
これからランニングやトレイルランニングを始めたいというビギナーから楽しくレースを走るファンランナー、そして自己ベスト更新を狙う経験者まで、すべてのランナーが直面するシューズ選び。自分の走り方に最もフィットするシューズとは?怪我なく、楽しく、長くランニングを楽しむために必要なシューズ選びのコツとお勧めシューズを、サブ3ランナーにしてTHE NORTH FACEのシューズ開発に携わる木村豪文さんに伺います。
ロードからトレイルまで、サブ3ランナーのスポーツライフスタイル
高校時代は陸上部で3000m障害走を、大学生になって長距離を始め、入社してトレイルラニングにハマりました。そんなバックグラウンドもあり、ロード、トレイル、どちらにも力を入れています。ロードの自己ベストは昨年1月の大会で出した2時間45分59秒。トレランでは、11月に開催された神流マウンテン&ウォークの50kmペアというクラスで優勝することができました。近々では1月にハーフマラソンとフルマラソンを1本ずつ、4月には100kmのウルトラマラソンレースに出場予定です。

毎日、相当な距離を走り込んでいると思われがちですが、近年は距離ベースの走り込みから無酸素運動を取り入れたトレーニングにシフトしています。負荷のかかるスピード練習などで、内容に緩急をつけるようになったんです。そのおかげか毎月の走行距離は減っていても効率的な走り方ができているように思います。密度の濃いトレーニング法を見つけられたのは、日本ランニング協会認定資格のランニングアドバイザーを取得したおかげ。これはランニング時の知識だけでなく、ランニングマナーや効果を身につけようというもので、心肺蘇生法やAED講習、ストレッチなどコンディショニングを学ぶことができます。こうした知識のおかげで、走っていない時も身体を意識して使うことができるようになりました。
アスリートの協力なしには生まれなかった、日本企画のシューズ
現在はTHE NORTH FACE事業部でソックスとシューズの開発に携わっています。2014年、ラスト(足型)から日本人向けに開発したエリートランナー向けのロードシューズを日本企画でリリースしようというプロジェクトが立ち上がり、1年3ヶ月間、開発拠点であるベトナムのホーチミン市に赴任しました。こうしたカテゴリーのシューズは海外でも展開したことがなかったので、すべてが手探り状態。特に「シューズの命」とも言えるフィット感の向上に苦労しました。近年、日本人の足は幅が狭く甲の薄い欧米人の足の形にやや近くなってきているんですが、かかとだけは小ぶりなんですね。こうした日本人ならではの形に添わせるべく、オリジナルのラストを起こしたんです。

フィッティングに関してはTHE NORTH FACEの契約アスリートに協力してもらったんですが、最初の4、5モデルはダメ出しの連続。ラストが決定するまでに1年以上を要しました。ラストが決まっても、スピードをもたらす軽量性と、着地から蹴り出しまでをスムーズにサポートする反発力の両立という難題がありました。爪先からかかとまでをカバーする独自プレートを開発、屈曲性を向上させるためにアウトソールに凸凹をもたせたデザインを採用し、ミッドソールにも同様のスリットラインをあしらったり、とにかく手がかかりましたね。

厳しいアスリートたちからお墨付きをもらい、2015年春夏シーズンにお披露目したのが「ウルトラ レプルージョン」シリーズです。自分もこのシューズを使って日々、走っていたんですが、従来と変わらない練習量でそれまでの自己ベストを更新することができました。安心して走りこめる、信頼性の高いシューズができたなと実感しました。
ベストの一足を選ぶために
今回はシューズ開発におけるトライ&エラーから学んだ、シューズ選びの極意をご紹介しようと思います。

