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初めてマラソンをうまく走れた 西浦孝則の富山マラソン2021

2021.11.26

「マラソンは自分に向いていないと感じています。もっと速く走れるのに……といつも思わされて。うまく走れなくて悔しいです」

2021年11月7日に行われた富山マラソンの直前、西浦さんは自身のマラソンをそう振り返った。

富山発祥のゴールドウインは、2015年に富山マラソンが開催されて以来、ゴールドパートナーを務め、毎年多くのスタッフが出走している。ゴールドウインの開発研究機関テックラボでプロダクトデザインを担当する西浦さんもその1人。出場は今回で2度目。1度目は2019年、新入社員のときだった。

筑波大学で箱根駅伝出場を目指し、競技に打ち込んでいた西浦さんの富山マラソンデビューは10位。これまでのゴールドウインの社員の中では最高順位だった。

富山マラソン2021に出場したゴールドウイン社員。スタート前に集合し、互いにエールを送った。

自己ベスト更新、2時間20分切りを目指して

「会社の人がすごく応援してくれましたし、たくさんの人に自分のことを知ってもらうきっかけにもなって、過去のマラソン大会の中でも思い出深いレースになりました。ただ、自分の中で10位という結果は納得していなくて。ずっとリベンジしたいという気持ちを持ち続けていたんです」

コロナ禍で昨年のレースは中止となり、2年ぶりの開催となった今回。目標は自己ベスト更新の2時間20分切り、そして優勝だった。
西浦さんはまずは自身の練習メニューを見直すことから始めた。社会人になって5000mの自己ベストを更新したこともあり、スピードには自信があった。課題は距離だった。

「ある一定のスピードを超えると、後半キツくなって、42kmを最後までうまく走る難しさを感じていました」

2021年2月に出場したびわ湖毎日マラソンもそうだった。調子の良さから前半飛ばしてしまい、後半グンとタイムを落とすことになってしまった。

「そこで徐々にジョギングなどで走る量を増やして、40km走を入れたり、ウエイトトレーニングもしっかりと行うようにしました」

ウォーミングアップエリアに最後まで残りアップを続けた。

とはいえ、西浦さんはあくまでも市民ランナー。実業団選手とは違い、会社勤めの合間を縫ってトレーニングを積まなくてはいけない。それでも月間走行距離が600kmを超えたこともあると言うのだから驚く。

「学生時代はきついトレーニングは好きではなかったのですが、自分でトレーニングメニューを考えるようになって、限られた時間を意識すると、むしろきついトレーニングを選んでやるようになりました。結果的に筋力がついて、トラックのタイムも伸びましたし、ハードなトレーニングを積んできたことが自信にもつながりました」

次の富山マラソンで優勝を狙う。その思いで2年間トレーニングを積んできたことを知っている周囲からの応援も、西浦さんの力となった。
同期らが作ってくれたウエアを着て、西浦さんはいよいよスタートラインに立った。

冷静な判断で着実にレースを運ぶ

レース当日の富山は風が強く、気温も高い、ベストコンディションとは言えない状況だった。「タイムは狙えない」。そう判断した西浦さんは、優勝を狙いつつ、自分のペースを保つことに集中した。

レースが動いたのは13km地点。先頭集団が徐々にばらけはじめた。レースでは単独走になると、風の影響をモロに受けることになる。他の選手の後ろにつき、風除けにする戦略をとるランナーも多い。西浦さんも今まではそうだった。

15km過ぎ、新庄川橋。ペースアップした集団にはつかず、自身のペースでレースを進めた。

「だけどこれまでの経験で、速い選手についていくと、後半もたなくなるというのは体感していて。今回も先頭集団は僕の中では少しペースが速かった。マラソンは最後の10kmで余裕があるかないかが重要です。もちろん前との距離がどんどん開いていくのは不安でしたが、自分のペースで後半まで足が持てば、残り5kmで逆転できる。トレーニングをしっかりと積んできたし、1人でもしっかり走ることができるはずだと自信を持って走っていました」

26km過ぎ。気温も上がり苦しい表情を見せる選手が増える中、乱れぬフォームで軽快に進んだ。

アップダウンのきつい20km過ぎの新湊大橋、風が強くなった35km付近、落ちてきた前の選手の姿が見えてきた終盤でも焦らず、自分のペースを守り続けて、徐々にトップとの差を詰めていった。

「初めてマラソンをうまく走れた」

結果は自己ベストの2時間23分47秒。優勝には届かなかったが、2位でゴールを果たした。

「優勝はできませんでしたが、自分の考えていた通りの走りができました。今までの努力を結果として表現できて、これまで頑張ってきて良かったなと思っているし、初めてマラソンをうまく走れたのがうれしくて仕方ないですね」

ようやく自分の走りを見つけた西浦さんは、これからはその走りを研ぎ澄ましていくことになるだろう。年内には一緒に練習を積む仲間たちと駅伝にも出る。春が来ればトラックレースの季節が到来だ。市民ランナーだからこそ、1つに絞るのではなく、色々な種目に挑んでいきたいと西浦さんは言う。

「スピードを出して走れるのがトラックの楽しいところ。高校生や若い子たちと一緒に走れるのも刺激になります。マラソンはまだまだ伸び代があると思っているので、練習方法を工夫したり、どうやって練習時間を確保できるか考えたり……準備段階からの組み立ても面白いですね。たくさんの人に応援してもらって走るというのもなかなかできない体験で、マラソンの醍醐味。どれかに絞ることはできないし、どの種目も頑張っていきたい」

今後は2022年2月6日の別府大分毎日マラソン、2月20日の湘南国際マラソンで上位を狙う。覚醒した西浦さんが今後どんな走りを見せてくれるのか。楽しみにしたい。

  1. 西浦孝則
    1993年生まれ。和歌山県出身。野球部だった中学生時代に駅伝選手に抜擢され、県内優勝を経験。高校生から陸上に打ち込み、進学した筑波大学では箱根駅伝を目指す。大学院ではランニングフォームの研究に従事。自他ともに認めるランニングシューズ好きで、現在はゴールドウインテックラボでランニングシューズ開発に携わる。フルマラソンの自己ベストは2時間23分47秒。

(写真 水上俊介 / 文 林田順子)

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