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ラグビーW杯に注目! 革新的な新代表ジャージができるまで
石塚正行

2015.09.18

「桜ジャージ(日本代表ジャージ)を手がけていることに責任と重みを感じてます」

まもなく開幕するラグビーワールドカップ2015。今大会に合わせて発表されたラグビー日本代表の新ジャージをはじめとした、過去4大会のジャージを手掛けてきたカンタベリーオブニュージーランドジャパンの石塚正行さん。実は、ラグビーワールドカップに注目するうえで、この新ジャージは外せない大切なトピックである。

なぜならば、4種の異素材をひとつのウエアに融合させたラグビー業界初のハイブリッド・ジャージであり、スクラムの最前列に位置するフロントローと、それ以外のポジションとで全くことなる2パターンのジャージを制作したのだ。その際、ポジション別に選手の体型を3Dスキャンして測定し、シューズにおけるラスト(足型)ならぬ、実測のボディを作成するという徹底ぶりだ。

これまでの常識をくつがえす開発工程によって完成した新ジャージ。これを紐解くことで、ラグビーという競技の魅力や特性にも気づきを得られるだろう。

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▲ 上 2015年モデル / 左上 2011年モデル / 右上 2007年モデル / 左下 2003年モデル / 右下 1999年モデル 
1997年よりカンタベリーはラグビー日本代表のジャージを提供してきた。

「すべての機能には、ラグビーの競技性というものが色濃く反映されているのは確かです。たとえば、基本となる生地は、掴まれにくくするっていうのが一番なんです。でも一方で、生地が伸びないとやっぱり動きづらい。バランスなんですけど、伸びすぎてしまうと、対戦相手に掴まれたときに手が離れなくなってしまい、指が入ってしまうともう簡単には離れなくなります。それを補うためには、あらゆる方向でのベストバランスを求めていくんです」

新ジャージ完成にあたり、影の立役者と言われるのが、パターンを担当した現代の名工・沼田喜四司氏(ゴールドウインテクニカルセンター)なのだと石塚さんは言う。3Dスキャンしたボディを最大限活用できたことも、しかりのようだ。

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▲ ラグビー選手の身体を3Dスキャンして作られたボディ

「最先端のテクノロジーを採用しているジャージではありますけど、彼のような唯一無二の職人技術と、特有の計算式でパターンとフィッティングをシンクロさせる技術あってこそ。僕はこれまで彼のようなパタンナーさんには会ったことはありませんね。今回のプロジェクトの重要な開発者のひとりです」

4つの素材を融合させたハイブリッドな新ジャージのディテール

ここで、改めて新ジャージに織り込まれた機能性について、紹介していきたい。

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▲ 胸部周辺にはボールを持ちやすい、またはこぼしずらくするための特殊グリップが施されている

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▲ スクラムを組んだ際、ヒップと肩部分の接触ズレを軽減させる特殊ファイバー。濡れた状態ほどグリップ力が高まる

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▲ ラグビー選手において最も筋肉の動きが大きくなる上腕周辺。袖口は、熱圧着による無縫製を採用。さらに脇の下にはどの方向でも伸びる高いストレッチ性をもつ素材を採用

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▲ ラグビーという競技におけるジャージ生地の基本は、いかに掴みづらく、動きやすいか。伸びるけど指の入りづらさを追求。言わずもがな、耐久性と吸湿、速乾性、通気性に長けた素材でもある

開発当初から意気込みが違った。エディー日本代表ヘッドコーチとの会議

「今回初めて、新ジャージの企画会議にエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチが出席されたんです。そこで、日本ラグビーが今後目指していくビジョンについて彼の口から生で聞くことができたのは大きかったです。そうして、これまで日本ラグビーが貫いてきた独自のラグビースタイルである「JAPAN WAY(ジャパンウェイ)」そのものが新ジャージのコンセプトになり、往年の日本代表の象徴である伝統的なカラー赤×白のストライプに原点回帰をしました」

このストライプのデザインには、日本代表が武器とするスピード、躍動感、力強さが表現されているという。あえてボーダーを曲線にすることで、強く、速く見えるといった錯視効果が加えられている。カラー、デザイン、素材すべてに意味があるのは言わずもがなだ。

「僕が桜ジャージの制作に関わったのは、2003年モデルからです。正直いって、その当時はとにかくかっこいいものを作りたいという気持ちが先行していましたね。でも今は少し違います。チーム、国をも象徴するジャージには、さまざまな想いと願いが込められています。すごい仕事をやらせてもらえているんだなって、改めて感じていますね」

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石塚正行(いしづかまさゆき)
1973年1月23日栃木県日光市出身。小学校から高校まではサッカーに明け暮れる。中学時代はチームキャプテンを経験し、高校時代は毎日夜遅くまで練習の日々。現在、サッカーは観戦にとどまり、ランニングや山登りを楽しんでいる。カンタベリーは前職の企画会社から、企画・デザインを担当し、その後カンタベリーオブニュージーランドジャパンに入社。現在は企画グループの責任者として日々奮闘中。ラグビーの経験はないが、道具からファッションまでトータルで表現できるブランドとして魅力を感じ、企画をしている。今年は待ちに待ったラグビーワールドカップ。日本代表のユニフォームは過去4大会で作ってきたが今年のモデルは一番の完成度。是非このユニフォームでW杯での勝利に期待。

(写真 八木伸司 / 文 村松亮)

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