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いつからかスポーツが一番になった

スポーツを一番に考える、SPORTS FIRST な想いを持った
ゴールドウイン社員のライフスタイルに迫ります。

最高のスキー体験を実現するための拠点にしたい。
伊東裕樹

2017.12.18

スキー・スノーボードショップが集まる東京・神田。その街に〈フィッシャー・チューニング・べースTOKYO〉が2017年9月にオープンした。ここはスキー板、スノーボードをチューニングするだけではなく、FISCHERブランドを総合的に展開する日本初のフラッグショップ。スキーのエキスパートだけではなく、幅広い人たちにもっとスキーを快適に、気軽に楽しんでもらえるため「質の高い技術」「知識とサービス」「幅広い情報」を提供できるベース(基地)としたいという思いが名に込められている。同店のスーパーバイザーは元全日本ナショナルチームのサービスマンの伊東裕樹さん。その伊東さんにチューンナップの大切さを聞いた。

    思い通りに滑るにはチューンナップは不可欠

    神田小川町。オフィス街の一角に〈フィッシャー・チューニング・べースTOKYO〉がある。観光で訪れたのだろうか、時折、外国人客が店を覗いていく。「日本だけではなく、オーストラリア、ニュージーランド、中国などからの観光客もふらっと立ち寄られます。海外のお店より、日本の方が品揃えは豊富だそうです。それに、日本で売られている製品は信頼があるようですね」と伊東さんは笑う。まさか、観光客たちは元全日本のサービスマンが店で作業しているとは思わないだろう。「私はスーパーバイザーという立場ですが、週末は可能な限り店にいて、チューンナップをしたり、お客さんから直接お話を聞こうと思うんです」。

    スキーはシンプルなスポーツだ。スキー板を履き、雪上をすべる。だが、エキスパートではないかぎり、板のチューンナップにさほど関心はないのではないだろうか。もしくは、あったとしても「ハードルが高い」「自分のレベルには関係ない」と、思うのではないだろうか。スキーをすべっている時に板が「すべらない」「ひっかかる」という状態になることがある。それを解決するため簡易的なフッ素コーティング剤を塗ったり、ワックスがけをしたりする。これらはポピュラーなメンテナンスではあるけれど、伊東さんの言う「チューンナップ」とは、それとは少し違うようだ。いったい、どのような作業なのだろうか。

    「簡単に言うと、クルマでスピードを出したい人は、どうすれば速くなるかを考えますよね。タイヤを替えたり、速度に対応できるようにブレーキを強化する。スキーも同じなんですよ。工場でできたスキーは普通にすべることはできます。ですが、スピードを出すと不安定になったり、挙動が怪しかったり、きれいにターンを描くことができない。板が自分の思い通りにならない場合がある。それをカスタムをするのがチューンナップです」

    しかし、スキーヤーの動きやレベル、すべりたいイメージをどうやって知るのだろう。「たしかに難しいですね」と伊東さんは頷く。

    「原因がわからない人が大半なんです。ですので、すべりたいイメージを話してもらうのが一番です。その人の技術やレベル、どういうところをすべるのか。そういう話を聞いていく。話を聞いて生きるのは、スキーをいじる側の経験ですね。お客様の『テールが引っかかるのが嫌だ』とか、『トップはもっとかみたい』というような話しを聞き、チューンナップする側がイメージを作っていく。10分でもいいのでお客様と話をすることが一番です。それができると『こういう考えでチューンナップをしました』とお戻しできます。しかし、板を送ってくる方も多いので、なかなか難しいんですけどね」

ビギナーこそ体験してほしい

理想のすべりを伝えてチューンナップをする。なかなかビギナーにはハードルが高い。上級者向けのサービスではないのだろうか。そう問うと、伊東さんは首を振る。

「ビギナーやこれからスキーをする人こそ、チューンナップが必要だと思います。『すべらないスキー』でスキーをしてもおもしろくない。大半の方は、買ったスキーを『すべりづらい』と思わないでしょう。しかし、チューンナップしたスキーを履いたら、違いがわかるはずです。そして、スキーで楽しい思いをし、技術も向上するでしょう。チューンナップの良さを皆さんに知っていただきたいと思いますね」

