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いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

自分の力で、ロードバイクでもう少し遠くまで 石森充昭

2022.12.23

どんなスポーツであっても、熟達したアスリートは、さりげない仕草に洗練が宿る。ランナーであればジョッグのフォームを、クライマーであればオブザベーションの視線を、アングラーであればキャスティングの最初の一振りを見れば、その熟達ぶりは一目瞭然というものだ。

ロードサイクリストなら、下りのフォームを見ればいい。ヒルクライムのタイムや出力パワーなど、ライダーの実力を図る指標は数多くあるが、下り坂でのバイクさばきには、どれだけの時間をサドルの上で過ごしたかが如実に現れる。そして今目の前を下っていった石森充昭さんのフォームは安定感があり、何よりも速い。これはロードバイクと長く時間を過ごしてきた人の走りだ。

自分の力でもう少し遠くまで行きたい

ゴールドウインの経営企画室で働く石森さんは、この春にロードバイクを再開した。大学生のときに名門クラブチームに所属し、ロードレース競技に打ち込んできたが、就職を機に本格的なレース活動からは遠ざかっていたのだという。ゴールドウインという会社の社風もあり、ランニングやトレイルランニングに取り組み始め、楽しむスポーツの幅が広がっていたというのがその理由だ。

「自転車と違って、ランニングは荷物を少なく楽しめるのがいいところ。ただ、ランをしていると、自分の力でもう少し遠くに行きたいなと思うようになってきました」

20〜30kmを走ると身体への負荷や時間がかかるランニングと比べて、ロードバイクに慣れた者なら一日で100kmを移動することはそう難しくない。この日石森さんが駆けた宮ヶ瀬ダムは、近隣のヤビツ峠とともに、関東圏のサイクリストにはお馴染みのコース。石森さんは現在、週に3日ほどトレーニングライドを行っているが、ロングの日にはこの辺り一帯をぐるりと150kmも走る。大学生の頃には200kmの練習ライドも頻繁にこなしていたと言うから、これぐらいの距離は、朝飯前と言ったところ。

自転車を始めたのは「健康維持のため」

石森さんがロードバイクを始めたのは、高校生のとき。その理由は「健康維持」だというから、10代半ばの少年が自転車を乗る理由としてはなんとも堅実だ。しかしこれは、石森さんが自身の身体に意識的であることを示している。実際、ロードバイクに乗り続けることで起こる身体の変化には驚かされたという。

「乗り続けていると明らかに燃費が良くなっていくんです。筋肉の形も変わって体型が良くなったりして(笑)、自分の身体が変化することを実感しましたね」

大学生になり、神奈川県相模原市に引っ越すと、そこは自転車に最高の環境だった。山に囲まれたロケーションもさることながら、周りにサイクリストが多くいたことが、石森さんのロードバイクライフをさらに濃いものにしていく。

「高校生までは平坦路しか走っていなかったのですが、相模原には山はあるし、サイクリストの方が多いんです。彼らに様々なことを教えてもらいながら乗り続けました。年代や性別関係なく付き合えて、すごくいい経験になりましたね」

仲間に恵まれ、練習量も増えたことでレースでも入賞を重ねるようになった。エンデュランススポーツへの適正に手応えも得たが、レースに勝つことに対しての執着心はあまりないという。

「何が何でも勝ちたいというのはなくて、自分のベストの走りをして結果的に勝てたならそれはラッキーかなと思うぐらいです。むしろ練習で、やりきれるかわからない辛いメニューを強い意志をもって達成したときの方が、喜びは大きいかもしれません。ヤビツ峠を1日で10本登るなんてこともやっていました」

石森さんにとって、ロードバイクは他者と競うためというよりも、自分自身と向き合うための手段のようにも見える。時速50kmで100名が密集しながら走るロードレースでは究極の集中状態が求められるが、それは研ぎ澄まされた自分を発見できる機会でもある。

