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ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

沢登りにしかない、やめられない爽快感 馬場健人

2019.12.04

東九州道・延岡ICを降り、日之影バイパスから県道214号・上祝子綱の瀬線(かみほうりつなのせせん)を北へ入ると、それまで見ていた長閑な風景は、徐々に大自然へと変わり始める。矢筈岳、比叡山の間を割って通るあたりは花崗岩の山肌の美しさに魅力されると同時に「よくこんな道を作ったな」と先人への敬意を抱かずにはいられなくなる。今回の目的地はその更に先、鹿川キャンプ場だ。隣接する日之影町は91%が森林というだけあって、見渡す限り緑に囲まれている。“沢登り”をメインのアクティビティとする馬場健人さんのとりわけお気に入りのフィールドだ。

福岡・糸島市生まれ。4兄弟の次男として育った馬場さんは、高校を卒業後、オーストラリアへの留学を決意。お金を貯めようとアルバイト情報誌をチェックしていた時に目に留まったTHE NORTH FACEで働き始める。

「当時はTHE NORTH FACEのことをちょっとカッコいいアウトドアのブランドくらいの認識で、バックグラウンドも何も知りませんでした。入社する以前は、身体を動かすのは好きでしたけど、意識的にアウトドアに取り組んでいたわけではありません」

THE NORTH FACEで働くようになった当初、特別アウトドアに目覚めることはなかったという馬場さん。
「本格的にアウトドアに触れる機会となったのは登山。当時一緒に働いていた先輩が九重連山に連れ出してくれたんですけど、正直なところ、モチベーションはそんなに高くなかった(笑)。漠然と『九州にこんなところがあるんだ』と思いましたけど、まだハマる感じではありませんでした」

マラソンサブ3達成と同時に念願の海外留学へ

当時は海外へ行くことが一番の目標で、頭の中はそのことでいっぱいだったという馬場さん。とはいえ中学生のころから陸上で長距離をやっていたこともあり、ランニングにも打ち込んでいた。

「店舗ではパフォーマンス担当としてトレイルランニングもやっていましたし、個人としてはマラソンでサブ3を目標にしていました。そのサブ3を達成した時に、ここがいいタイミングだなと思って、約1年半勤めたTHE NORTH FACEを辞めて、念願だった海外留学に踏み切りました」

1年間滞在したオーストラリアでは、ヒッピーたちが運営するキャンプサイトで3週間寝食を共にするという珍しい経験もしたという。国立公園内で寝床はテント、風呂は川、食事はヴィーガンといったタフっぷり。しかし、そんな生活にも臆することなく、むしろ楽しんだようだ。

「そこでの生活はすごく楽しかったですね。一緒にアウトドアを楽しめる友達ができて、ハイクをしたり。ハマるというよりも、どんどん好きになっていきました」

日本へ帰国後、再びアウトドアの世界で働くのかと思いきや、そうしないところが馬場さんの面白いところだ。

「よく変わってるって言われるんですよね(笑)。沢登りにしてもそうなんですけど、人と違った道を行きたくなる。日本へ戻った後、ファッションの世界に入りたくなって、もう一度カナダへ留学したんです。ところが家も見つからず、時間とお金を浪費するだけの時間を過ごしているうちに、自分はただ憧れているだけだと気がついて、日本へ戻ることにしました。とはいえ帰国後もまだ何をやるか決めていたわけではないんです。何も決めていないから時間だけはたっぷりとあって、とりあえず糸島の山を登り始めたんです。全部制覇しようと思って」

“ハマった”沢登りの魅力

ちょうどその頃、留学前に勤めていたTHE NORTH FACEのスタッフの誘いで、馬場さんは再び店に戻る。そこで後輩から勧められたのが沢登りだ。

「登山とはまた一味違う見たことのない景色が見られることと、アドベンチャー的な要素に魅せられ、すぐにハマりました。突然難しい斜面が出てきたり、滝が出てきたりと、次が読めないワクワク感とスリルが味わえます」

「基本的に新しい景色を見たいので、一度行ったところにはあまり行かないんですが、ここは特別ですね。何回来ても気持ちよくなれる。難易度もそこまで高くないし、初心者にもお勧めできるコースです。大分に住んでから、この辺りのフィールドが大好きになり、よく来るようになりました」

流れる水を受ける姿を見ていると流されるのでは? と心配になったが、足を取られることなく、軽快に登っていく馬場さん。もちろん水の流れが激しすぎるとそうはいかないが、程よい水量であれば、水に視界を遮られながらの沢登りとなり、冒険心をくすぐられる。今回案内してくれた鹿川キャンプ場から鉾岳へ向かう登山道の脇を流れる沢は、ロケーションもダイナミックで、水も澄んでおり、心のリフレッシュには最高だ。

「水に逆らっていく感覚がいいですよね。福岡から引っ越してきて、今は一緒に行く人と時間を合わせづらいんですが、できれば毎週でもやりたいくらい。冬でもウェットスーツを着て登る人もいますが、僕は冬はしません。これからはシーズンオフなので登山に切り替えますが、また来年、いろんな沢へ行きたいと思います。夏の暑い日に、水を浴びながら進んで行く爽快感は、今まで経験したどのアクティビティでも得られなかったもの。自然と一体になれる時間が最高に気持ちいいんです」

アウトドアブランドとしてのTHE NORTH FACEの魅力を伝える

沢登りはあまり知られていないということもあり、馬場さんはもっと多くの人にこのアクティビティを知ってもらいたいと考えている。

「イベントをやりたいなと思っているんですけど、やっぱり沢登りはリスクも高いので、リスクマネジメントを万全にするとなると現状では難しいんですね。でもこんなに楽しいアクティビティを色んな人たちに知ってもらいたいと思うので、来年には実現できるように動いていきたいと思っています。それともうひとつお客様に伝えていきたいのは、アウトドアブランドとしてのTHE NORTH FACEの魅力ですね」

お客様とアウトドアの話をすると「スタッフの人もやるんですね!」と驚かれることが意外と多いという。

「伝えるために自分がアクティビティをしているわけではないけど、実際やっている人の言葉は重みが違う。沢登りがシーズンオフとなるこれからの時期はクライミングやボルダリング、ハイクに行ってご飯を作ったり、テント泊をしたり。それぞれのアクティビティの魅力を伝えながら、ブランドの魅力も伝えていきたいですね」

ファッションとしてのブランドだけでなく、THE NORTH FACEがこれまで作り上げてきたものづくりの精神や歴史といったコアな部分を伝えたいと語る馬場さん。その口調からはアウトドアマンならではの重みと、自然に対するリスペクトが強く感じられた。

  1. 馬場健人
    1989年生まれ。福岡県糸島市出身。中学・高校では陸上の長距離、社会人になってからはマラソンに打ち込みサブ3を達成。沢登りに目覚めてから、月に数回九州の沢を巡っている。更なるレベルアップを目指し、厳しい沢にも挑戦中。4月から大分県のTNF+トキハわさだ店に勤務。環境担当に抜擢され、店舗での環境への取り組みも発信している。

(写真 丹野篤史 / 文 高橋知彦)

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