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スポーツを楽しむコツ

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低体温症、熱中症……山での病気はどう防ぐ?
国際山岳医とウェア開発者からのアドバイス
大城和恵 × 大坪岳人

2016.08.03

皆さん、2016年から国民の休日が1日増えることをご存じですか? それは来る8月11日、「山の日」です。施行の趣旨は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」こと。お盆休みと絡めて連休を取りやすく、山登りを楽しむ絶好の機会です。

ですが普段は穏やかで気持ちのいい山も、天候が荒れると厳しいものになり、毎年多くのハイカーがトラブルに見舞われています。中でも気をつけたいのが低体温症、ついで熱中症。最悪のケースでは命を落とすことも。そこで先日、ゴールドウインの主催で新聞などのメディアに向け、主にこの2つの症状への対応と予防の知識を深めるセミナーが開かれました。登壇したのは日本人初の国際山岳医・大城和恵先生と、ザ・ノース・フェイスのウェア開発を手掛ける大坪岳人さん。そこで、皆さんにもそのセミナーの内容をお伝えします。

    《大城和恵さん① 低体温症とは>》

    まずは三浦雄一郎さんが世界最高齢80歳でエベレスト登頂された際に遠征のチームドクターを務めた大城先生のお話しから。
    「低体温症は、滑落による外傷などと並んで山での主な死因のひとつです。遭難件数の統計をみると春・夏・秋・冬と通年発生しており、むしろ夏の事故事例が目立ちます。行きなれた山でも天候が崩れるなどして遭難することがあり、油断はできません。2009年7月には北海道のトムラウシ山で9名もの遭難事故死者が発生してしまいました。ちなみに北海道での低体温症の症例は、道外からの登山者がほとんどです。

    医学的には、脳や心臓など臓器の深部体温が35℃以下に低下した状態を“低体温症”といいます。といっても山では体温を測れませんよね。そこで症状の特徴である「震え」と「意識」に注目します。まずは震え。寒いときに小刻みに震えるのは、熱を生み出して体温調整するため。気がついたら小刻みに震えていた、というケースは低体温症の恐れがあるので十分に注意します。

    では震えがなくなると一安心かといえば、そうとも言い切れません。低体温症の症状が進むと震えが弱くなり、あるいは止まってしまいます。さらに意識が正常ではなくなります。意識が混濁するまでになってしまうと自力での回復は困難です。たちどころに悪化して、やがて呼びかけへの反応が鈍くなり、脈が止まってしまいます。
     低体温症は個人差が大きい症例です。脈が止まってしまっても、適切な処置を行えば蘇生するケースもあるんです」

    《大城和恵さん② 低体温症をふせぐために》

    「まずは震えの初期段階で『もしかしたら』と自覚をもつこと。そのうえで、体温を下げないためのポイントは4つ。食べる、隔離、保温、加温です。この4つは予防にも、いざ症状が出てしまった場合にも効果があります。
     人は食べないと熱を作り出せません。疲れていると嗜好性の高いものでないとなかなか喉を通らないので、“おいしいもの”を持ち歩きましょう。炭水化物が一番ですね。『隔離』というのは、風や雨雪から体を遮断したり、汗や雨で濡れた衣服を肌面から離すこと。水は空気に比べて、20倍も熱を奪うというデータがあるので、濡れた衣服は着替えましょう。また、頭と首は露出させないようにしっかり隠して『保温』してください。
     さらに、『加温』が行えるととてもいいですね。プラティパスなどの折りたたみ式の水筒、お持ちですか? これが実は使えます。お湯を入れて即席の“湯たんぽ”にして、からだの中央部(胸・腹など)にあてがって温めます」

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    《大城和恵さん③ 熱中症をふせぐために》
    「熱中症も夏の登山で多い病気です。症状には段階がありますが、たちくらみや目まいでフラフラするのは危険信号。日陰に入る、冷却するなどでからだを冷やす必要があります。
     ですが、野外での治療は医療に使えるものが限られるため、予防することが何よりも大事そのためには一にも二にも水分補給です。実際に山で熱中症になっている方に話を聞くと、そういえば朝から殆ど水を飲んでないわ、という人が多いですね。女性はとくに、トイレの回数を減らしたいので飲まない様にしている、と言います。大変危険です。私はいつも、出発前に朝食とは別に500ml飲むように薦めています。塩分が含まれた飲料がベターです。
     人体への最も有効な冷却手段は蒸発。そう、汗をかいて皮膚から気化熱を奪ってもらうことです。だから、山登りではドライ性能の高いウェアが必須なんです」

