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ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

「絶対」がないからこそ釣りは面白い 柏原海彦

2018.07.31

故郷はノルディック複合の渡部暁斗やモーグルの上村愛子を輩出した長野県白馬村。THE NORTH FACE 原宿店に勤める柏原海彦さんが生まれ育ったのは、身近にオリンピアンのいる、自然とスポーツとが密接な環境。里帰りした彼が釣りに出かけると聞いて、同行した。

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幼いころから遊び場は自然の中だった

「5歳から釣りをしています。うちは両親が忙しくてあまり遊んでくれず、地元の親戚のおじさんが釣り好きだったんですが、そのおじさんがいつも遊んでくれていたんです。15年前くらい、当時はバス釣りがすごく流行ってましたね。ルアーをもらって、木崎湖でバスを釣ったのが始まりです」

5歳から始めた釣りにのめりこんだ柏原さんは、成長にともなって釣りの範囲を広げていく。

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「小学校に上がる前でしたね。ナス重りをつけてグラウンドでキャスティングの練習をしてました(笑) 親戚のおじさんがいないときは、湖に行けなかったので、近所の川をメインに釣りしていました。それから自転車が好きになって、高校生になったらバイクにも乗るようになりました。どれも釣りに行くためだったんですけど。行動範囲が広がって、より深い渓流へもよく行くようになりました」

標高700mの白馬村に足を踏み入れると、空が広く山が近いことに驚かされる。豊かな自然、というと陳腐な言葉になってしまうが、冬はスキーヤー、夏は登山客がひっきりなしに訪れる白馬村は、日本有数のアクティビティフィールドだ。

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「生まれも育ちも白馬村で、高校を卒業するまでいました。高校の時は山岳部に入って、ずっとロッククライミングをしていましたね。逆に言えば、村ですることといったらそれくらいしかなかった。冬はスキー、夏はロッククライミングと釣りに。そんな青春時代です」

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早朝、柏原さんが幼い頃からずっと通っているという渓流に入った。手慣れた様子でルアーを結び、川へと降りていく。水はとても澄んでいる。誰もいない川でしばらくルアーを引くと、きれいなイワナが飛びついてきた。

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「ようやく釣れました。普段だったらもっと簡単に釣れるんですけど。プレッシャーがあるかもしれません(笑)」とはにかむ柏原さん。自分のフィールドだからこそ、マイペースでできない釣りに緊張していたようだ。その後、もう一匹を追加するものの、思うような釣果ではなかった様子。

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「もっといっぱい釣れると思っていたんですが……釣りに絶対はないですね。でも、朝イチからしばらく釣れなかったので、とりあえず釣れてホッとしました」

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洋服が作りたくて東京へ

釣りとクライミングに明け暮れた高校生活を終え、柏原さんは上京を決意する。大好きな洋服を自分で作りたいと思ってのことだった。

「自分で洋服を作りたくて、服作りを学ぶために上京しました。服作りの勉強をしばらくして、好きなブランドのパタンナーの職を探していたんですが思い通りにはいかなくて。そうこうしているうちに2年間の学校も終わり、THE NORTH FACE 原宿店がスタッフ募集をしているのをみて応募しました。アウトドアが好きだし、原宿も好きだし。4年前ですね。それからずっと原宿店で働いています」

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柏原さんは現在、原宿店のVMDを主に担当している。VMDとは「ヴィジュアルマーチャンダイジング」のことで、ストア内のレイアウトや見栄え、商品の露出など店舗の視覚的な要素を作り上げる仕事。来店したお客さまのストアに対する印象と購買意欲に直結する、重要な役割だ。

「販売もしながら、VMDも担当しています。THE NORTH FACEの商品は、ランニングはランニング、山は山、街は街とカテゴリー分けが明確です。本来はそのカテゴリーに従ってお店を作るべきなんですが、THE NORTH FACEのよさである「カテゴリーを超えて幅広く使える」ことを活かした売り場づくりを原宿店では心がけています。

