
日本を代表するウルトラトレイルレース、「ウルトラトレイル マウントフジ(以下、UTMF)」が来たる4月22〜24日にかけて開催されます。3年ぶりの開催に備え、トレイルランナーはどんな準備を行なっているのか。レースに参加するGOLDWIN社員の装備と心構えに迫ります。

ランニング歴15年を誇るのは〈THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO〉に勤務する山口兼孝さん。中学2年時に入部した陸上部では5000mと3000m障害でレースに出場するなど、学生時代はトラックをメインに走ってきました。5000m15分半という自己ベストや3000m障害で関東大会出場という経歴を持つものの、いつしかタイムや記録を追いかける走り方に疑問を感じるようになったといいます。
そんなときに体験したのがトレイルランニングでした。「トレイル自体はどこか障害レースと似ている」といいますが、トラックやロードより自由で応用性の高いトレイルの魅力にすっかりハマってしまったとか。

社内には経験豊富なトレイルランナーが多く、経験値や戦略性がものをいうトレイルを走るモチベーションになっているという山口さん。前回は残念ながら足の故障によりA5(勝山)でリタイアしてしまったということから、今回は“無理なく・怪我なく・楽しく”完走を目指しています。
山口さんなりのレース戦略では前回リタイアしたU5の前後の長いロードがポイントに。大会に出ると「ついついレースモードになってしまう」という山口さんにとっての鬼門です。
「後半に備えてこの長いロードをいかに抑えられるか。つい走りたくなりますが、ここで力を温存して後半につなげたい。夜間のいちばん眠い時間帯にさしかかる区間でもあり、眠気との戦いにもなりそう」
経験豊富なランナーが、UTMFに備えるもの

ハイパーエアーGTXフーディ

フライトハイパーベントヌプシクルー

オーバーミトンとグローブ

FLIGHT VECTIV™

そのほかシェルパンツ、インサレーショントップス、ロングパンツ、予備も含めてヘッドランプ3台、ファーストエイドキット、携行食を「TR10」に。
「僕は昼と夜で着替えようと思って、富士急ハイランドのエイドに荷物をデポします。冷えによる体力消耗を防ぐ意味もありますが、着替えることで気分転換になります」
レース前の過ごし方のポイントとして、「とにかく寝る!」と山口さん。どんなにコンディションを整え、装備を完璧に揃えても寝不足では台無し。たっぷり睡眠をとって体調を整えることがレースを楽しむコツだと考えています。
「30〜35時間でゴールできたら最高ですが、今回は“怪我なく完走”が最優先。レースとなるとついついタイムにきりきりしてしまうのですが、冷静さを保ってレースのさまざまな局面を楽しむ余裕をもっていたいですね」
初ウルトラ・初UTMFを目一杯楽しみたい!
〈THE NORTH FACE コクーンシティ コクーン2〉などでエリアマネージャーを務める五嶋淳司さんはランニング歴3年。大幅な減量後、体力アップを目的にランニングを始めました。
「10kgほど軽くなって久々に走ってみたら、驚くほど身体が軽くなって走ることが楽しくなったんです。それですっかりランニング好きになってしまいました」
学生時代は陸上部やサッカー部に所属して走り込んだ経験があり、もともと走ることは苦ではなかったといいますが、それにしても今年に入ってからの月間走行距離は310〜320kmというから相当な走り込みです。

「ロードではありえないようなスピードで駆け降りられて、純粋に気持ちがよかったんです。大学時代、日々コンディションが変わり、一つとして同じシチュエーションがないところに魅力を感じてスノーボードにハマったのですが、トレイルランニングにもそれと同じ要素を感じました。天候、体調、装備によって、走りもタイムもフィーリングも変わる。『ここまでいったらおしまい』というゴールが見えない、その奥行きの深さが好きなのだと思います」
トレイルランニングを始めたのがコロナ禍の直前ということもあり、レース参戦経験は多くありません。昨年、一昨年は「IZU TRAIL Journey」、「奥信濃100トレイルランニングレースなどを走っていますが、100マイルは未知の世界。だからこそ心構えも準備にも、熱が入ります。
「3月に豪華メンツでコースの試走にいきました。“GOLDWIN最速”と異名をとるシューズ開発の木村豪文さん、UTMFはすでに完走済みの村井絢子さん、そして経験豊富ですが、同じく今回初UTMFとなる田嶌一徳さん、それにTNFアスリートのトレイルランナー、志村裕貴さんというメンバーに混じらせてもらったのでついていくだけで精一杯でしたが、やはり得るものは大きかったですね」
試走の結果、五嶋さんが注目したのは前半の天子山地の登りとその後の長いくだり。
「天子山地は上りがきつかったのですが、試走を経験したおかげで心を強く保って臨めそう。下りもついついスピードを出してしまいそうなので、抑えるつもりです。最後の40km、トリッキーな岩場の杓子が思った以上に滑りやすくキツかった。試走時はまだ雪が残っていたこともあり、ヒヤッとする場面が何度かありました。ここは注意深くいきたいですね。いちばん辛いのが、ラストの霜山のなだらかな登り。これも試走で経験できたので、心を折らずに走れそう」
初めての100マイル、トラブル対応型の装備で慎重に

携行食

フライウェイトレーシングショーツ

100(ワンハンドレッド)ドライタンク

VECTIV™ Infinite

UTMFの目標を「まず出ること、そして完走すること」という五嶋さん。実はUTMFの第1回大会をエリア長として視察、スタート地点でのお祭り騒ぎの雰囲気を存分に味わったといいます。
「当時はこのレース独特の雰囲気を肌で感じて、とにかくなにかお手伝いしたい、ここを走る人たちのためになにか役に立つことをしたい、そんな気持ちでした。ここを走るなんてとんでもないと思っていたけれど、今年、ついに自分がこのスタートに立とうとしている。感慨深いものがありますね」
少ないレース経験のなかでもいろいろな失敗を重ね、少しずつ前進している実感があるという五嶋さん。
「多くのランナーが強い思いを抱いて参加するレースですから、自分も目一杯、楽しみたいと思っています」
2人のレースリポートは近日公開いたします!
(写真 古谷勝 / 文 倉石綾子)
- 山口 兼孝(やまぐち・かねたか)
1993年生まれ、山梨県出身。中学生で陸上競技を始める。大学時代にトレイルを走るようになり、2015年「峰山トレイルレース」でトレイルランニングのレースを初体験。トレイルランニングをきっかけに山歩きやナビゲーションレース、キャンプと、アウトドア志向のライフスタイルへとシフトしてきた。現在は〈THE NORTH FACE FLIGHT TOKYO〉に勤務しており、自身の経験を顧客と共有できるような接客を心がけている。
- 五嶋 淳司(ごしま・じゅんじ)
1974年生まれ、愛知県出身。学生時代は陸上部やサッカー部に所属、大学でスノーボードに目覚め、卒業後はフライフィッシングなどさまざまなアウトドアアクティビティに親しむ。体を絞ったことからランニングをはじめ、久々に参加した2019年の富山マラソンで3:41を記録。サブ3.5を目標に走り込んでいる。昨年より〈THE NORTH FACE コクーンシティ コクーン2〉などでエリアマネージャーを務める。