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スポーツを楽しむコツ

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UTMF直前!
完走者が語る、100マイルを走りきる極意
木村豪文(GOLDWIN)×村井絢子(GOLDWIN)×鵜野貴行(THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO)

2016.09.14

来る9月23〜25日に開催される、日本屈指のウルトラトレイルマラソン「ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)」。レース開幕を直前に控え、すでにUTMFを完走している経験豊富なランナー3人による鼎談が実現。100マイルを完走するための心構え、苦しい時間の乗り切り方、レース中のお楽しみなど、UTMFに挑む際のメンタル面のTIPSを伺いました。

村井 木村さんとは休みのタイミングが同じなので、レースなどでたまに一緒になりますよね。トレーニングで山に連れて行ってもらったこともありますし、憧れの先輩ランナーです。

木村 以前は一人で黙々とトレーニングをすることが多かったんだけれど、山に丸一日入る時は誰かと一緒に楽しみながら走ることが多いかな。

鵜野 逆に僕は休みも不規則だしマイペースで走りたいから、一人でふらっと走りにいきますね。

村井 今年の春まで約1年、海外のトレランの聖地みたいな場所で暮らしていたんですよ。なので昨年は30レースくらいに出場したんですが、日本でのロングトレイルレースは2015年の「伊豆トレイルジャーニー」以来。

木村 向こうはどんな感じですか。

村井 私が住んでいたところは、なだらかで走りやすいトレイルが多く、「なんて楽しいんだろう!」と感激してレースに出まくっていたんですが、一年も経つと日本の山岳ならではのスティープなシングルトラックが恋しくなってしまって。100マイルはこれが4回目なんですが、もう一度UTMFのあの雰囲気に身を置いてみたくて、今回の出場を決めました。

木村 僕はUTMF自体が4回目なので、実はもういいかなと思ったんだけれど、家族の影響が大きくて。子供が成長してきて、僕が走るとすごく喜ぶんですよ。そんなこともあって、今年もまた挑戦することにしました。

HOW TO RUN UTMF①
ズバリUTMFを走りきるためのコツとは

鵜野 周りに流されず、自分のペースを保つ事かな。個人差はありますが、多くの人は40時間くらい走り続けるわけです。40時間もあれば誰だって不調を経験します。その辛い時間帯に、いかに気持ちをしっかり持って動き続けるか、それが鍵だと思いますね。今は辛くても、あと数時間したら必ず持ち直すって信じるんです。これまでのレース経験でそういう時の対処法や、復活のタイミングというものが体に染みついているから、それを信じて走るしかない。

木村 自分の体調やコンディションを客観的に見つめることですよね。無理してスピードを上げたり、飛ばしたり、とにかく無茶はしない。後半必ずバテますから。自然の中でいかに自分らしい走りを保つか、それがトレランの面白さ。

村井 私は運営スタッフや仲間の応援に励まされて走っています。夜中なのに山中でボランティアの皆さんに声をかけてもらったり、エイドで甲斐甲斐しくサポートしてもらったり。走っている時も感謝の気持ちで胸がいっぱい。くじけそうな時も、もう少しで次のエイドだ、あそこまで行けばみんなに会える、そう思っていると不思議と乗り越えられるんです。エイドとか応援とか、小さなゴールの積み重ねの先に160kmのゴールがある、そんな感じなのかな。

木村 そうそう、160kmもあるから潰れそうになることはもちろんあって、でもありがたいことに仲間や友達がコースで応援してくれている。見ず知らずの人も声をかけてくれることもありますし、それで力をもらっている気がします。

鵜野 前後を走るランナーとの交流とか、山の上から眺める景色とか、160kmにはトレイルのレースならではの醍醐味がありますよね。あとはエイドに用意されている食事も楽しみの一つ。温かいお味噌汁とかね。僕はレースには必ず、白米のおにぎりを携行するんですが、それをお味噌汁に入れて食べる。あれは心底、幸せ(笑)。

木村 エイドのうどんとかお味噌汁とか、もしかしたら普通のメニューなのかもしれないけれど、レース中に食べると世界でいちばんおいしいものに出合ったって感じる。感覚が鋭くなっているのか、一口飲んで涙が出そうになったことも(笑)。あれを楽しみに走っている人は多いと思います。

村井 私だけかもしれないけれど、レース中の自分の妄想も原動力の一つ。例えば、60km地点が一番辛いポイントで、長々と走ってきた気がするのにまだ100kmもあると考えると心が折れそうになってしまいます。そこで妄想力を本領発揮。「これを走りきったらものすごくスレンダーなスタイルになっていて、どんな服も似合うようになる!」とか、自分を少しだけハッピーにしてくれる妄想を繰り返しながらゴールを目指します。

HOW TO RUN UTMF②
長いレース中で気分転換に必要なこと

村井 私は着替えかな。昼と夜で必ず着替えます。冷えると身体が動かなくなるからということもありますが、乾いたものに着替えると気持ちいいですよね。いい気分転換になります。あとはお気に入りの「勝負ピアス」をつけてみたり。誰も見ていないけれど(笑)、気持ちを盛り上げてくれるものを身につけることは大切だと思っています。

鵜野 僕はおにぎりですね。げんこつサイズを4つくらい持っていきます。食べられそうもない時も、とにかく口に入れて咀嚼し、胃腸を動かす。それをエイドで味噌汁に入れて食べる。あとは、ゴール後のコーラと餃子を思い浮かべて気持ちを盛り上げます。

