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いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

いまはどこまで速く走れるかを追求したい 西浦孝則

2021.11.05

2021年2月のびわ湖毎日マラソン。日本記録が生まれることになる高速な展開の中、エリートランナーたちの間に西浦さんの姿があった。

「飛ばしすぎてしまいました。30km過ぎからはジョギングになってしまって……」と苦い顔で思い出すが、聞けばフィニッシュタイムは2時間25分39秒。マラソンの自己ベストを更新したというがそれでも表情は晴れない。「本当は2時間20分は切れると思っていたんです」

箱根に出ることが夢だった

ゴールドウインテックラボでプロダクトデザインを担当する西浦孝則さんの言葉は、とても一介の市民ランナーとは思えない。それもそのはず、かつては筑波大学で箱根駅伝を目指す長距離選手だった。野球部だった中学生の時に駅伝チームに誘われ、県で一番になったことをきっかけに高校からは陸上に打ち込んだ。『箱根駅伝出場』と、『スポーツメーカーで仕事をする』という2つの夢を実現するために地元和歌山県から進学したのが筑波大学だった。

筑波大学は2020年の第96回箱根駅伝で26年ぶりの出場を果たした。それはつまり、西浦さんの在学中には箱根駅伝出場の夢は果たせなかったことを意味している。

「大学の陸上生活はいっぱい失敗を繰り返した、うまくいかないことの連続でした。箱根にも出られませんでしたし」

高いレベルで長距離走に打ち込んだ選手は、多かれ少なかれ走ることが嫌になるものだ。西浦さんもまた、怪我や不調に悩まされた選手生活に、走ることが苦痛になっていたという。それでも、競技を引退した大学院時代には、女子選手の練習パートナーを買って出て、走ることは止めなかった。なんといっても、専攻の運動力学の研究テーマが「効率のよいランニングのフォーム」なのだから、やっぱり西浦さんと走ることは切り離せないのだった。

大学院生活の中で、学生たちの真摯に走る姿に感化され、自分自身も走ることの楽しさを取り戻していったという。そして研究を終え、ゴールドウインのテックラボに務めることになった。

「ランニングシューズが好き。家に30足くらいあります(笑) 就職面接の時にも、『シューズ開発をやりたい』とアピールしました。自分の研究内容を活かせると感じたんです」

今年からはゴールドウインの開発研究機関テックラボに勤務する。2年前に富山に越してきて、環境はそれまでと大きく変わったが、変わらず走り続けている。練習に専念できた学生時代と比べ、フルタイムで仕事をしながらの生活で練習時間は減った。しかし短い時間でいかに効率よくトレーニングができるか、日々試行錯誤を繰り返している。

「高校生の時から、陸上は自分に合っていると感じていました。自分と向き合って、自分で試行錯誤しながら向上していけるところが。高校の時からランニングフォームを考えるのが好きでしたから」

社会人になって更新した、自己ベスト

そう笑う西浦さんは、社会人2年目の昨年、5000mの自己ベストを更新した(!)のだという。

「何が何でも記録を出そうというのではなく、仲間と走ることが楽しくて、速く走ることを楽しんでいたら記録が出たんです」

と本人もいたって自然体だが、がむしゃらに競技に打ち込み学内で最速だった大学2年次よりも今の環境でベストを更新したことに、ランニングというスポーツの不思議と魅力を覚えている。目下のところは、11月に開催される富山マラソンに向けて練習に明け暮れる毎日なのだとか。

「トラックに比べてマラソンは自分に向いていないと感じています。もっと速く走れるのに……といつも思わされて。うまく走れなくて悔しいです」

うまくいかないからこそ、工夫と試行錯誤をする。西浦さんのランニング人生を通してこの姿勢は一貫している。それは間違いなく、仕事にも活かされているはずだ。仕事の面での目標はあるのだろうか。

「まだ自分の研究を製品に落とし込むところまではできていませんが、いずれ自分が設計したシューズを世に出してみたいですし、それをお世話になった先生や仲間たちに使ってもらいたいですね。もちろん、自分も履いて走りたい」

富山マラソンに向け、仕上がりは「順調」

富山マラソンが目前に迫るなか、「正直なところ順調です」と仕上がりぶりに自信を見せる西浦さん。そのランニングフォームは美しく、ブレが無い。そして見るからにシェイプされた身体と、充実した表情。その佇まいは、一人の研究者というよりは、やはりアスリートのそれなのであった。目標タイムは2時間20分切りというから、それも当然のことではある。果たして西浦さんはどこまで行ってしまうのだろうか。

「今は、自分の限界がどこにあるのか、どこまで速く走れるのかを追求したいです。でもその後、記録が出なくなったとしてもランニングは楽しんでいきたい。今は年に一度くらいしか機会のないトレイルランニングをもっと走ってみたいし、ランの幅をどんどん広げていきたいですね」

ずっとずっと、走ることは西浦さんと共にある。そんな彼が手掛けるシューズは、ランナーにどんな走る喜びをもたらしてくれるのだろうか。今から楽しみでならない。

  1. 西浦孝則
    1993年生まれ。和歌山県出身。野球部だった中学生時代に駅伝選手に抜擢され、県内優勝を経験。高校生から陸上に打ち込み、進学した筑波大学では箱根駅伝を目指す。大学院ではランニングフォームの研究に従事。自他ともに認めるランニングシューズ好きで、現在はゴールドウインテックラボでランニングシューズ開発に携わる。フルマラソンの自己ベストは2021年のびわ湖毎日マラソンで出した2時間25分39秒。2021年の富山マラソンでは記録更新を狙っている。

(写真 田辺信彦 / 文 小俣雄風太)

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