするね」と言って下さるんですけど、本音ではワクワクできないというのが率直なところです。

小林
二晩目問題というか、睡眠どうするか問題というか。難しいですよね。自分もターゲットタイムからすると二晩目をすごすことになりそうなので、レース中にいかに「寝る」かがカギになると考えています。徹夜でレースして迎える明け方の眠さったらないですよね。

佐藤
今までレース中に寝たことはあるんですか?

小林
眠気をスッキリさせるために軽く横になるというレベルしか経験していないので、FUJIでは事前に作成する予想通過タイムチャートに寝るための時間を組み込んでおかないと、と考えています。今年の初めに走った奈良県の100㎞レースで、雪のなか一晩超えたときにガクッとパフォーマンスが落ちる経験をしたので、途中でしっかり寝たほうがトータルでは完走に近くなるんじゃないかと思っています。

佐藤
どの時間帯、どのエイドステーションで寝ようと考えていますか?

小林
そのあたりを逆に諸先輩方に聞きたいところで。佐藤さんの先輩に教わりたいくらい。寝ないで走るトレーニングって普通はやらないじゃないですか。だからいざ本番でどうなるか。

佐藤
実は私、不安に思う気持ちが勝って、夜を超す練習もやってみたんです。徹夜で走ったらどんな大変なことが起こるのかのシミュレーションのつもりで。

小林
ホントに!?

佐藤

さすがに山の中1人で夜を越すのは怖かったので、ロードのロング走で。仕事終わりに、職場から50㎞先にある埼玉県の実家まで、終電が無くなる時間を狙って走りました。電車が動いていると途中で乗りたくなってしまうはずなので。それで往復100㎞を経験しました。

小林
そのメンタリティがあれば電車が動いている時間でも大丈夫そうです。

佐藤
ただ、街灯に照らされた舗装路をウトウトしながら前に進むのと、ヘッドライトの光を頼りにガレた路面を登ったり下ったりというのはまた違うと思うので、私も現段階のレースプランではしっかりと寝て、ある程度フレッシュな状態でナイトセクションに入りたいなと思っています。

―いよいよ本番が迫っていて、レース前の調整期間を考えると今現在から4月頭までがトレーニングの佳境になるかと思いますが、どんな風に過ごしていますか。

小林
未知の距離にはなるんですけど、今まで100㎞超の大会やステージレースに出てきたので、そのときの感触を自信に変えて。富山県は幸か不幸か雪どけが例年より早いので、地元のホームコース、県民公園 頼成の森を走り込んでいます。クルマで20分の距離にある標高200mほどの低山で、定番の周回ルートをぐるぐるしています。

佐藤
私は走りたくても走れないモヤモヤとした状態なのですが、まだ少しだけガマンすることにして、治療院に通っています。効果的なストレッチのやり方を教えていただいたので自宅でも実践したり、ピラティスのような補強トレーニングをやったりしているところです。

小林
幸いにもやりたいのにやり切れていないという何かはありません。真冬はトレッドミルで走っていましたが、3月に入って雪が融けてからは山不足から解放されて、楽しみと不安とが5分5分になってきました。佐藤さんは恐らく不安の方が大きいですよね?

佐藤
不安8割です。痛みがどれくらいで引いてくれるか、調子がちゃんと戻ってくれるか。でも、気持ち的には100%出走する意気込みですよ。

信頼のおけるギアに身を預けたい

―先ほど睡眠マネジメントの話題が出ましたけれど、他に何かトレーニング以外の、ギアやレース計画の準備は進んでいますか。

佐藤
補給をどうするかは迷っています。「どうか内蔵トラブルは起きないでください」という、神頼みの心境。フルマラソンでは食べるという要素はさほど大きなファクターではなかったので、経験不足なんです。ウルトラマラソンに出たときにエナジージェルを補給した経験があるのですが、お腹が緩くなったり、気持ち悪くなったりするケースが多かったんです。

小林
トレイルレースではどうだったんですか?

佐藤
トレイルでも同じ失敗を経験したので、やっぱり苦手意識がありますね。先輩方の話だと、ジェルもいいけど、FUJIならエイドステーションで富士宮焼きそばや吉田うどんといったローカルグルメが食べられるので「ジェルもいいけどリアルフードをメインのエネルギー源にしてみては」とアドバイスいただいています。それらをどんなタイミングで摂取すべきかを、今まさに練っているところです。

小林
食べないと前に進めないですものね。最近、おにぎりだけをエネルギー源にして走るというのを試してみたんですよ。でも固形のリアルフードだけはだけで段々と喉を通らなくなってしまい、胃ももたれてしまって。かといってジェルだけだと空腹を感じてしまうので、それだと補給量が足りていないのかなと。どんなバランスで、何を補給するかは、自分も思案中です。

レイヤリングも悩んでいます。2022年に参加した〈美ヶ原トレイルラン〉が酷暑のコンディションで、熱中症になってしまって。それから日焼け止めやら汗対策やらを意識していたのですが、この冬に雪の中を走ってみて、今度は汗をかきたくないからと薄着すぎたのか、逆に体力を消耗してしまい、薄着すぎのもダメなんだなと。