「ロードレースではいつ何が起こるかわかりません。エクストリームなんです。ものすごく集中しているから、いつも気づかないことに気づける。自転車から生じる音とか、自分の呼吸の仕方だったりとか、色々なことに」

目指すは「ホビーレーサーの甲子園」

そんな石森さんだが、この春に自転車を再開し、いまトレーニングに打ち込むのには理由がある。2023年のツール・ド・おきなわに出場し、好成績を収めたいというのだ。

ツール・ド・おきなわは毎年11月に開催されるレースで、全国から足自慢の集まる「ホビーレーサーの甲子園」と称される大会。様々な距離のレースが設定されるが、その最高峰にあるのが210kmを走るカテゴリー。アマチュアが走るレースとしては日本国内で最長クラスであり、その勝者は生半可なプロ選手よりも影響力のあるチャンピオン市民レーサーとなる。

石森さんに目標を聞くと「210kmで10位以内」という答えが返ってきた。飄々と「100kmだとすぐに終わっちゃいますから、どうせ出るなら210kmを走りたいんです」と語る。今年の市民210kmカテゴリーの優勝タイムは5時間14分54秒。エンデュランス適正を自認する石森さんにとっては、この上ない挑戦になるだろう。

仕事もレースも、問われる判断力

ロードバイクを再開した今年の春は、石森さんにとって仕事面でも大きな変化のタイミングだった。経営企画室へ異動となり、全社横断型のプロジェクトに関わることが増え、会社のことをこれまでとは違った視点で見るようになったという。

「いまは先輩方のサポートをしながら仕事を覚えているところです。会社の仕組みを変えられる部署にいることの責任の大きさも感じますし、だからこそ何か変えることを目的にするのではなく、何が正しく効率がいいのかをしっかり見極める判断力を養わないといけません。一回の判断が重いので、そこにたどり着くまでのプロセスでどれだけ物事を多面的に考えられるか、が問われるのだと思います」

それはどこか、5時間に及ぶレース時間の中で毎秒ごとに判断を強いられるロードレースの思考方法に近いものがあるかもしれない。スポーツをすることが、仕事のパフォーマンス向上につながるなら、それこそ社是のSPORTS FIRSTを体現することになる。入社4年目の今、スポーツを通じた社内環境の良さを折に触れて感じるという。

「同僚はみんなスポーツをやってきた方々なので、何かに打ち込むことへ抵抗がなく、真剣に取り組むことを認めてくれる社風があります。『ちょっと山に行ってきます』って言っても当然のことのように送り出してくれる会社ですから」

そんな石森さんだが、来年ツール・ド・おきなわというビッグレースにチャレンジすることはまだ会社の誰にも言っていないのだそうだ。

「ずっと自転車通勤をしているので、今まで通勤手当をもらったことがないのはちょっとした自慢です(笑) でも会社に自転車通勤をしている人は数名しかいなくて、少しさみしいですね。おきなわで好成績を出して、会社の人たちにロードサイクリングというスポーツがあるんだ、ということを見せられたらいいですね」

スムーズに下り坂を走り切り、流れるように上り坂に入ると、今度は力強いペダリングで駆け抜けていく石森さん。新しい風を運ぶようなその走りぶりに、来年の11月、おきなわでの力走を見た気がした。

(写真 田辺信彦/ 文 小俣雄風太)

  1. 石森充昭(いしもり・みつあき)
    千葉県出身。高校時代は演劇部に所属し表現力を磨く一方で、健康維持のためにロードバイクを始める。大学進学後は名門クラブチームに所属し、各地のロードレースを転戦。ゴールドウイン入社後はランニングやトレイルランニングにのめり込み、しばらくロードレースから離れていたが2022年春から再開。空前の在庫僅少のさなかで入手したロードバイクは重量のかさむミドルグレードだが、「重要なのは機材じゃなくて足」と気にする様子はない。2023年はツール・ド・おきなわ市民210kmに挑戦予定。

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