もちろん、スキー板の多くは工場出荷の際に、ある程度はマシーンでチューンナップをしている。しかし、それはあくまでも『ベーシックなスキー』の状態だ。〈フィッシャー・チューニング・べースTOKYO〉でのチューンナップは個人のすべりに対応する。チューンナップの具体的な作業はどのようなものなのだろう。

「スキーのすべりを左右する点において、大切なのはワックス・滑走面・サイドエッジのチューンナップです。上手にワックスをかけた『すべるスキー』は、前に体重をかけるだけでもスッと前に進んでいく。これで進むのだから楽ですよね。一方、『すべらないスキー』は、大変な思いをしてこがなければいけない……。あれはとても疲れますよね。あと、滑走面であるベースのチューンナップをしていないと、非常に回転しづらい。つまり、ターンがしにくいんです。エッジと滑走面の高さが同じ高さだと、エッジがひっかかる。エッジが雪をかんでしまうと、思うように曲がらないわけです。エッジを適切に削り、滑走面よりもエッジの高さを低くすればスキーがよく曲がるようになる。しかし、削りすぎると今度は雪をかまなくなって、踏ん張りがきかない。すべる場所はカリカリの斜面、ふかふかのパウダーとコンディションは異なります。すべての状況に対応することはできないけれど、どんな状況にもある程度は対応できるようにするチューンナップも可能です」。

長く満足をしてもらうことが重要なサービス

伊東さんは子供の頃、スキー選手を志していたそうだ。競技から離れたあともスキー板をチューンナップするサービスマンとして、スキー業界に携わってきた。元ナショナルチームのサービスマンなどの経験と技術を〈フィッシャー・チューニング・べースTOKYO〉に注いでいる。

「私はこれまで多くの選手たちにサービスを提供してきました。少しでもエッジの仕上げが間違えていると、選手は快適にすべることができない。快適どころか重大な怪我につながるんです。突き詰めると、チューンナップは技術の向上以上に、『怪我をしない』ことにつながります。お恥ずかしい話ですが、私自身がチューンナップをしていない板で転んで怪我をした苦い経験があります。しかし、そういう経験から『選手たちにも怪我をさせたくない』という思いが強くなり、チューンナップの大切さを感じるようになった。私のキャリアの中で怪我をした選手は少ないんです。チューンナップが良かったかどうかはわかりません。しかし、『怪我をさせないチューンナップ』は私の責任だと思っています。ですから、ビギナーの方にはぜひ、スキー板のチューンナップをしてほしい。良い状態の板は、『すべる』『止まる』がコントロールしやすくなる。買ったままの状態ではなく、自分に合った板にしていくべきだと思います」

最後にあらためて、伊東さんにチューンナップの重要性を語ってもらった。

「正直言って、チューンナップは周りからは何をやっているか理解されづらい、まだ大切さが届いていないように思います。チューンナップすることで技術の向上、安全につながるということを、〈フィッシャー・チューニング・べースTOKYO〉を拠点にお話しさせていただきたいと思っています。結局は、私たちがやっていることは、楽しくすべってもらうことにつながっている。スキー業界は『板を売ったらさようなら』ではいけない。きちんとアフターケアをして、道具もすべりも満足してもらうサービスが必要なのではないか……。私はそう思います。それが〈フィッシャー・チューニング・べースTOKYO〉ではできる。ここは理想の場所なんです」

  1. 伊東裕樹(いとう・ひろき)
    1967年生まれ 北海道上川町出身。〈フィッシャー・チューニング・べースTOKYO〉スーパーバイザー。ゴールドウイン事業部、フィッシャー事業部所属。3歳の頃からスキーを始める。日本体育大学体育会スキー部に所属しアルペン選手として各レースに出場。卒業後(株)ヤマハに入社しヤマハスキーチームのサービスマン、全日本チームオフィシャルサービスマン、サロモンチームサービスマンとして活動。皆川賢太郎、佐々木明などの選手のサービスマンとして23年間活動を続けた。

FISCHER TUNING BASE
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営業時間:11:00~19:00
定休日:水曜
HP:http://www.goldwin.co.jp/fischer/base/index.html

(写真 大野隼男 / 文 井上英樹)

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