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日本人スイマーのために開発した「Fastskin LZR Racer J」で水着市場に挑む
御巫雅子

2016.08.10

「水着を変えるというのは、選手にとっては大きな決断。多くのスイマーに選んでもらいたい」

1928年、オーストラリアでスタートした「Speedo」。2008年に水泳界を席巻した高速水着「レーザー・レーサー」を生み出したスイムウェアブランドと言えば、ピンとくる人も多いのではないだろうか。日本でそのSpeedoの開発に携わっているのが、御巫雅子さん。16年1月に発売された日本独自開発のトップレーシングモデル「Fastskin LZR Racer J」には、日本ならではの工夫が詰まっている。

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日本人による、日本人のための水着「Fastskin LZR Racer J」
現在、レーザー・レーサーシリーズのトップモデルは「Fastskin LZR Racer X」。イギリス本社にあるSpeedo Aqualabが世界を4周(!)巡ってトップスイマー330人と専門家20人へリサーチを行い、最先端の技術を結集させたモデルだ。

「『レーザー・レーサー』の登場によってタイムが飛躍的に伸びた一方で、水着に対する規制が生まれたのも事実です。今のルールだと、1秒単位でタイムを縮めるのはなかなか難しいんです。そこで、高度な機能を保ちつつ、買いやすい価格帯の水着をということで、日本で独自に開発したのが『Fastskin LZR Racer J』です。日本生まれなので、JapanのJから名付けました」

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「そもそも「レーザー・レーサー」の登場以前は、水着の表面をサメ肌状にするなどで、水の流れをコントロールして抵抗を減らすことが主流でした。それとはまるで異なる発想で生まれたのが「レーザー・レーサー」。水中を進むとき、同じ体積なら、岩のようなものよりも細長いものの方が、抵抗が少なくなります。なので、水着の着圧によって人間を棒のように細くしてしまおうという発想です」

強く着圧をかければ、着るのが大変になる。しかし、極端な選手の場合、2サイズも小さい水着を着用するほど、速く泳ぐためには欠かせないのが、着圧。それでもできる限り、快適に泳いでほしいのが開発者の願いだ。

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「とくに日本人選手は、細かなところをチェックする方が多いのです。水泳の試合を見るとわかりやすいのが、外国の選手はキャップにしわが寄っても気にしないけれど、日本人はピチッと頭にフィットしていますよね。そうしたセンシティブさを日本人選手は持っているので、フィット感には徹底してこだわりました」

ヒアリングの結果、女性選手は胸元、男性選手は腰回りからの水の侵入を気にするコメントが多かった。その対策として、単に締め付けて水が入る隙間を埋めてしまうのではなく、カーブの取り方に工夫を施した。さらに女性用は、肌あたりの滑らかなストラップ設計になっている。

着圧については、「Fastskin LZR Racer X」のコンセプトを踏襲し、息継ぎやローリング動作をしやすいように、ボディに使う生地は横方向への伸びをいかし、脚はボディと生地の向きを変えることでより着圧がかかるように設計し、筋肉のブレを防いでいる。

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さらに「Fastskin LZR Racer J」には、その縫製にも特徴がある。平滑性と強度を兼ね備えた独自の縫製技術”スマートシーム”を採用。少ない糸量でパーツを縫い合わせており、縫い目の凸凹がほとんどない。縫い目に指を滑らせるとスッとスムーズに動くのだ。

「抵抗を減らすことだけなら、生地どうしを貼り合わせるボンディングという仕様がいいのですが、それだと強度は劣ってしまうんです。たとえばスタート台に立ってスタートの姿勢になると負荷がかかり、貼り合わせた部分がパンクして破れてしまうことも。そこで、ゴールドウインが特許を申請している”スマートシーム”を採用することに。貼り合わせた上でさらに縫っているので、強度がかなり高い上に、縫い目がフラットで水の抵抗を受けにくいんです」

Speedoを知って、試して、選んでほしい

日本人選手に試着してもらっては感想を聞き、意見を集約させて作り上げた完成品。自信はある。次なる課題は、いかに着用してもらうか、だ。

「買いやすく手にとってもらいやすい価格ではありますが、水着を変えるというのは、選手にとっては大きな決断。なるべく多くの人たちにまずは知って、試してもらい、さらに選んでもらえるようになって欲しいですね。」

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水に入るきっかけを作るのも、開発者の使命

小学生時代に水泳をしていた御巫さんは、その経験を開発に役立てている。試作品が上がってきたら、まずは自ら泳いで試す。

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「水着に限らずですが、私たちが作っているモノについては、やはり自分自身でも実際に着用してテストすることも重要です。もちろんトップモデルのテストはトップアスリートに頼りますが、それでも自分が着てみないと気がすまないところもあります。速さや泳ぎやすさという観点だけではなく、水から上がったあとに寒くないかとか、脱ぎ着のし易さとかも自分で試さないことにはわからないですしね。もう、どれだけの数の水着を着たのか、数えきれないですね(笑)」

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市民レベルで、身近に楽しむ人が増えてきている日本のスポーツシーン。ただ、水泳については、興味はあっても、実際、泳ぐまでにいたらない人が少なくない。

「日本では学校の授業に水泳がありますし、習い事としての人気も高く、まったく泳いだ経験のない人は、ほぼいないと思います。それが大人になると、水着姿になるのに躊躇したり、髪を乾かさなきゃいけなかったりと、泳ぐ人がぐっと減ってしまう。でも、泳ぐのって本当に気持ちがいいんです。私が好きなのは、水中にいるときのゴォォォという音。無心になれて、呼吸だけに集中できるんです。エネルギーをたくさん使うけれど、身体への負担が少ないのも、水泳のいいところですね。こうした素晴らしさを味わってもらうためにも、水に入るきっかけを作ることも、水着開発者としての使命だと思っています」

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御巫雅子(みかなぎ まさこ)
小学生時代に水泳を習う。中高ではバレーボール部に所属し、今でも仲間と楽しんでいる。大学は体育大に進学。世界的なスポーツ大会に携われる仕事を求めて、ゴールドウインに入社。「ellesse」ブランドの水着を担当した後、入社3年目で「Speedo」ブランドの担当へ。入社以来、一貫して水着畑を歩いている。自身が競技者だったこともあり、アスリートへの尊敬の念が大きく、選手をウェア面からサポートしていきたいと感じながら、仕事に邁進する日々。

(写真 古谷勝 / 文 小泉咲子)

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