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いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

ブランドを通じて、ひとりでも多くの人にアウトドアマインドを広げたい 後藤太志

2022.12.02

2022年12月4日、歴史的なマラソン大会が開催される。〈第17回湘南国際マラソン〉は、世界で初めてのマイボトル・マラソンとして新たなスタートを切る。マラソン大会に参加したことのある方なら、給水所に散らばる無数の紙コップやプラスチックカップのゴミを見たことがあるだろう。走りながらその光景に心を痛めたランナーも少なくないに違いない。

今回の〈湘南国際マラソン〉は、ランナーにマイボトルやマイカップを持って走ってもらうことで、従来用意していた31,500本のペットボトルや、紙コップ・プラカップ50万個、フィニッシュ後に配布するペットボトル26,000本を撤廃した。今大会から取り組む「給水システム」を導入することによるCO2削減効果は、約6トンとなるという。これは、500㎖のペットボトルに使われている資源を、約17万本分削減した場合と同等の効果だ。

〈The North Face〉でパフォーマンス部門の商品企画チームを率いる後藤太志さんは、大会を主催するランナーズウェルネスと共に世界初のマイボトル・マラソン実現に向けて尽力してきた一人だ。その背景にはエンデュランス・アスリートとして過ごした学生時代の経験とゴールドウインに入社して触れたアウトドアマインドとの結びつきがあった。

中距離ランナーから自転車選手へ

熊本で生まれ育った後藤太志さんは、物心ついた時からスポーツに夢中だった。小中学校時代はサッカー部で活躍するかたわら、俊足を買われて陸上部の練習にも駆り出された。

「駅伝大会やトラック競技に出場していました。中距離走をやっていたんです。800mや1500mが得意種目で、県大会でも入賞するようになりました。すると高校の自転車競技部から声がかかったんです。サッカーもいいけど個人競技もやってみたかった。それに、ちょうど中学生の時にツールドフランスをTV観戦して、激しけれどクールなヨーロッパスタイルに憧れました。何も知らなかったけど高校で自転車競技をやってみようと思ったんです」

折しも熊本国体の後で、地元での自転車競技の強化が進み、自転車部を持つ高校が中学校の陸上競技部から自転車の適性がありそうな学生を集めていた時期だった。後藤さんは県大会の800mで入賞し、駅伝部を持つ高校からの誘いもあったが、自転車競技を選択した。

「走るだけってちょっと辛いじゃないですか。自転車は下りは足を止めれるから楽かなって(笑)。それに高校駅伝で日本一はハードルが高いけど、自転車だったらインターハイ優勝もできるんじゃないかみたいな、訳のわかんない自信で。実際、自転車競技をやり始めたらめちゃくちゃしんどかった。選択を間違えた!と思いましたね(笑)」

自転車に打ち込んだ学生時代

高校生といえども自転車競技は120kmに及ぶ距離で競うこともある。プロトン(自転車競技における集団)を作り、駆け引きがあり、ゴール前ではスプリントで勝負する。後藤さんは山岳に強いタイプの選手で、登りが得意だった。

「県大会でも九州大会でも2番が多くて、ずっと1番になれなかったんですよ。インターハイもトップ集団にいたんですけど、最後のゴールスプリントで落車しちゃって。いつもツメが甘い学生生活だった。だからこそ燃え尽きずにさらなる高みを目指すモチベーションとなっていた。」

それでも大学も自転車競技の推薦枠で、強豪の法政大学へと進んだ。そこでは典型的な大学体育会の生活が待っていた。

「当時の厳しさでいうと日本大学が1番強くて厳しくて、2番目が法政大学。府中にある寮生活で、1年生が全員毎朝4時30分に起きて掃除して朝飯を作る。30人分の晩御飯も週に1日担当制で1人で全員分を作っていました。練習も朝5時半から毎日60km以上走る。土日は奥多摩や山中湖に行って1周して帰ってくる150kmコース。山中湖に行くと、同じ学生たちがサークルで遊んでて、それを横目に俺ら何やってんだろうって(笑)」

アウトドアスポーツの豊かさに触れる

自転車漬けの学生時代を経て、C3fitなどの自転車と馴染みのあるブランドや、大好きだったThe North Faceを持つ株式会社ゴールドウインに入社する。最初に配属されたのは財務部だったが、土日は店舗のイベントに顔を出したり、〈The North Face〉が協賛するウルトラトレイルレース〈UTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)〉に挑戦したり、伝統的な山岳レース〈ハセツネ〉に出場したりとアウトドアの現場に貪欲に顔を出した。

「1年目のやつハセツネに出て速かったらしいぞ、しかも財務部だってなると目立つじゃないですか。ハングリー精神が養われて、いろんなことにチャレンジしました。ウィンタースポーツも縁がなかったけれど、スキーやスノーボードに連れて行ってもらったり。ガチの体育会系だったので、距離やタイムや順位を争うものから、アウトドアスポーツのマインドに触れて、すごく豊かで楽しいなぁって思い始めましたね」

そうした活動が認められてか、希望していた〈The Nothe Face〉事業部に転属し、商品企画に携わることになる。仕事と自身のアクティビティが直接結びつく中で、特にのめり込んだのがトレイルランニングだった。

