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ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

戦略を立ててタイムを刻む、だから400mハードルは面白い 釜谷美翔子

2020.01.07

雪を抱いた立山連峰を一望できる富山市内の陸上競技場。ゴールドウイン テック・ラボに勤務する釜谷美翔子さんは、たった1人で黙々と、ハードル走のトレーニングを行なっていた。トラック上に設置されたハードルの高さはおよそ76cm。女子400mにおける規定の高さだが、ハードルを見慣れていない人はその高さにおののくはずだ。社会人陸上クラブに所属する釜谷さんの普段の練習は平日夜のトラック走とウエイトトレーニングが中心で、実際にハードルを跳び始めるのはレースを控える3月以降の週末が主だというから、練習時間は貴重である。

釜谷さんが本格的に陸上を始めたのは中学時代。始めは走り幅跳びの選手だったが、怪我をきっかけに短距離に転向した。

「中学生の時は問題なかったのですが、高校生になったら100m、200mでは勝てなくなって、それで顧問に勧められるままに400mハードルに挑戦してみたんです。速さだけでなく戦略を問われるところが私には合っていたようで、なんと初めて出場した富山の新人戦で優勝することができたんです。それでハードルにすっかりハマってしまい、3年時にはインターハイまでいきました」

全ては速く走るため。研究と陸上に打ち込んだ学生時代

もっともっと速くなりたい! そんな思いから選んだ進学先は、京都大学医学部健康科学科。医学の観点から人体を学び、一つ一つの身体動作をひも解いていけば、より速く走れるようになるためのヒントが見つかるかもしれない、そう考えたのだ。理学療法士を輩出する医学部人間健康科学科に在学した大学時代は100mと400mをメインに、医学研究科人間健康科学系専攻に進んだ院生時代には再び400mハードルに取り組んだ。

「筋組織など生物の構造を知り、運動を科学的に探求し広い視野で人体を学んだ経験は、自分のトレーニングにも大いに役立ちました。弱点をいかに克服し、長所をどう引き延ばすか、理論的にアプローチするようになりましたから」 

ちなみに釜谷さんの100m、200m、400m、100mハードル、400mハードルのタイムは京都大学記録として残っており、これは未だ塗り替えられていない。

そんな根っからの研究者肌の釜谷さんが大学院修了後、就職先として選んだのがゴールドウインの開発部。同級生の多くが理学療法士として病院勤務を選ぶ中、「人間の身体動作を向上させる仕事に就きたい」と現職を志した。

「理学療法士はすでに怪我や障害を負った方のサポートが仕事ですが、私はむしろ病院にかかる人を少なくするお手伝いがしたいと思ったから。自分が長くスポーツをやっていた経験から、身体を動かす楽しさを幅広い方たちに伝えることが自分の性分に合っていると感じたのです」

自らの経験をもとに、快適をもたらす素材を研究する

現在はゴールドウイン テック・ラボ内で人と衣服や靴に関する基礎的研究データの蓄積や応用、評価手法の開発を行うフューチャー・デザイングループに所属し、主に温熱快適性についての研究を進めている。データを取り、生理学や熱力学の観点から実際に衣服に仕立てた際、着る人が快適と感じるようなデザインやディテールを追求し、デザイナーとディスカッションする。自分が直接、開発に携わった素材が製品になったことはないが、いずれは人間のパフォーマンスを最も引き出す機能を備えた素材や形状を構築したいという夢を持っている。

「今の私の目標は、『意味のあるもの』を世に出すこと。運動しているときに不快感が少なければ、楽しい、もっと運動したいという気持ちになりますよね。衣服で運動する人のモチベーションを高め、スポーツをもっと好きになってもらい、健康で豊かな人生を実現する。そのためのお手伝いができたらと思っています。それには自分のスポーツ経験も大いに役に立つんです。実際、自分のトレーニングでも様々な製品を試し、コンディションをチェックします。そうすれば、『このタイミングではこういうものを使うと効果的だよ』という実践的なアドバイスが可能になりますから」

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社会人アスリートとして、県選手権の決勝に!

アスリートとしての釜谷さんの目下の目標は、富山県陸上競技選手権大会で決勝に進出すること。社会人2年目の年には、実業団対抗陸上競技選手権大会で2位入賞を果たしたことから全日本実業団対抗陸上競技選手権大会という憧れの大会への出場を叶えた。長年の目標を実現したことで一昨年はモチベーションの低下に悩んだそうだが、登山やヨガなど陸上以外のアクティビティに救われ、昨年からはまた新たな気持ちで競技に取り組んでいる。

「コンディショニングとしてのヨガ、趣味となった登山に加え、今年はフルマラソンとトレランのレースにも初挑戦する予定です。陸上にだけ向き合っているとついつい視野が狭くなりがちですが、学生の時より競技に費やす時間も体力もなくなった分、他のアクティビティで陸上競技にはない身体の使い方を学び、それをレースに生かしていくのが私なりの方法論なのかな」

長期的な目標は、長く楽しく、スポーツのある人生を謳歌すること。そのためには陸上とそれ以外のスポーツ、仕事とプライベートのバランスをうまく取ることが大切、と釜谷さん。自己ベスト更新を目指してひたむきに陸上に向き合い続けた学生時代を経て、広い視野でスポーツの醍醐味を語れる社会人アスリートへ。その軌跡はそのまま、彼女の内的な成長を物語っているのかもしれない。

  1. 釜谷美翔子
    1992年生まれ。富山県出身。中学で陸上部に入部、短距離走を始め、高校で400mハードルに転向、優秀な成績を残す。京都大学・大学院進学後も陸上部で短距離および400mハードルに打ち込み、数々の大学記録を樹立。大学院修了後、ゴールドウインに入社。開発部に所属して3年目、一昨年からゴールドウイン テック・ラボで基礎研究に携わる。その傍ら、2017年には400mハードルで兼ねてからの目標である全日本実業団対抗陸上競技選手権大会出場を果たした。

(写真 中村億 / 文 倉石綾子)

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