今愛用しているのは、THE NORTH FACEのウインドストッパー素材のショーツです。

小林さん愛用ギア

佐藤
そんなアイテムがあるんですか!? 知らなかったです。

小林
現行品ではなく、以前展開していたアイテムだと思うんですけど。トレイルランを始めてすぐの頃に、社員向けのセールで購入しました。生地に耐水防風性があるのはもちろんですが、生地の貼り合わせも接着が多用されているので、多少の雨なら防いでくれます。

佐藤
冷えにも強そうですね。

小林
そうなんですよ。雨の日って当然地面も濡れているじゃないですか。そんなシチュエーションでも休憩時に臆せず腰を下ろすことができます。生地に水が染み込んでこないので。

佐藤
それはいい! もしかしてそっちのロングパンツも同じような素材ですか?

小林
はい。これもウインドストッパーで、かつ縫製箇所にシームテープまで貼られています。ゴア社の認証する防水製品の規格は満たしませんが、トレイルレースで求められるレインパンツのレギュレーションには対応するケースがあります。何がいいって、生地に多少の伸縮性があって走りやすいんですよね。伸びるレインパンツって貴重じゃないですか。その分パターンも細身で、きれい。もっとも本格的な雨だと不安なので、FUJIに向けて何か新調したいなと思っているところではありますけど。ちなみに佐藤さんはどんなレインウェアを使っていますか?

佐藤
私は本番用のジャケットはもう決めていて、ゴアテックス シェイクドライを使ったTHE NORTH FACEのHYPERAIR GTX HOODIE一択です。今季もさまざまな新作レインウェアが出ていますが、この素材がやっぱり軽いですし、表地は防水透湿メンブレンがむき出しだから水をまったく吸わないですし。実は夜通し100㎞走った日というのが本降りの雨だったんですよ。その日に勤務先で衝動的にコレを購入して、お店のレジの前ですぐ羽織って、今から行ってきます!と。よく言われる「心が折れる状態」を経験しておきたくて、敢えて雨の日を狙って走ったところがあるのですが、このジャケットが快適すぎて心が折れることはなく(笑)。冷えや濡れからしっかり守ってくれたので、コレはもう買ったその日から自分を守ってくれた、お守りのような存在です。

佐藤さん愛用ギア

小林
シューズも決めていますか?

佐藤
THE NORTH FACEの新作、SUMMIT VECTIVE PROを試しています。VECTIVEシリーズのミッドソールがアップデートされて、厚みとクッション性が増したので、初めて100マイルを走る人から熱心に走り込んでいるトップランナーまで、幅広い人に合うと言う触れ込みで。THE NORTHE FACEアスリートの土井隆さんも履いてらっしゃるそうです。足型も変更になって、つま先部が広がっているので、私は5本指ソックスを履くなどして調整して走っています。

小林
シューレースも見たことのない形状ですね。

佐藤
結びやすいんですよ。凹凸が引っかかるので緩みにくくって、しっかりキュキュッと締まる感じが好みでした。

―やはりギアの話になると盛り上がりますね。改めて最後に、トレイルラン、しかも100マイルという距離にここまで惹きつけられている理由を言葉にしてみて下さい。

小林
景色とアスレチック感でしょうか。山登りが好きなので、そこにアスレチック要素が加わるトレイルランはそれはもう楽しいです。そして、ただ歩くよりも感動的な景色に一日の中で沢山出会えます。だから繰り返しになりますが、せっかくレースに出るなら長い距離を、最高峰をと。無事にゴールできたらレースはひとまず卒業して、FUJIで培った体力と知識を活かして、富山県のアルプスを遊びたいと考えています。

佐藤
やはりゴールがカッコよかったというのが最大の動機です。私はトレイルランをきっかけに山に行く機会が増えました。ロードのマラソンでも達成感はあるんですけど、自分の足だけでこんな高いところまで来た!という達成感はその何倍も大きくって。そんな楽しさが山で見つかりました。最近はクルマが往来する街中ではなく、自然に囲まれた中を走るという楽しさも実感してきたところなので、FUJIをゴールできたとしても、ロードとトレイル半々ぐらいの割合で、そしてもっと山の知識を身に付けて、より深く山を楽しめるランナーになりたいですね。

(写真 古谷勝/ 文 磯村真介)

  1. 小林達郎(こばやし・たつろう)
    1988年生まれ。現在ゴールドウインテックラボの商品本部商品研究部に勤務し、パタンナーとし商品開発に携わる。入社をきっかけに登山を始め、その延長でトレイルランニングに目覚める。
  1. 佐藤奈津子(さとう・なつこ)
    1993年、埼玉県生まれ。ロードランニング歴は約7年。2019年にゴールドウインに入社、2022年にランニング専門店「THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO」勤務に。100マイルを完走した先輩の勇姿をみて、FUJI参加を決意した。

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