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知床の厳しい冬でも人の集まるお店にしたい 山下佳奈美

2019.10.24

最果ての地ーーおおげさな表現が許されるのであれば、北海道知床半島はそんな秘境の地だ。そしてそれだからこそ、世界遺産に指定される豊穣な自然が今も残る。この地に2019年初夏にオープンした〈THE NORTH FACE/HELLY HANSEN知床店〉で店長を務めるのが山下佳奈美さんだ。

山下さんは生まれも育ちも北海道の、生粋の“道産子”だ。札幌近くの江別市出身で、父の転勤に伴って道北に住んだこともある。自然の中で楽しむキャンプやスポーツ、アウトドアには小さい頃から親しみ、大人になってからはスノーボードに没頭する日々。THE NORTH FACEというブランドを体現するかのようにアクティブな山下さんだが、知床店に勤務するとは思いもしなかったという。

そもそも、知床は道民にとっても「秘境」だ。わざわざ訪れようとしなければ行かない場所なのだという。東京都民が東京タワーにわざわざ登らないように。しかしもちろん、山下さんは度々この地を訪れていた。登山に魚釣り、魚の撮影、星の観察……とそのアクティビティは枚挙にいとまがないが、住んでいた札幌から片道400kmをかけて日帰りで登山をしていたというから、その情熱には舌を巻く。

そんな彼女だから、知床を知っているスタッフに新店舗を任せたい、という上層部のお眼鏡にかなったのは当然といえる。THE NORTH FACEに関わって16年目、ブランドしても画期的な「世界遺産の中にある店舗」の立ち上げ店長に抜擢されたのだった。

ショップは、知床における観光のハブである「知床自然センター」内に置かれている。店の目の前からフレペの滝に至るトレイルの遊歩道が整備された、フィールド密着型のショップだ。訪れるお客さんのほとんどが観光客だ。

「お客様の2割が観光にいらした外国の方。残り8割の日本人の大部分も観光客です。なので、想定外の寒さに羽織れるウェアだったり、知床土産になるTシャツなどの需要が大きいですね。通常の店舗と真逆で、真夏が一番の繁忙期です」

実際に知床で働いてみて、実務上の難しさも経験した。北海道は本土と比べて物流に時間がかかるが、この知床となるとさらに遅くなるのだという。道内では本土より2日余計にかかるのが常だが、知床では4日余計にかかるという。「商品の発注が大変なんです」

ヒグマの生息地にお邪魔します

山下さんに、知床五湖へと連れ出してもらった。地元の人たちが単に「五湖」と呼ぶこのフィールドは、手軽に歩くことができて知床の大自然を味わうことのできる山下さんオススメのハイキングコースだ。知床観光の定番スポットでもある。

とはいえ、ここは知床。遊歩道に入るのに、15分ほどのレクチャーの受講が義務付けられる。その内容は、ヒグマと出会わないように、またもし出会ってしまったらどう対応するか、というもの。自然を手付かずで残している知床五湖のハイキングコースは、世界でも有数のヒグマの生息密度を誇るという。クマの棲家を縫うように進むという訳だ。

クマの目撃情報があると、遊歩道は即刻閉鎖されるという。ここでは人間は『お客さん』なのだと改めて思わされる。山下さん曰く、「知床ではクマに会ってからどうする、よりもクマに会わないというのが基本的な考え方です」人間にとってではなく、クマにとって人間は『招かれざる客』なのだ。

一度に入れる人数が制限される知床五湖。ハイキングルートに混雑はなく、山下さんは慣れた足取りで歩いていく。彼女が登山を始めたのは、THE NORTH FACEに勤め出してからだ。小樽にある塩谷丸山に連れて行ってもらったのをきっかけに、登山熱が高まった。北海道北端の島にある利尻富士に30時間かけて日帰り登山したのも、彼女の熱中ぶりを表すエピソードだ。昨年は雨の屋久島も登ったというから、その行動範囲の広さには目を見張る。

山下さんの興味関心は幅広い。目下のところフライフィッシングに夢中だし、数年前には憧れだったモトクロスバイクを手に入れてツーリングを楽しんでいる。「いつかは釣り竿を一本背中に差して、バイクで釣りに行きたいですね。『シュンクシタカラ湖』という、日本で一番最後に発見された湖があるんですが、そこまでの林道がずっとオフロードなんです。いつか行ってみたいんです」

厳しい冬でも人の集まるショップにしたい

幸いにもヒグマに会うことなく、1周3kmほどの遊歩道周回を歩き終えた。知床連山がきれいに見渡せる展望台からはオホーツク海も見える。夏場にはクジラやイルカが接岸し、冬は流氷に閉ざされる豊穣の海。知床では、山と海が繋がっているということを肌で感じられる。

そして木々は本州よりも早く秋色に染まっていた。当然、冬も早くやってくる。知床の冬は、言うまでもなく厳しいものだ。〈THE NORTH FACE/HELLY HANSEN知床店〉にも、初めての冬がやってくる。

「冬はショップが入っている『知床自然センター』のビジター数が100人を切ることもあるそうです。センターから先の国道は峠になっていて、冬季、12月の1週目には封鎖されます」

繁忙期だった夏と比較して、来客数の減少は免れない冬だが、〈THE NORTH FACE/HELLY HANSEN知床店〉は通年営業することを決めた。そこには冬場の観光客に応えたいという思いと、地元に愛されるお店でありたいという思いがある。

「立ち上げにあたり地元の人が集まれる場所にしたい、という気持ちがありました。だからカフェも併設していますし、そのフードはとにかく美味しいものを提供する。気持ちのよい接客を心掛けて、また来てもらえるよう努めています」

5月に門を開いた新店舗は、そんな努力の甲斐あって、地元の方が食事や世間話をしに立ち寄ったりする場所になってきた。身だしなみも整えて、ちょっとしたお出かけ先として来てくれる方も多いのだとか。「そういう場所になっているのは、すごく嬉しいですね」

知床に冬がやってくる。厳しい冬、しかしそれだからこそ美しさを秘めた知床の冬。山下さんの豊富なアウトドア経験を生かした接客とギア選びが、訪れるものを助ける季節はもうすぐそこだ。

  1. 山下佳奈美
    北海道江別市出身。小さい頃からアウトドアに親しみ、スノーボード、登山、釣り、オフロードバイクなどその趣味・興味の範囲は多岐に渡る。2019年5月17日に『知床自然センター』内にオープンした〈THE NORTH FACE/HELLY HANSEN知床店〉の店長を務める。仕事に行きたくないと思ったことは一度もなく、「仕事も趣味のひとつ」(!)とさらり。

(写真 古谷勝/文 小俣雄風太)

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