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ボランティアスタッフが見た、UTMFができるまで
松田清忠

2015.10.29

「選手としてコースを走った過去3年で、華やかな表の顔は見せてもらいました。今度はスタッフとして、まだ見ぬUTMFの裏側も体験してみたかったんです」

 9月25日から3日間に渡って開催された『ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)』。富士山麓の登山道、歩道、林道をつなぐ170km、累積標高7900mを駆け抜ける国内最高峰のウルトラトレイルに、世界30カ国以上からおよそ1400人のランナーが集まった。数々のドラマを生んだレースゆえ、参加した選手にスポットライトが当たりがちだが、このイベントにはもう一つ、影の主役がいることを忘れてはいけない。ランナーたちの挑戦を影で支えたボランティアスタッフだ。

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THE NORTH FACEの商品企画に携わる松田清忠さんは今回、コース誘導係(通称「山班」)としてUTMFに参加した。自身も3年前からUTMFおよびSTYに選手として参加し、計3度の完走を果たしているウルトラランナー。UTMFという大会そのものの魅力も知り尽くしている。
「もちろん、今年もUTMFを走りたいという気持ちはありました。その反面、過去3回も走らせてもらっているのだから、少しは恩返しをしたい。そんな思いもあったのです」
 
 山班の仕事は、選手の誘導と非常時における救護活動だ。トップ選手からランナーの最後尾を走るスイーパースタッフが通過するまで、それぞれのポイントに張り付いて選手をサポートする。後半になればなるほどトップと最後尾との差は開くので、張り付く時間も長くなる。どのポイントに配置されるかで異なるが、最大待機時間は35時間を超える場合もある。数あるボランティアスタッフの中で、山班が最も過酷といわれる所以だ。松田さんは今回、レース3日前に現地に入った。まずは持ち回りのポイント付近を見回って周辺の地形の把握に努める。前日夕方には他の山班スタッフと集合。当日はUTMFのスタート時間である13時には各自、配置について選手の通過に備える。交代で仮眠を取ることもできるが、多くのスタッフは一睡もせず、通り過ぎるランナーたちに精一杯の声援を送ったという。

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トレイルで初めて味わえた、「走る」楽しさ

松田さんがトレイルランニングにハマったのは8年前。きっかけは、知人に誘われて出場した関西のレースだった。高校までは水泳一筋、走ることに苦手意識も持っていたが、30kmの行程もあっという間に感じたという。トレイルに満ちた土の匂いや屋外で走る開放感は、想像以上に刺激的だった。
「トレッキングやクライミングに比べ、少ないリスクでフィールドを楽しめるのがレースの魅力。山遊びのもう一つのツールとして、トレランという選択肢が自分の中に生まれたんです」

 以来、登山を楽しむ傍ら、国内のさまざまなレースに参加するようになった。定番の『ハセツネ』、とにかく精神的につらかったという『山田昇メモリアルカップ』……。数あるレースのなかでも、UTMF&STYは特別だ。

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「エイドステーションの賑やかさや声援も含めて従来の規模を超えていて、レースというよりまるでフェスのような雰囲気。昨年は4月開催でしたが、4月の富士山麓は夜間、厳しい寒さに見舞われるのでとにかく行程がハードですがその分、桁違いのワクワク感を味わうことができるんです」
 
 ウルトラの距離ともなると、ランナーたちはしばしば幻覚や幻聴に襲われる。そんなとき、コース誘導のボランティアの声援に救われることも少なくない。
「特にこのレースについては過去3回走っていますから、ランナーにとっていちばん辛いセクションをわかっているつもりです。そんなとき、スタッフとして彼らを励まし、少しでもプッシュしてあげたい。それが僕なりの恩返しだと思いました」

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レースに関わるすべての人へ、深い感謝の気持ちを持って

山班としての仕事以外にフィニッシュ会場での装備チェック、レース終了後のマーカー回収など、さまざまな裏方を経験した松田さん。「確かにUTMFを完走したときの達成感は得難かったけれど、その達成感は自分だけに向けられたもの。自分ではない誰かのために働けた今回のUTMFは、それに勝るとも劣らない充足感を味わうことができました」と、およそ1週間にわたる経験を振り返る。スタートも、仲間たちの感動のゴールも、メイン会場の雰囲気もついに目にすることはできなかったけれど、それでも大きな満足感を味わえたのは、成功裏に終わったレースの裏に何百人というボランティアたちの献身があることを知っているからだ。

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 今回の体験を契機に、UTMF以外のレースでも裏方に携わってみたいと思うようになった。
「山班としてレースの裏側を見ることで、大会運営がどんなにシビアなものなのか知ることができました。もちろん、これからもさまざまなレースにランナーとして参加していきたいと思っていますが、エイドでのサポートやコースでの誘導など、今までとは視点が変わりそう。大会に関わる全ての人々に深い感謝の気持ちを持って走ることができる、それがいちばんの収穫だと思っています」

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松田 清忠(まつだ きよただ)
1971年5月24日、大阪府出身。小学2年からスイミングスクールに通い、高校は水泳部で、夏は部活、冬はスイミングスクールで水泳三昧。学生時代は車やマウンテンバイクで国内各地をキャンプ行脚。大学では自動車部に所属し、モータースポーツにも没頭。卒業後、自動車業界へ進むも方向転換し、カンタベリージャパンを経て、2006年ヘリーハンセン事業部へ転籍。その後アウトドア専門店の営業として従事。10年かかるも目指すアウトドア業界へ着地する。2009年から始めたトレイルランニングをきっかけに山に魅了される。トレイルランニングはスピード重視のショートレースよりもマイペースで進めるロングレースを好み、登山はテント泊スタイルの縦走に魅力を感じる。現在はノースフェイス事業部に所属し、「山でリアルに使用できる製品」を念頭に製品開発を行っている。休日は月2、3回の「勝手にフィールドテスト」と称し、山へ。仕事と遊びの境界線が無い事に喜びを感じている。

(写真 小暮哲也 / 文 倉石綾子)

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