1.フィット感が命
まずは自分の足にフィットすること。シューズはこれに尽きます。どんなにいい素材を使い、最新の機能を備えていても、自分の足に合わなければ、シューズの機能も発揮されません。フィッティングを重ね、いちばんフィットするシューズを選びましょう。フィッティングの際は普段履いているサイズの前後1サイズずつ、計3サイズを履き比べてください。立ち上がった状態でフィット性を確認。靴紐はしっかり締めること!
2.自分のスタイルを見極める
ランニングにおいて何を目標とするのか。レースに出て自己ベストを更新したいのか、それとも仲間と楽しく走りたいのか、ダイエットやフィットネス目的なのか。レースで記録更新を狙うなら軽量性も重視、ビギナーが無理なく走るならクッションのしっかりしたモデルを。ランニング時のファッションも楽しみたいなら、素材やデザイン性に目を向けてみてもいいでしょう。
3.ロードかオフロードか
ロードシューズにトレランシューズ、どちらも走る機能をきちんと備えていますが、不整地を走るトレランシューズの場合はアッパー、ソールに少しずつアレンジがなされています。例えばロードシューズのソールは障害物のない路面に対応して、フラットですが、トレランシューズの場合はぬかるみや砂利道でグリップを効かせるための凹凸があります。アッパーも、ロード仕様は軽量性や通気性を重視していますが、トレイル用となると爪先にラバー素材を張るなどして耐久性をアップさせています。その分、ロードシューズよりも重くなっていることが多いですね。
トレイルの場合、走る距離と時間、路面状況によってもシューズ選びは大きく異なりますので、レース内容やコースに合わせたシューズ選びが必要になります。それぞれのシューズを履きこなし、その個性を理解した上で選んでみてください。鋪道とオフロードがミックスされているレースの場合は、ロードを走れるよう、ソールの作りを工夫したトレランシューズが便利。THE NORTH FACEのシューズでいうと、「ウルトラカーティアック2」や「ウルトラレプルージョン トレイル」がそれ。ロングのレースでは、前半と後半でシューズを履き替えるという戦術もあります。

おすすめシューズ、あれこれ
THE NORTH FACEでは3つのカテゴリーのシューズを展開しています。一つは、ジョギングからレースまでをカバーするロードシューズ、「ウルトラレプルージョン」シリーズ。2つ目は不整地用のトレランシューズ。THE NORTH FACEのトレランシューズは海外でも好評を博しており、欧米のアウトドアギアワードでいくつもの賞を受賞しています。日本企画のモデル「ウルトラトレイル スピード」ではアッパーの耐久性をさらに高めるため、パターンを新たに開発。また、路面からの突き上げや衝撃から足を保護する硬めのプレートと、安定感を向上させるミッドソールを採用しています。契約アスリートからの評価も非常に高いシューズです。

Ultra Repulsion Race(ウルトラ レプルージョン レース)

Ultra TR Speed(ウルトラ トレイル スピード)
3つ目は、この春新たに仲間入りするトレーニングシューズです。ロードとインドアトレーニング、どちらにも対応する機能を兼ね備え、さらにファッション性にもこだわった新シリーズはその名も、「ウルトラ ニュートラル」。トレイルシューズをベースにしているのでランの衝撃を吸収するクッション性はそのまま、滑らないソール、耐久性、そして横ブレを抑える安定性を加えました。特徴は2層構造のミッドソール。ロードシューズに採用しているTPUプレートの代わりに、軽量性と剛性が特徴のESSスネークプレートを搭載。運動時のねじれを防ぎ、安定感を高めてくれます。ソールにはグリップ力のあるビブラムソールを採用していますが、ジムでの使用も念頭に置いて床に色移りしないノンマーキングラバーを使っています。アッパーには通気性に優れたニット素材をあしらい、街履きにもぴったりの軽快なデザインに仕上げました。

Ultra Neutral(ウルトラ ニュートラル)

各シューズ最大の違いはソール。ランニング時の路面状況や自身のコンディションによって、シューズを選択しよう。
最後にメンテナンス方法をご紹介します。汚れたまま放置することはシューズの劣化を早めますから、使用後は使い古しの歯ブラシなど柔らかいブラシと中性洗剤で汚れをしっかり落とし、風通しのいい日陰で乾燥させましょう。保管の際は新聞紙などを詰めて型崩れを防いでください。靴箱に収納する場合は、月に一度は箱から出し、外気に当てるようにしてください。
お気に入りのシューズがあれば、ランニングライフはさらに充実したものになるはず。ロードからトレイル、そしてインドアまで、あなたにフィットした一足を見つけてみてください。
- 木村豪文
1981年青森県生まれ。高校時代は陸上競技部に所属し、3000mSCの選手として活躍。大学卒業後、ゴールドウインに入社してトレイルランニングに出合う。2012年にはUTMFに参戦、26時間22分で完走。昨年にはロードの自己ベストを更新するなど、ロード・トレイル問わずランニングを楽しんでいる。現在はTHE NORTH FACEのフットウエアチームに所属、エリートランナーに向けて開発した日本別注のロードランニングシューズ、「ウルトラレプルージョン」シリーズを手掛けるなど、日本人にフィットするシューズを企画している。
(写真 古谷勝 / 文 倉石綾子)