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いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

挑戦への思いを目覚めさせた、再びのパドルスポーツ。 澁谷磨

2023.06.26

福岡市内の中心部から車を走らせること約45分、白砂のビーチと青い海、「糸島富士」とも呼ばれる可也山ほか低山にも恵まれている糸島は、豊かな自然を楽しめるエリアだ。〈THE NORTH FACE福岡店〉店長を務める澁谷磨さんの休日も、ここ、糸島で始まる。沖縄ナンバーの愛車のルーフに全長6m超のアウトリガーカヌーを載せ、やってきたのは野北海岸。ビーチからアクセスすると、あっという間にトップスピードに乗り、気がつけばもう沖にいる。速い、速い!



アウトリガーカヌー歴はまだ2年ほどながら、澁谷さんのパドルスポーツ歴はかなり長い。

「東北地方はもともとパドルスポーツが盛んなエリアで、僕の故郷、宮城県でも部活動でこの競技に取り組んでいる学校は少なくありませんでした。僕の場合は兄が同じ競技をやっていたこともあり、高校生になってカヌー・スプリントという競技を始めました。」


川から望む非日常的な風景がごほうびだった

カヌー・スプリントはフラットウォーターレーシングとも呼ばれ、波のない静水面の直線コースをパドルで漕いでスピードを競う競技だ。カヌー・スプリントは船の形状とパドルによって2種類に分けられるが、澁谷さんが取り組んでいたのは、膝をついた状態で艇に乗り込み、シングルブレードのパドルを使ってスピードを競う「カナディアン」というもの。静かな水面を疾走するスピード感と、シングルブレードならではの躍動感が特徴の競技といえるだろう。

「部活では通学路の横を流れる川で練習していたのですが、川の中心から街を眺める景色がすごく新鮮で。川から見ると、見慣れた街の風景がまったく別のものに見えるんです。この非日常感を味わえるのは川の上にいる僕たちだけの特権なんだと思うと、毎日の辛い練習もがんばることができました」


6歳年上の兄と同競技のペア種目で出場した全日本で準優勝するなど、数々の大会で優秀な成績を収めた澁谷さんは、スポーツ推薦を得て日本体育大学へ進学。インカレ(全日本大学対抗大会)、国体、全日本への出場を果たすなど、カヌー漬けの大学生活を送った。

「残念ながら当時のカヌー・スプリントにはプロチームがなく、大学卒業と同時に競技を辞めてしまいました。教員免許をとってコーチとして競技に携わる仲間もいましたが、僕は洋服に興味があったのでアパレル企業へ就職しました。東京で長くファスト・ファッションに携わった後、ゴールドウインに転職したのが4年前のことです」

転職して配属になったのが、沖縄の店舗。そこで出合ったのがアウトリガーカヌーだった。もともと沖縄は、ハワイやタヒチといった国に引けをとらないほどパドルスポーツに関する文化があり、環境にも恵まれている。それらを代表するのがハーリーレースや、全国的にも注目を集めている伝統のサバニレースだ。そんな土地に配属になり、アウトリガーカヌーに導かれたのは必然だったと言えるかもしれない。

海上を疾走するスピード感

アウトリガーカヌーは、澁谷さんが求めるスピード欲を気持ちよく満たしてくれた。


「フラットウォーターレーシングを辞めてからも、SUPやワイルドウォーター(河川の激流を下り、その所要時間を競う)に挑戦したことはあったんです。けれどもSUPはスピードが出なくて物足りず、ワイルドーウォーターはあまりにも勝手が違い、初回で肩を脱臼。あえて続けようとは思いませんでした。

初めてアウトリガーカヌーに乗ったのは、沖縄の宜野湾にあるパドルスポーツの専門ショップがきっかけ。いざ船に乗ってみたら、フラットウォーターレーシングに近い乗り心地が味わえたんです。座って漕げる分、フラットウォーターレーシングより体も楽だし、スピード感も申し分ない。沖に出て1人でポツンと浮いていると、『広い洋上にたった1人だけ』という解放感を味わえて、最高に気持ちがいい。沖から浜を眺めてみると、かつて故郷の川の上から街を眺めたときに感じた、あのフィーリングが蘇ってきました」



カヌー・スプリントの速さや、ダイレクトに身体につたわる水の感触……かつて澁谷さんを夢中にさせた感覚を手軽に海で味わえるとあって、休みごとに海に出かけるようになった。1年前に福岡の店舗に異動が決まった際も、カヌーとクルマだけは沖縄から持ち込んだほど。

「沖縄と糸島でしか乗ったことがないので、いずれは北海道一周に挑戦したいですし、レースにも参加してみたい。アウトリガーカヌーで身体を作ったら、フラットウォーターレーシングのマスターズに、兄とペアで参加してみたいと思っています。チャレンジしてみたいことはたくさんありますね。人生はまだまだ長いですから」

ゴールはない。だから挑戦し続ける

学生時代以来のパドルスポーツに挑戦して得られた気づきは、「パドルスポーツにゴールはない」ということ。日々、波も風も違う。昨年とは身体も違う。今日よりも明日、明日よりも明後日と、より速く、よりうまくを目指すうちは、自分に満足することは決してないのだ。だからこそ、THE NORTH FACEが掲げる「NEVER STOP EXPLORING」の精神に深く共感できるという。


「こうした自らの経験を踏まえ、THE NORTH FACEのものづくりへの姿勢や理念、『NEVER STOP EXPLORING』という哲学など、自分が心からいいと思えるものを、自分の実感を伴ってたくさんのお客さまに伝えられています。そこに意義を感じています」

と同時に、店長としてさらにステップアップしていくというのが、澁谷さんの次なるステップだ。


「ありがたいことに福岡店は、スタッフのアクティビティ参加率が九州エリアで最も高い店舗なんです。これは前店長の功績でもあるのですが、アクティビティという枠を超え、さまざまなスタッフへ『海で遊ぼう』『山に行こう』と誘いかけを行うことで、フィールドに出かけるスタッフが増えたんです。相手が何を求めているのか、何に興味があるのかを察知してニーズに応える提案を行うというのは、お客さまに向き合う姿勢と一緒ですよね。魅力的な店舗であり続けるために、マネジメント術をさらに磨き、スタッフみんなで向上していきたいと願っています」

(写真 古谷勝/ 文 倉石綾子)

  1. 澁谷磨(しぶや・みがく)
    宮城県出身。高校入学と同時にカヌー・スプリントを始め、卒業後はスポーツ推薦で日本体育大学へ進学。高校、大学を通じて数々の大会に出場し、優秀な成績を収める。大学卒業後は競技を離れ、アパレルの道へ。4年前にゴールドウインに転職し、沖縄の店舗に赴任。昨年、〈THE NORTH FACE福岡店〉に異動になり店長に就任。プライベートでは2年前、沖縄で始めたアウトリガーカヌーを中心に、コンディショニングのためのランニング、気分転換の登山など、福岡市周辺でアクティビティ三昧の毎日を送っている。

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