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例えば、ランニングカテゴリーのものでも、応用すれば釣りに使える、という打ち出し方です。どちらも汗をかくことには変わらないですし、速乾性や防水性といった機能をいろいろなスポーツやアクティビティで共有できるのがメリットです。

自分たちがカテゴリーを作る、というと大袈裟ですけれど、自分たちの中で新しい見せ方、使い方を提案できるのがVMDの仕事の面白いところだと思います」

原宿だからこそ求められるもの

東京の文化発信の中心地、原宿に位置する同店舗。アウトドアの機能性とスタイリッシュなファッション性の両面を求めて来店するお客さんも多いという。

「原宿店は他の店舗とは少し違うんです。百貨店やショッピングモールのTHE NORTH FACE店舗では販売しにくい、値段が高く、尖ったデザインの製品が好まれる傾向があります。今年販売している『エマージェンシージャケット』は見た目も素材も奇抜ですけど、原宿店だとしっかり打ち出し、お客様に説明することで、手に取っていただけるんです。そういうところにVMDの楽しさややりがいを感じます。」

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東京の真ん中、フィールドからは程遠いようなカルチャータウンにあって少し意外な印象もあるが、原宿店のお客さまの中にも釣りをする人が多いと柏原さんは語る。

「釣りをされる方で、ウェアを探されている方はよくいらっしゃいますよ。釣り専用のウェアを作れたらいいのに、って思っちゃうほどです(笑) 『スワローテイルベントフーディ』は釣り用にすごく売れています。有名なバスプロが着てくれているのも影響しているようですね」

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釣りが好きなお客さまからしたら、共通の趣味を持つ柏原さんに接客してもらったら嬉しいに違いない。釣り人だからこそ必要性を感じる機能や性能について説明してもらえるのは、原宿店に足を運ぶ大きな理由になりそうだ。

「むしろ僕の価値はそれしかないと思っています(笑) しっかりした作りのウェアは一度買うと長持ちします。なのでリピーターとしてお客さまが頻繁にいらっしゃることは少ないんですが、釣りのウェアを求めるお客さまはたくさんいらっしゃるので、その数は山ユーザーと変わらないくらい多いんじゃないかと思います」

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自身も釣りをするから、実践に基づいた接客ができる。なにより、柏原さんは小学生の時からTHE NORTH FACEのウェアを着て釣りをしていたというのだから説得力が違う。

「ジャケットとパンツがセットアップになっている『レインテックスプラズマ』は進化しながらもだいぶ長いこと作られているんですが、僕は小学校4年生のときからずっと使っています。穴が空いても修理をしてもらえるので、長く使えますよね。高校生の時に一回買い換えて、それ以来今でも変わらず使ってますよ。釣りではやはりいいレインウェアが重要です」

服と釣りが好きだから

服作りを志した青年期を経て、服を作ってみたいという夢はいまもある。大好きな釣りのためのウェアは、アイディアもたくさんため込んでいる。

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「洋服を販売していくなかで、自分でも作ってみたいという気持ちがやはりあります。パターンを引いたり、縫製もできるので、釣りの経験を活かしたウェアを作ってみたいですね。厳しい状況でもちゃんと機能する、タフで信頼できる『絶対』大丈夫ですって言えるような、安心感のあるウェアを」

「釣りと一緒で、『絶対』はないのはわかっているんですけど(笑)」とおどけてみせる柏原さん。この夏に結婚式を挙げるハワイでも釣りを予定しているようで、嬉々として対象魚を語る姿は、真性の釣り好きのそれだった。

  1. 柏原海彦
    1994年生まれ。長野県北安曇郡白馬村出身。親戚のおじさんに誘われて5歳で釣りを始める。祖父が地域の漁業組合員であることもあり、少年時代は釣りに没頭。高校生の時には白馬の自然を活かしたクライミングに夢中になり、上京後は一時クライミングジムで働いたことも。現在はTHE NORTH FACE原宿店のVMDとして繁盛店の店づくりを手がけている。釣りたい魚は奥只見湖の2尺イワナ。

(釣り写真 辻啓 / 店舗写真 田辺信彦 / 文 小俣雄風太)

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