
現在「NEUTRALWORKS.NIHOMBASHI」に勤務する柏崎美香さん。0歳の時から水泳をはじめ、現在まで続けている。
「他にやりたいことが見つからなかっただけですよ」
そう言って彼女は謙遜するけれど、それって“やりたいことがあった”と言ったほうが正確な気がする。

転機はいくつかあった。特に大学に進学した時は、トレーナーを目指すか、選手としてやるかで悩んだりもした。
「最初はどっちも両立できるかなと思ったんですけど、トレーナーの勉強はそんな生やさしいものではなくて。“いましかできない”という思いもあって、競技に打ち込むことにしたんです。その頃って丁度、高速水着が禁止されたタイミングでもあって、競泳界にとっては大きな転換期でした。その時に自分や周りがどういうタイムで泳げるのかに興味が湧いて、チャレンジしたくなったんです」

やはり、“水泳がやりたかった”のだ。そうじゃなければ、マスターズのリレー119歳以下の部で3つの日本記録と1つの世界記録を樹立するなんてことができるはずがない。
「何事も続けていると良い事があるなあと思います。もともと社会人になってからは、競技をすることは考えていませんでした。マスターズに登録したのも体型維持のため。でも、記録を狙おうというリレーのチームの仲間のお陰で、レースの緊張感やわくわく感を思い出すことができて、いまでは辞められなくなっています。ただ、そんなにストイックに練習をしているわけではなく、週に1、2回泳ぐ程度です。マイペースに続けられるのも水泳の良さだと思っています」

いつかは競泳専門の直営店を
彼女の人生の転機にはいつも水泳がある。
柏崎さんがゴールドウインに入社したのも、水泳に関わる仕事がしたかったから。
「競泳ブランドを取り扱っていて、さらにユーザー(お客さま)と近い所で働きたいと思った時、直営店を強化しているゴールドウインがピッタリでした」

最初に配属されたのは、小田急ハルク内の水着売場。そこで4年を過ごし、昨年「NEUTRALWORKS.」への異動願いを出した。
「NEUTRALWORKS.」は、Speedoといった競泳ブランドの扱いはあるものの、その他のスポーツ、さらにはライフスタイルまでカバーした幅広い商品展開。副店長という責任ある地位にも就いた。
「チームプレイをやったことがないので、他のスタッフを気に掛けたり、まとめたりすることにあまり慣れていないんです。そこは今後の課題ですね」
水泳というひとつのレーンで泳ぎ続けていた彼女だが、「NEUTRALWORKS.」に異動したことによって、他のスポーツにも目が行くようになってきた。
「お店にはいろんなスポーツを、しかも本格的にやっている方もたくさんいらっしゃいます。そういう方を接客するときには、やはり自分の経験値をもっとあげなくては、と思うことも多々あります。商品知識は努力すればついてきますが、説得力のある接客をするには、やはり自分自身が経験してみる必要があると思っています。とりあえず、フルマラソンから、ですかね(笑)。ただ、それと同時に思うのは、“スポーツをやっていた”という経験が根底にあれば、ぜんぜん別のジャンルであっても共通するものはある、ということです」

水泳一筋でやってきた柏崎さんが、そんな未知の世界へ飛び込んだ理由は、いつか実現したい夢があるからだ。
「FLIGHT TOKYO(ゴールドウインが展開するTHE NORTH FACEブランドのランニング専門ショップ)の水泳版ができたら良いなと思っています。競技をしている方、これから始めようとしている方が、そのお店に来れば、商品だけでなく様々な情報やノウハウも得られる場所。いまは水泳商品を専門に扱う直営店がないので、もしそういうお店が出来たとしたら、直営店で働いた経験が必要だと思って、思い切って「NEUTRALWORKS.」に異動願いを出したんです」
ほら、やっぱり。彼女の目には“やりたいこと”が明確に見えている。
- 柏崎美香
1992年生まれ、東京都出身。0歳の時から水泳をはじめ、小、中はスイミングクラブ、高校、大学は水泳部に所属。高校時代にはリレー種目でインターハイで入賞も果たす。社会人になってからは、マスターズに登録。リレー119歳以下の部で3つの日本記録と、1つの世界記録を樹立。現在はNEUTRALWORKS.NIHOMBASHIで副店長を務める。
(写真 古谷勝 / 文 櫻井卓)