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アウトドアとの新しい向き合い方を、VECTIV™を通じて伝えたい 木村豪文

2021.06.15

この春、アメリカから嬉しいニュースがもたらされた。全米のアウトドア界に多大な影響力を持つ専門雑誌『Outside Magazine』が選ぶ「GEAR OF THE YEAR」の「The Best Trail Running Shoes of 2021」と、「The Best Hiking Shoes of 2021」に、THE NORTH FACEが新たに開発したシューズテクノロジー、VECTIV™を搭載した2モデルが選出されたのである。このシューズが生まれた背景を、シューズ開発に携わる木村豪文さんに伺ってみよう。

アウトドアシーンのベンチマークとなるシューズを!

半世紀以上にわたってさまざまなカテゴリーの商品を世に送り出してきたTHE NORTH FACEが、独自シューズの開発をスタートしたのは1999年から。開発チームが20年という開発の歴史を振り返るなかで生まれたのが今回のVECTIV™テクノロジーなのだとか。

「アウトドアシューズというカテゴリーのなかでベンチマークとなるような革新的なアイテムを作ることはできないか。そんな思いが新しいシューズテクノロジーを生み出すきっかけになりました」

アウトドアシューズに求められることは、アウトドアのフィールドにおいて高いパフォーマンスと快適さを高い次元でかなえること。そこで注目したのが、近年、このシーンでひときわ盛り上がりを見せるトレイルランニングのロングディスタンスと呼ばれるジャンルだった。いわゆる100km、あるいは100マイル(160km)という超長距離がこれにあたる。

「ここに注目したのは、シーン自体は盛り上がっているのですが、その反面、ウルトラのカテゴリーのレースでは完走者が少なく、また故障者が多いことが懸念されていたからです。つまり長距離レースはそれだけ過酷で身体に負担を強いるわけです。そこで、長距離を走るランナーをサポートするシューズを、ウルトラトレイルの本場であるヨーロッパで開発することになりました」

このシューズテクノロジーを開発するに当たり、チームが重視したのは「エネルギーをロスしない、効率のいい走りを生み出す」、「雨、雪などあらゆる天候、路面状況に対応して足を守る」という2点だった。

アスリートと生み出した、新しいテクノロジー

こうして完成したのが全く新しいボトム構造(プレート、ミッドソール、アウトソール)を備えたVECTIV™だ。

「前後左右のブレを防ぎながらバネのような推進力をもたらす、立体的に成形したカーボン素材の超軽量プレート。硬さの異なるEVAを2層に配したミッドソールはゆりかごの脚のようなロッカー形状で、着地のエネルギーを推進力に変えて足の自然な蹴り出しを促します。アウトソールは、自社開発したSurfaceCTRL™を採用。ラバーの配合をいちから見直して、ドライからウェットまであらゆる路面でグリップ力を発揮するアウトソールに仕上げました。植物性由来の原料を最大で42%使用しており、環境にも配慮しています」

特筆すべきは、このシューズテクノロジーがアスリートとの共同開発から生み出されたという点だ。グローバルサポートアスリートたちが総計1000km以上の実走を重ね、そのフィードバックを反映している。たとえば、2019年のUTMBのTDS®で準優勝したヒラリー・アレン。プロトタイプを履いてレースに臨んだ彼女のフィードバックが、製品のさらなる向上をもたらしたという。

「シューズにはさまざまな性能が求められます。安定性、クッション性、軽量さ……どれか一つを突きつめるとその他の機能は犠牲になりがちですが、アスリートからのフィードバックをもとに、VECTIV™シリーズは必要な要素をすべて取り込みました。そこが、アウトドアメディアの大家、『Outside Magazine』にも評価されたのでしょう」

グローバルチームで開発が進められたVECTIV™。右から5人目が木村さん。

さらに開発秘話として木村さんが教えてくれたのは、コンセプト作成の段階から日本のリクエストが多く採用されたこと。

「たとえばフィット感の向上があります。これまでのシューズのラスト(足型)は、日本人を含むアジア人の足にはややフィットしないという意見がありました。今回はこれを見直しており、アッパーに採用したニット素材の特性も相まって、フィット感が大きく向上しています。

また、デザインに関しても僕たちのリクエストを反映してもらえました。開発当初のデザインはゴテゴテしていたので、『機能がデザインを作る』という自分たちの原点を説明して、デザインのためだけのパーツのような無駄を省いてもらいました。結果、シンプルかつクリーンなデザインに仕上がったのです」