「自転車と近いところもありますし、自転車以上に時間が長いので、考えることも多い。若い時は意外と気が短かったんですよ。すぐに感情的になっていた。でも、トレランをやりだして器が大きくなったと言いますか、気が長くなったんです。不慮のトラブルに動じなくなりました。レースは思い通りにならない。天候も気温もころころ変わりますし、もう終わったと思ったのにまた登りが出てくるとか、調子が良くて足は残ってるのにお腹が痛くなるとか、いろんなトラブルがある。でも、それを受け入れながら自分の身体と対話したり自然と対話しながら、心も身体も調整できるようになっていく。仕事や友人、家族とのコミュニケーションの中でも、悪いことを受け入れたり前向きに変換できたりとマインドが変わってきたのがわかった。それで身体を動かしながら心をコントロールする遊びは面白いなと思うようになりました」

取材の一週間前にも100kmを超えるレースに出場したばかりの後藤さん。怪我もあり練習も思うようにできない中だったが、持っている条件で課題をクリアするという気持ちのマネジメントを養う良い機会になったという。

「全然練習できていない身体で足が痛くなることも分かっていたしキツいのも分かってたんですけど、110km、累積標高7,000mを気持ちでコントロールできた。その過酷な中を自分で心と身体をマネジメントできたっていう達成感がありましたね」

そうしたマネジメント感覚は仕事にも活かされている。

「最近はチームやプロジェクトをマネージメントする役割も担っていますが、若いメンバーも多いチームなので、レースと一緒でトラブルやゴールを見失うことはつきもの。それでも焦らず、動じずにひとつひとつ整理して紐解いてれば解決策が見えてきたり、チームのモチベーションも上がっていったり、そういうのも楽しいなと思います」

マラソンの世界にアウトドアのマインドを

ストイックな競技の世界とアウトドアの豊かさ、どちらの魅力も知っている後藤さんだからこそ取り組めたのが、今回のマイボトル・マラソンだ。きっかけは〈湘南国際マラソン〉を運営するランナーズ・ウェルネスから、従来とは違うマラソン大会を行いたいと〈The North Face〉に声がかかったことだった。

「〈The North Face〉がマラソン大会を協賛する意味や、何が提供出来るんだろうと凄く考えました。そのために視察をして大会全体を見てみると、ものすごくゴミが多いことに気がついた。衝撃だったのが、最後尾のランナーの後ろにゴミ収集車が8台くらい並んでゴミを回収していたこと。ボランティアの方達に言われたのが、仕事の7、8割はゴミの片付けだと。それでチームでも話し合い、ボランティアに優しい大会、ゴミのないサステイナブルな大会にしたいという希望を伝えさせていただきました」

湘南ビーチFMで〈湘南国際マラソン〉のマイボトル・マラソンについて語る後藤太志さん。商品企画に留まらず〈The North Face〉のマインドを幅広く発信する役割も担う。

大会側からはゴミを無くすのは難しい、ペットボトルをなくすことはできないという回答だった。しかし、協議を進める中で、大会を運営している方達の中でもボランティアに負担をかけたくない、ゴミは出しすぎだよね、といった従来から感じていた課題を再考する機運が生まれてきた。そうして時間をかけてマイボトル・マラソンの具体的な仕組みを開発することになったのだった。

「以前の大会では13箇所のエイドステーションに50tの水を入れていた。50tの水をペットボトルと紙コップを使わずにどう配置するかというシステムを一緒に考えて、ジャグや給水タンクをオリジナルで作りました。それによって、みんながマイカップやマイボトル持って走れるようになるので、その1歩踏み出しましょうよと。そういう景色がもしできたら、他のマラソン大会も変わってくる。ランナーの方たちがクリーンなマラソン大会が良いよね、こういう大会の方がむしろ速く走れたねとか、そういったことがあれば他の大会にも波及していく。ひとつの大会では大きな変化は望めないかもしれないけれど、これがマラソン大会の当たり前になったり、ランナーの意識が少しづつ変わっていけば大きなものになるんじゃないかと思うんです」

後藤さんは、ブランドを通じて自分自身も養われたアウトドアのマインドが、〈湘南国際マラソン〉のような機会を通じて、より多くの人に広まって欲しいと考えている。

「〈The North Fcae〉を通じて、〈湘南国際マラソン〉から〈UTMF〉に参加する人が出てくるかもしれないですし、〈TNF CUP〉というインドアのクライミングの大会から外岩にいく人も出てくるかもしれない。そういった人たちにアウトドア、自然に身を置くことってやっぱり素晴らしいなって感じてもらえれば、この自然を大切にしたいという気持ちにつながる。自分自身が競技から入ってアウトドアのマインドに触れて、自然の中での過ごし方の魅力を知っていった。ゴールドウインの仕事を通じてこれをもっと広げたい、みんなを楽しませたい。ブランドを通じて、ひとりでも多くの人にアウトドアマインドを広げていく。そうすれば、もっと豊かな世の中になるんじゃないかな。そんな気持ちで仕事をしています」

(写真 茂田羽生/ 文 松田正臣)

  1. 後藤太志(ごとう・たいし)
    高校、大学時代は自転車競技に打ち込みインターハイ、インカレ等にも出場。ゴールドウイン入社後は管理本部財務部を経て〈The North Face〉事業部に移り商品企画を担当、パフォーマンス事業を率いる。アウトドアスポーツを幅広く楽しみ、夏は子供とのトレッキングからトレイルランニング、冬はスキーをはじめたとしたウインタースポーツに勤しんでいる。

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