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デザイナーの挑戦を形にするのが使命 稲垣慎吾

2018.08.31

創業の地、富山県に開発拠点を構えるゴールドウイン。毎年7月上旬、氷見市の松田江海岸でビーチクリーンを行っている。今年の開催日は、7月7日。あいにく荒天のため中止となってしまったが、この活動の中心となって動いているのが、HELLY HANSENのパタンナー、稲垣慎吾さんだ。

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「雨にもかかわらず、たくさんの方に集まっていただいたのに実施できず残念でした。昨年は、社員の家族、ユニフォームを提供している地元サッカーチームのカターレ富山のみなさん、ふだんお世話になっている取引先の方々と、100名近くが参加してくれました。地元の海岸をきれいにするのは、スポーツブランドを扱う企業として、フィールドを守りたいという思いから始まったこと。でも、僕にとっては、環境ボランティアをやっているという意識以上に、部署や会社の垣根を越えていろんな方と共有する楽しい時間という感覚です」

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美しいフィールドがあってこそのスポーツ

自然のダイナミズムを身体で味わえるフィールドスポーツ。その醍醐味を享受するには、人間が美しいフィールドを守らなければならない。そうした思いは、スポーツを愛する立場としても、そして“from ocean to mountain”をコンセプトにするブランド、HELLY HANSENに携わる身としても、強く持ち続けている。

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「会社がある富山県小矢部市は、海も山も近く、自然がほんとうに身近に感じられ、フィールドスポーツをするには素晴らしい環境です。HELLY HANSENはアウトドアブランドなので、実際の使い勝手を試すためにも、開発スタッフがフィールドに出て、自分たちでテストします。この前も、THE NORTH FACEの開発スタッフたちと20人くらいで立山に登山に行きました。個人的にも、普段から週末に登山やトレイルランニングをして楽しんでいます。その時も、ゴミを拾いながらやるようにしているんです。それは、富山で出会ったスポーツ仲間の影響もあります。50㎞のウルトラマラソンをゴミを拾いながら走り、Facebookに投稿していたのがカッコよかったんですよね。僕は、そこまでハードにスポーツをやっているわけではないんですが、ゴミを拾うのも楽しみのひとつとしてやり始めました」

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ランナーの視点をボランティア活動に生かす

ビーチクリーン活動の主体となっているのは、富山の社員で組織される委員会のメンバー。ここに稲垣さんは10年前の入社以来、ずっと所属している。社屋の裏で行われる地域の祭りの日にも清掃活動を行い、富山マラソンではエイドステーションを出す。自分がスポーツをしているからこそ、見えてくる視点もあるという。

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「富山マラソンは今年で4回目の比較的新しい大会ですが、1回目から参加させてもらっています。昨年は、大会事務局から許可を受け、10㎞地点の河川敷にテントを立て、ブドウ糖タブレットを配りました。ただ、僕は大会前日までは委員会の立場で動いているんですが、ボランティア活動をしてくださる方々には申し訳ないと思いつつ、当日はランナーとしてコースを走るので、エイドに元気をもらう側なんです(笑)。走っていて思うのが、30㎞地点にもエイドがあったらいいなということ。体力的にピークの地点ですし、コースが田んぼの中で風景が変わらず精神的なキツさも表れるころ。実現するかはわからないですが、コースを走ったことのあるランナー目線を持って、委員会の活動にも反映できたらいいですね」

今後は、委員会活動をもっと広く知ってもらい、参加率を上げたいと意気込む。それには広報活動が重要と今年から正式に広報チームが発足した。

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2017年に行われたビーチクリーンの様子(撮影 / 稲垣慎吾)

「みなさん、それぞれに事情があるのは重々承知の上なんですが、ビーチクリーンの参加メンバーは、ほぼ毎年固定化しているのが現状です。休日ですし、朝早いですから、二の足を踏む気持ちも理解はできます。それでも、目の前に広がる海を見ながら、環境にいいことができる喜びを味わいながらの活動は、シンプルに気持ちがいいもの。僕は写真が好きで、広報チームにも入っているので、参加者のいい表情をできるだけたくさん切り取り、活動を広く知ってもらい、参加率アップに繋げていけたらと考えています」

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デザイナーの挑戦を形にするのがパタンナーの仕事

稲垣さんは、モノ作りがしたくて、東京でアパレル専門学校に通った。卒業後の進路を考えた時に、スポーツブランドをやってみたいと思ったタイミングで、ゴールドウインで働く卒業生から紹介された。担当するHELLY HANSEに対する入社前の意識は、生まれ育った横浜に店舗があり「ロゴを見たことがあったくらい」。それが、パタンナーとしてブランドの一翼を担う存在に。

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「ちょうどブランドが大きな転換期を迎えた頃に配属され、チームの一員として一緒に盛り上げていきたいと思いました。デザイナーは常に、今までにない新しいことをやろうとします。それを実現させるのが、パタンナーの仕事。教科書があってそこに答えが載っているわけではないので、いろんな人に相談しつつ、ひとつひとつ試しながら実現していきます。ゴールドウインにはプロフェッショナルがいて、助けられっぱなしですね。たとえば、2018年の秋冬シーズンからゴアテックスを採用したウェアがHELLY HANSEとして初めて出るのですが、慣れなかったので試行錯誤がありました。これも、THE NORTH FACEの開発メンバーに助けてもらいながらできたことです」

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服作りをしていていちばん嬉しいのは、街中やフィールドでHELLY HANSEのウェアを着ている人を見たとき。

「とくに自分が担当した商品だと、『ありがとうございます!』とお礼を言いたくなります(笑)。今後の夢は、トップアスリートをウエア面からサポートしたいですね。2016年に、HELLY HANSENがウエアをサポートしている海洋冒険家の白石康次郎さんが、世界で最も過酷と言われる単独世界一周ヨットレース『ヴァンデ・グローブ』に日本人として初めて参戦しました。残念ながら、そのときはマストが折れるトラブルでリタイアされましたが、また4年後に挑戦すると宣言されていたので、その時にはウエア開発に関わっていたいです。世界一周なんて、自分では絶対にできないじゃないですか。でも、ウエア作りでサポートすることはできるかもしれない。自分が携わったウエアが世界一周の役に立てたら、これほど最高なことはないですね」

  1. 稲垣慎吾
    1987年生まれ。神奈川県出身。物心ついた頃からスキーを始め、小中学校は野球、高校では硬式テニス部に所属するなど、様々なスポーツを経験する。ゴールドウイン入社後は、社内のクラブ活動や友人の誘いをきっかけに登山やマラソン、ロードバイク、ビーチバレーボールなど多岐にわたってスポーツに取り組み、スポーツの楽しさを改めて実感している。現在のマイブームは海釣りで、天気の良い週末は海へ出かける。

(写真 茂田羽生 / 文 小泉咲子)

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