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いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

解けない魔法にかけられて走っていく 岡村綾子

2020.03.19

小春日和の気持ちいい空の下、息を弾ませて走る一人の女性。神社の前までやってくると、ストップして息を整える。ゴールドウインで店舗ラウンダーを務める岡村綾子さんのお目当ては、御朱印だ。

「練習をしなきゃいけないな、って思っててもロードを走るだけの練習はなかなか気が進まなくて。『御朱印ラン』みたいに、何か楽しむことを目的にすると頑張れます。」

御朱印ランで都内の寺社をめぐる岡村さんが、いま夢中なのがトレイルランニングだ。聞けば、中学・高校・専門学校と短距離走に打ち込んできたそうで、青春時代をずっと走って過ごしてきた。トレランが好きなのは自然な流れかと思いきや、実は、仕事のために始めたのだという。

「社会人になってからはほとんど運動をしていませんでした。たまに走ろうかな、と思ってもそれまで記録を出すための練習しかしてこなかったので、どう走ったらいいかもわからなくて……」

店舗ラウンダーの主な仕事に、取引先ショップでの売り場づくりがある。必然的に商品知識が求められる職種だ。

「いろんな商品を見て、専門店を回る中で私が何のアクテビティもやっていないのはどうなんだろうと思って。じゃあ何かやろうと思った時に、やっぱり走ることだったんです。でも、ロードは得意じゃないし走り方もわからない……そんなことを思っているタイミングで同期に誘ってもらったのをきっかけに、トレランを始めました」

涙にくれた初レース

トレイルランニングを始めてみると、登りのキツさとともに、土の香りや草いきれ、森の清浄な空気に魅了された。そして3ヶ月後には初めてのトレランレースにエントリー。しかしそれは、ほろ苦い記憶となった。

「23kmぐらいのレースで、ちょうどいいかなとエントリーしたんですが、2つ目の登りで両足のふくらはぎと前ももが攣って。どうやって歩いたらいいかもわからなくて、泣きながら進んでいって、うつむいてゴールしました」

聞いているだけでも辛い思い出だ。でも0.1秒を追い求めて走り込んできた岡村さんにとって、タイムよりも『走り切ること』が目的のランは新鮮だった。それに涙のレースにリベンジを果たさねばと内に燃えるものもあった。

売り場に「魔法をかける」存在

店舗ラウンダーとして10を超える小売店を日々回る岡村さん。売り場を作り、整え、お客様が商品を手に取りやすい空間とは何か、いつも思いを巡らせている。この仕事をかねてからやりたかったのだという。

「アルバイトをしていたスポーツショップは、量販店だったこともあり商品を見せることが難しい売り場でした。商品がぎゅうぎゅうに詰め込まれて陳列されていて、1点出したらもう仕舞えないような。そんなときにゴールドウインの人が回ってきてメンテナンスをしてくれると、同じ商品数なのに見栄えが全然違うんですよ。お客さんも見てくれるようになって。大げさかもしれないですけど、魔法をかけられたみたいでした」

そんなプロフェッショナルの仕事に触れ、『売る』ためには接客以外にも方法があると岡村さんは知った。その醍醐味を自らの仕事にしようとゴールウインの門を叩き、5年目になる。

ショップが打ち出したいアイテムと、お客様が欲しいと思うアイテムが違うことはままある。両者の声を聞き、解決に向けた方向性を探るところに難しさがあると岡村さんはいう。だがそれは同時に、彼女の強みを生かせるポイントでもある。

「私自身が何もわからないところからトレランを始めて、色々なギアを実際に使用し何が必要かがわかってきたプロセスを経験しているので、一般のお客様目線でより物事を見られるかな、と思います。あとはせっかくお店に来て商品を見てくれるお客様にわくわくした気持ちでお買い物をしてもらいたいんです。Tシャツを買いに来たけど、つい他の物も買ってしまった! みたいな。Tシャツと一緒にそれに合うパンツを陳列してみたり小物をおいてみたり、トルソーに着せこみをするときは自分の推しアイテムを着せこんでみたり。販売店に立っていたことに加え、実際にフィールドに行ったり商品を使っていることでイメージできることが多くなった気がします。」

仕事のために始めたというトレイルランニングが、彼女の仕事に活きている。

強みは「根性」 いまや100マイルまで視界に

涙の初レースから1年後、岡村さんは同じレースのスタートラインについた。悔しさをバネに、1年間練習してきたのだ。丹沢の麓という住環境を活かし、登坂距離や獲得標高を見据えた練習を積んだ。その結果、涙のデビューとなったレースを、今度は笑顔でフィニッシュすることができた。

「学生時代の先生に、私の強みはどこでしょうか? と聞いたら、『根性』と言われたことがあります(笑) 足を引きずってでも前へ進み続け、キツい登りであっても登り切る。確かに根性だけはあるかもしれないですね(笑)」

持ち前の根性と練習が噛み合った笑顔のフィニッシュ以来、岡村さんはいくつもレースを重ねてきた。2019年末は伊豆トレイルジャーニーで68kmを走った。走る距離が伸び続ける中、視線の先には100マイルもある。

「前にUTMFのボランティアをしたときに目にした光景がすごくて。正直その時はみんなボロボロになりながら走って何が楽しいんだろう……って思いました。でも怖いもの見たさじゃないですけどその先にあるものを見てみたい。出場して結果がどうというより、経験してみたいと思うようになりました。ゴールドウインにいるから普通のように感じてしまいがちですが、何十時間も山を走り続けるなんて人生で経験できることあんまりないと思うんです。(笑)」

実は御朱印ランにも、レースに懸ける想いがある。

「御朱印ランでは参拝もきちんとします。でも速く走れますようにとかそんなことじゃなくて、怪我しないようにって。健康祈願です。ロングのレースも、健康でありさえすればあとはメンタルと根性でゴールへと進み続けられるので!」

そういってカラカラと笑顔が弾けた。神様もこの人には健やかに走ってほしいと願わずにはいられないような、素敵な笑顔だった。

  1. 岡村綾子
    2015年ゴールドウイン入社。店舗ラウンダーとして10店舗以上の小売店へと日々足を運ぶ。中学高校専門学校と短距離走に打ち込み、現在はトレイルランニングに熱中。以前にSFMに登場した田山さんとは同年代で御朱印ラン仲間でもある。

(写真 古谷勝 / 文 小俣雄風太)

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