走力だけでなく、楽しみ方によって選べる悦び

このVECTIV™シリーズ、トレイルランニングシューズでは3モデル、ハイキングシューズは3モデル、ライフスタイルシューズが1モデルリリースされている。

「トレイルラニングシューズでは、最上位モデルのFlightは時速9km前後で走るランナー向け、その下のInfiniteは時速6km前後……というように、選び方の目安を提示しています。が、コロナ禍でレースも延期や中止が相次ぎ、多くの人がアウトドアフィールドとの向き合い方に変化を感じていることを考えると、走力だけでなく自身のコンディションやモチベーション、走るシーンで使い分けていいのでは。そんな風に感じています」

たとえば、疲労が溜まっているときやアップダウンの激しいトレイルを走るという日は、あえてセカンドモデル、サードモデルを選ぶ。クッション性があるので身体に負担がかかりづらいし、急傾斜のスピードを抑えてくれるからだ。逆にフラット基調のトレイルや、今日は追い込むぞという日には最上位モデルをチョイスする。自分のコンディションやトレイルときちんと向き合っていればこその使い分けといえるだろう。

奥からトレッキングシューズの〈VECTIV™ Exploris Mid FUTURELIGHT〉、トレイルランニングシューズのセカンドモデル〈VECTIV™ Infinite〉、そしてトップモデルの〈Flight VECTIV™〉。

「トレッキングシューズも、シーンや使い方によって選べる3モデルがラインナップしています。『The Best Hiking Shoes of 2021』を受賞したExploris Midは、VECTIV™を搭載した軽量の防水トレッキングシューズ。サイドの安定感を高めた樹脂製のプレート、次の一歩を促すロッカー構造に、高次元の防水透湿性を実現したFUTURELIGHT™をあしらいました。アッパーには強度と軽さを兼ね備えるコーデュラを使っています。ファストハイクや山小屋泊の縦走など、幅広いシーンで真価を発揮します。

一方、より手軽で軽量なモデルのEscapeは、アッパーに履き心地のいいニット素材を使っています。防水性はありませんが、そもそも晴天狙いの日帰り山行なら防水機能よりも軽さや履きやすさを選びたいですよね? アウトドアの楽しみ方はそれぞれですから、自分のスタイルにあったシューズを選んでいただければと思います」

レースとは別に見出せたモチベーション

月間300kmを走破するサブ3ランナーである木村さんも、ランニングやアウトドアフィールドへの向き合い方が変わったひとり。レースという大きなモチベーションをなくして見出したのは、純粋なアウトドアの楽しみ方だった。

「これまでは大会を見据えたトレーニングを目的としていたので、決まったコースを走ることが多かったんです。けれど昨年からは、これまでに走ったことのないコースを積極的に走るようになりました。景色のいいところや動物の気配を感じるところで立ち止まってみたり、すれ違うハイカーとおしゃべりしてみたり。それぞれのスタイルで山を楽しんでいるみなさんの姿にも勇気づけられましたし、記録以外を求めるようになったら、これまでに感じられなかった山の魅力を味わえるようになりました」

この夏、Flight VECTIV™を履いてUTMBのTDS®に出場予定だ。レースは楽しみだが、もちろん状況によって中止や延期の可能性もある。

「もしこの大会に出られなくなったとしても、いまの自分には山に向かう別のモチベーションがある。それを見つけられたことが一番の収穫かもしれません」

VECTIV™シリーズを通じて、もっとたくさんの人にフィールドの楽しさを伝えていきたい、と木村さん。アウトドアの楽しみはコロナ禍を越えて広がっていく。

  1. 木村豪文
    1981年青森県生まれ。高校時代は3000m障害の選手として活躍。大学卒業後、ゴールドウインに入社しフットウエアチームに所属。ロードからトレイルまで、多彩なシューズを手掛けている。一方、入社して始めたトレイルランニングでは、2012年のUTMFを26時間22分という記録で完走。ロードの自己ベストは2時間45分59秒を誇るなど、ゴールドウイン社きっての走力の持ち主。一般社団法人日本ランニング協会認定ランニングアドバイザー。今年は、青森県から福島県をつなげる約1000kmの「みちのく潮風トレイル」走破を目指している。

(写真 Sports First Mag / 文 倉石綾子)

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