    《大坪岳人さん トラブルをふせぐためのウエアリング》

    次にザ・ノース・フェイスで登山ウェアのマーチャンダイザーを務める大坪さんから、ウェア選びのポイントをいくつか。
    「僕たちは登山者の命を預かるという意識で商品開発をしています。そのなかで誤解を恐れずに言えば、ウェアや用具にできることは限られているな、と感じます。大城先生のお話しに『低体温症のときは食べる…』とありましたが、ウェアは食べられませんし(笑)。
     ウェアができるのは、体温を不必要に上げない/下げないをサポートすること。そのためには下着、中間着、防水ジャケットなどのレイヤリングが大事で、ひとつのウェアだけで対応しきろう!とは思わないことです。ケースバイケースなので“これ”という正解例が示しづらいのですが、ひとつのウェアが多機能なのではなく、シンプルな機能のものを何着か重ね着するという意識です。」

    「たとえばザ・ノース・フェイスでは、水を含まないポリプロピレンという素材で作ったメッシュの下着があります。このうえに吸汗速乾性をもったベースレイヤーを重ねれば、多量に汗をかいてしまっても濡れ戻りでからだを冷やすようなことはありません。吸う服と吸わない服を使い分ける、とでもいいましょうか。これは大城先生が先ほどおっしゃっていた『隔離』にあたります。着替えができないときは肌に直に触れるウェアが最重要です。」

    ウエアは山での武器。正しい知識で使いこなしてほしい

    大城 大坪さんは「ウェアにできることは少ない」とおっしゃってましたが、いやいやウェアは生死をわけますよ。十数年前のジャケットで登られている高齢者の方をしばしばお見かけしますが、やはり心配してしまいます。新しいもの、高いものはそれだけ優れていますから。

    大坪 古いレインウエアは機能が劣るという面もありますが、それ以上に劣化して防水などの機能を果たせなくなっている恐れがあるので、確かに怖いです。

    大城 山という非日常の、不自由なところに行くわけですから、一番ストレスがないものを選びたいですよね。ウエアは武器になるんです。最低限パッと脱いで体温調節ができるアウター類はあった方がいい。

    大坪 なるほど、武器というのはうまい表現ですね。そのためにも人が重要で、武器である道具や服の機能と限界を知って、使いこなしてくださると嬉しいです。

    大城 そうですね。まずは道具に興味をもっていただき、実際に使ってみて理解してほしいですね。

    大坪 僕たちメーカーやショップも、道具に関することに限らず、山でのリスクや使える知識を「伝えていく」努力をしたいと思います。

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    2. 大城和恵(おおしろかずえ)
      1967年生まれ。長野県出身。医学博士。
      2010年に英国にて日本人初「UIAA/ICAR/ISMM認定 国際山岳医」取得。翌2011年に北海道警察山岳遭難救助アドバイザーに就任し、国内初山岳救助への医療制度導入を実現。三浦雄一郎氏エベレスト世界最高齢登頂遠征ではチームドクターを務めた。2010年マッキンリー山頂よりスキー滑降を行うなど、自身も本格的に山に親しむ。
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    2. 大坪岳人(おおつぼがくと)
      1979年生まれ。石川県出身。(株)ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業部アパレルグループマーチャンダイザー。
      登山とヨットが趣味で転勤族だった新聞記者の父親に寄り添い各地をまわり育つ。2004年入社、2006年よりアパレルG、MDアシスタントを経て現職。中学はハンドボール、高校はラグビー、そして現在はゴールドウインのサッカー部に所属するなど、根っからのチームスポーツ派。最近は家族や仲間とのキャンプが何よりも幸せに感じる二児の父。

    (写真 古谷勝 / 文 磯村真介)

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