木村 僕は子供の写真と、あとはシューズかな。自分がシューズの企画をやっているということもあって、常に履き替えを用意しておいてコンディションによって使い分けています。

HOW TO RUN UTMF③
初参加ランナーが完走を目指すために

鵜野 とにかく気負いすぎないことです。100マイルともなると、記録とか完走より、とにかく目の前に降りかかってくるトラブルの一つ一つに対処していくことが多くなる。1面ずつクリアしていくゲームみたいな感じ。記録や完走を気にし始めると自己完結してしまいがちだけれど、UTMFはいろいろな楽しみ方ができるレースですから。

木村 UTMFはお祭りだから。そう思って楽しむのがいちばん。だってあんなに人が集まるレースって他にないですし。

村井 あんなに誰かに拍手してもらえる機会って、自分の結婚式かUTMFくらいしかない。ランナーもボランティアもスタッフも、みんなが主役の舞台です。主役でいられる幸運を、目一杯楽しんでほしいですね。

木村 自分が好きでやっていることなのに、みんなに「よくやった」って言ってもらえて、だからみんなに「ありがとう」って言いたくなる。そういう感動が、レース終了後も長く続く。UTMFってそんな幸せなレースだと思うんです。

ゴールしてももっと走りたい、そんな気分になっていた

村井 初めて完走した時は疲れ切っていたのか、「無」だった気がします。完走の喜びや感動は後からじわじわきました。

鵜野 僕の初100マイルレースは序盤・中盤とほとんど潰れていたんです。食べるものを食べ、少し寝たら後半に大復活しまして。終盤はとにかく走りまくって、最後の区間だけはなぜか区間21位になっていました。そんな経緯もあって、ゴールしてももっと走りたい、ここを走る気持ちよさをもっと味わっていたい、そんな気分になっていましたね。

木村 初レースは結構、タイムが良かったんですよ。だからゴールには誰もいないだろう、淡々とゴールするんだろうなと思っていたら、ゴールの手前1kmあたりで会社の仲間が大勢、待ち構えていたんです。最後はみんなが僕を囲んで走ってくれて、だからみんなでゴールしました。

ポジティブな気持ちが、日常生活にいい影響を与えてくれる

鵜野 UTMFを完走したことは大きな自信になりました。物事に対してコツコツと向き合うという意識を持てるようになったんです。それから身体のこと、食のこと、生活のこと、全てを丁寧に生きていこうって思えるようになったかな。

木村 初完走した時、ゴール後に鏑木さんから「いいでしょ、100マイル。また出たくなったでしょ」って言われたんです。その時は心の中で「また100マイル走るなんて無理!」って思っていたんですが(笑)、そんな僕も今年で4回目。毎日の生活の中では100マイルを走る以上にキツいこともあるけれど、「諦めずに取り組んでいけばいつか必ず乗り越えられる」という前向きな気持ちはUTMFに育まれたと思っています。諦めたらおしまい。だから諦めない。

村井 私は身体と対話ができるようになりました。身体が強くなったとかそういうことではなく、身体の声にきちんと耳を傾けられるようになった。気持ちと体のバランスがうまく取れるようになって、結果的にパフォーマンスもアップしましたね。そして何よりも、UTMFによって自分の居場所ができたと感じます。「あなたはどんな人ですか?」と問われた時に、「私はこういう人間です。こういうことをやって、こういう楽しさを知っています」と胸を張って言えるものがある。自分の人生の芯ができるって、すごく幸せなことなんじゃないでしょうか。

  1. 木村豪文(きむら ひでふみ)
    1981年青森県生まれ。高校時代は陸上競技部に所属し、3000mSCの選手として活躍。大学卒業後、ゴールドウインに入社してトレイルランニングに出合う。2012年にはUTMFに参戦、26時間22分で完走。また今年5月には地元・青森で行われた名久井岳トレイルレース22kmの部で初優勝を飾った。現在はTHE NORTH FACEのフットウエアチームでシューズの企画を行っている。エリートランナーに向けて開発した日本別注のロードランニングシューズ、「ウルトラレプルージョン」シリーズを手掛け、1年と3ヶ月シューズの生産拠点であるベトナムのホーチミン市で過ごした。
  1. 村井絢子(むらい あやこ)
    1982年、北海道生まれ。学生時代にアルペンスキーに出合い、競技スキーに取り組む。美術系の大学院卒業後ゴールドウインに入社、2009年よりTHE NORTH FACEアパレルの企画に携わり、1年間のアメリカ生活を経て、現在C3fitの企画チームに所属。仕事をきっかけに出会ったトレイルランニングにのめり込み、2013、2014年のUTMFを完走。2014年には念願のUTMBに参加し、憧れのモンブランを走った。
  1. 鵜野貴行(うの たかゆき)
    1983年、静岡県生まれ。大学卒業後、自転車メッセンジャーとして働いたことをきっかけに、身体を動かす面白さに目覚める。2011年ゴールドウインに入社後、当時の同僚に誘われてトレイルランニングレースに初参加。2013年よりTHE NORTH FACEのランニング専門店「THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO」スタッフとして勤務。2013年にSTY、2014年にはUTMFを完走。その後はトレイルランニングと登山の要素があるファストパッキングに傾倒し、縦走大会やロゲイニングにも積極的に取り組んでいる。

(写真 八木伸司 / 文 倉石綾子)

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